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井原西鶴集

ジャパンナレッジで閲覧できる『井原西鶴集』の日本古典文学全集・世界大百科事典のサンプルページ

新編 日本古典文学全集
井原西鶴集
いはらさいかくしゅう
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【現代語訳】
けした所が恋のはじまり
桜もすぐ散ってしまって嘆きの種だし、月も限りがあって山の端にはいってしまう。そんなはかない眺めよりもと、限りのない、女色・男色の二道に打ち込んで、夢介と替名を呼ばれる太尽は、その名も月の入佐山という歌名所のある但馬国生野銀山のあたりから、世事を捨てて、その道ばかりで京へ出てきた人であった。当時有名の遊蕩児、名古屋三左や加賀の八などと、菱の七つ紋を印として徒党を組み、身は酒浸しとなり、夜更けて三筋町からの帰り道、一条堀川の戻り橋を通るのに、あるときは若衆に扮するかと思えば、またあるときは坊主に変装したり、立髪鬘をかぶって男伊達になったり、場所柄だけに化物が通るとはこのことである。何かと噂されても、鬼を背負うた彦七のように平気な顔つきで、「太夫にかみ殺されても」と通いつめたので、いよいよ情が積もり、夢介はそのころとりわけ全盛の太夫葛城・薫・三夕の三人を、それぞれ身請けして、嵯峨や東山のほとり、または藤の森などに人知れず囲い、契りを重ねているうちに、その中の一人の腹から生れた子を、世之介と名づけた。

【目次】
目次
古典への招待
凡例
好色一代男(扉)
■絵入 好色一代男 一(扉)
巻一 あらまし
好色一代男 巻一 目録
・けした所が恋のはじまり
・はづかしながら文言葉
・人には見せぬ所
・袖の時雨は懸るがさいはひ
・尋ねてきく程ちぎり
・煩悩の垢かき
・別れは当座ばらひ

■絵入 好色一代男 二(扉)
巻二 あらまし
好色一代男 巻二 目録
・はにふの寝道具
・髪きりても捨てられぬ世
・女はおもはくの外
・誓紙のうるし判
・旅のでき心
・出家にならねばならず
・うら屋も住み所

■絵入 好色一代男 三(扉)
巻三 あらまし
好色一代男 巻三 目録
・恋のすて銀
・袖の海の肴売
・是非もらひ着物
・一夜の枕物ぐるひ
・集礼は五匁の外
・木綿布子もかりの世
・口舌の事ふれ

■絵入 好色一代男 四(扉)
巻四 あらまし
好色一代男 巻四 目録
・因果の関守
・形見の水櫛
・夢の太刀風
・替つた物は男傾城
・昼のつり狐
・目に三月
・火神鳴の雲がくれ

■絵入 好色一代男 五(扉)
巻五 あらまし
好色一代男 巻五 目録
・後は様付けて呼ぶ
・ねがひの掻餅
・欲の世の中にこれは又
・命捨てての光り物
・一日かして何程が物ぞ
・当流の男を見しらぬ
・今ここへ尻が出物

■絵入 好色一代男 六(扉)
巻六 あらまし
好色一代男 巻六 目録
・喰ひさして袖の橘
・身は火にくばるとも
・心中箱
・寝覚の菜好み
・詠めは初姿
・匂ひはかづけ物
・全盛歌書羽織

■絵入 好色一代男 七(扉)
巻七 あらまし
好色一代男 巻七 目録
・その面影は雪むかし
・末社らく遊び
・人のしらぬわたくし銀
・さす盃は百二十里
・諸分の日帳
・口添へて酒軽籠
・新町の夕暮島原の曙

■絵入 好色一代男 八(扉)
巻八 あらまし
好色一代男 巻八 目録
・らく寝の車
・情のかけろく
・一盃たらいで恋里
・都のすがた人形
・床の責道具
〔一代男跋文〕

好色五人女(扉)
■ひめぢ ニ すげがさ 好色五人女 ゑ入 一(扉)
巻一 あらまし
好色五人女 巻一 姿姫路清十郎物語
・恋は闇夜を昼の国
・くけ帯よりあらはるる文
・太鼓による獅子舞
・状箱は宿に置いて来た男
・命のうちの七百両のかね

■てんま ニ たる 好色五人女 ゑ入 二(扉)
巻二 あらまし
好色五人女 巻二 情けを入れし樽屋物がたり
・恋に泣輪の井戸替
・踊はくづれ桶夜更けて化物
・京の水もらさぬ中忍びてあひ釘
・こけらは胸の焼付さら世帯
・木屑の杉やうじ一寸先の命

■みやこ ニ こよみ 好色五人女 ゑ入 三(扉)
巻三 あらまし
好色五人女 巻三 中段に見る暦屋物語
・姿の関守
・してやられた枕の夢
・人をはめたる湖
・小判しらぬ休み茶屋
・身の上の立聞き

■江戸 ニ あを物 好色五人女 ゑ入 四(扉)
巻四 あらまし
好色五人女 巻四 恋草からげし八百屋物語
・大節季はおもひの闇
・虫出しの神鳴もふんどしかきたる君さま
・雪の夜の情宿
・世に見をさめの桜
・様子あつての俄坊主

■さつま ニ さらし 好色五人女 ゑ入 五(扉)巻五 あらまし
好色五人女 巻五 恋の山源五兵衛物語
・連吹きの笛竹息の哀れや
・もろきは命の鳥さし
・衆道は両の手に散る花
・情はあちらこちらの違ひ
・金銀も持ちあまつて迷惑

好色一代女(扉)
■絵入 好色一代女 一(扉)
巻一 あらまし
好色一代女 巻一 目録
・老女のかくれ家
・舞ぎよくの遊興
・国主の艶妾
・淫婦の美形

■絵入 好色一代女 二(扉)
巻二 あらまし
好色一代女 巻二 目録
・淫婦中位
・分里数女
・世間寺大黒
・諸礼女祐筆

■絵入 好色一代女 三(扉)
巻三 あらまし
好色一代女 巻三 目録
・町人腰元
・わざはひの寛濶女
・調謔歌船
・金紙匕髻結

■絵入 好色一代女 四(扉)
巻四 あらまし
好色一代女 巻四 目録
・身替長枕
・墨絵浮気袖
・屋敷琢渋皮
・栄耀願男

■絵入 好色一代女 五(扉)
巻五 あらまし
好色一代女 巻五 目録
・石垣の恋くづれ
・小歌の伝受女
・美扇恋風
・濡問屋硯

■絵入 好色一代女 六(扉)
巻六 あらまし
好色一代女 巻六 目録
・暗女は昼の化物
・旅泊の人詐
・夜発の付声
・皆思謂の五百羅漢

■解説
一 好色一代男
二 好色五人女
三 好色一代女

■付録(扉)
西鶴の時代の通貨
『好色一代男』の舞台
諸国遊里案内
西鶴年譜

■奥付



世界大百科事典

西鶴
さいかく
1642-93(寛永19-元禄6)

江戸前期の俳人,浮世草子作者。宗因門。姓は井原。別号は鶴永,雲愛子,四千翁,二万翁,西鵬(さいほう)。軒号は松風軒,松寿軒,松魂軒。出自や家系はすべて明らかでないが,一説によると,俗称を平山藤五という大坂の裕福な町人で,名跡を手代に譲り,気ままに生きることを選んだという(《見聞談叢》)。彼自身,15歳のころ俳諧を始め,21歳のころ点者になったというが,師承系列も明らかでなく,立机(りつき)の時期も,歳旦吟(歳旦帳)の見え始める1672年(寛文12)31歳のころとすべきであろう。翌73年(延宝1),貞門から異端視されていた宗因ら新興勢力の楯となるかたちで《生玉万句(いくたままんく)》を興行,また大坂俳壇の正統的な人脈の中に自己を位置づけるべく《哥仙(かせん)大坂俳諧師》を編んで,中央俳壇進出の望みを果たした。俳風は奇抜な談林風を基調としつつ,世俗の人情や生活に根ざした〈俳言(はいごん)〉を〈軽口(かるくち)〉に任せて速吟する点に特徴があった。75年4月,3人の幼児をのこし25歳の若さで病没した愛妻追善のため《独吟一日千句》を興行,同年冬,剃髪して僧形となった。速吟の傾向はこのころからいっそう強まり,77年に1日1600句の独吟《西鶴俳諧大句数(おおくかず)》,80年に同じく4000句の独吟《西鶴大矢数(おおやかず)》を成就した。80年代(天和・貞享期)の俳諧は,漢詩文もどきのことば遊びから優美な連歌調へ,〈親句(しんく)〉の付合(つけあい)から〈疎句(そく)〉の付合へと急速に移り変わったが,今様の風俗を俳言と俳言の緊密な付合上に描き出そうとする親句主義の西鶴はこれについてゆけず,一時俳諧の制作から遠ざかった。しかし俳言による表現意欲は衰えず,一般に俳人の転合書(てんごうがき)というかたちで存在した散文の制作に力を入れ,82年(天和2)《好色一代男》を完成,これが浮世草子の第1作となった。

 小説として豊かに肉づけられたこの俳言の書は,俳人層を中心にひろく受け入れられ,版を重ね,西鶴の作家的自覚と書肆の出版意欲とを促し,84年(貞享1)には〈世の慰草(なぐさみぐさ)を何かなと尋ね〉た遊里小説集《諸艶大鑑(しよえんおおかがみ)》(別称《好色二代男》)が出された。この年また矢数俳諧に挑み,時代錯誤とはいえ,1日独吟2万3500句という,余人の追随を許さぬ快記録を立てたことで,いよいよ作家活動へのふんぎりがついたとみえ,翌85年から88年(元禄1)にかけての短期間に,《西鶴諸国はなし》《椀久(わんきゆう)一世の物語》《好色五人女》《好色一代女》《本朝二十不孝》《男色(なんしよく)大鑑》《懐硯(ふところすずり)》《武道伝来記》《日本永代蔵(えいたいぐら)》《武家義理物語》《嵐無常物語》《色里三所(みところ)世帯》《新可笑記》《好色盛衰記》《本朝桜陰比事》など,浮世草子の大半を書き上げた。それらは,色欲や物欲のためにくりひろげられるさまざまな男女の悲喜劇を,話芸的方法で描いた短編小説集であるが,故事・古典のタネを今様にふくらませるしかたに俳諧性が感じられ,個々の話が主題への凝集性をもたず,人物,素材,話柄などの外枠によって集成され,著しく未完結的である点に前近代的な性格が認められる。

 89年ころから俳壇に復帰,西鶴らの評点を笑いものにした《俳諧物見車(ものみぐるま)》(1690)への反論書《俳諧石車》(1691)の述作に情熱を燃やすなど,健在ぶりを示した。一方,散文の面では,92年名作《世間胸算用(せけんむねざんよう)》を制作,市井の片隅にうごめく無名の人々の生きざまを,大晦日の一日に限定して描いてみせ,作家西鶴の一つの到達点をうかがわせた。翌93年8月10日,〈人間五十年の究り,それさへ我にはあまりたるに,ましてや〉と前書き,〈浮世の月見過しにけり末二年〉(《西鶴置土産》)の吟を辞世に,大坂で没した。52歳。墓は八丁目寺町誓願寺(現,大阪市中央区上本町西)にある。法名は仙皓(せんこう)西鶴。没後,《西鶴置土産》《西鶴織留(おりどめ)》《西鶴俗つれづれ》《万の文反古(よろずのふみほうぐ)》《西鶴名残の友》などの遺稿が,門人北条団水によって整理され,出版された。〈大晦日さだめなき世の定めかな〉(《三ケ津》)。
[乾 裕幸]

[索引語]
鶴永 平山藤五 哥仙(かせん)大坂俳諧師 独吟一日千句 西鶴俳諧大句数(おおくかず) 西鶴大矢数(おおやかず) 親句 疎句 俳諧物見車(ものみぐるま) 俳諧石車 西鶴織留(おりどめ) 西鶴俗つれづれ 西鶴名残の友
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