英語教育に携わって私が強く実感していることは、外国語習得には母語の国語力が非常に重要だということです。われわれ教育者も常に外国語と日本語の関係性を念頭に置いて、教育を考えていく必要があると考えています。どういうことか具体的に説明しましょう。
たとえば、科学のある法則について、日本語ですでにそれを学習し、理解していれば英語でも理解しやすくなります。外国語習得の効果的な方法の一つに「多読」がありますが、多読の際に日本語での背景知識があるかないかで、理解のスピードや集中力が大きく変わってくるのです。私は自分の授業でも、生徒に多読させ、生の英語に触れる機会をつくっていますが、やはり事前に日本語の資料を収集させて予備知識をつけさせるようにしています。こうすることで、初めて読む英文の内容でも、コンセプトを理解しているので内容を格段に理解しやすくなるのです。
ジャパンナレッジは、この多読を効果的に行うツールとして、非常に役立つものだと考えています。『日本大百科全書』や『現代用語の基礎知識』などで事前に背景知識を強化しておくことが容易にできます。さらに、『ランダムハウス英和大辞典』をはじめ、『プログレッシブ英和中辞典』『プログレッシブ和英中辞典』が同時に検索できることにより、背景知識の収集を行いながら、英単語や例文なども参照できるのは非常に便利です。
統計的にははっきりしていませんが、母語でのコミュニケーション能力(読み・書き・話す)が高い人は、外国語を習得する際のコミュニケーション能力も高いというケースが多いといわれています。つまり日本語力の高さが外国語習得のカギになるといえるでしょう。
こうした新しいリファレンスのデータベースに、私が長くかかわってきた「コーパス」があります。『100語でスタート英会話』に登場する「コーパス君」は、このデータベースに由来するキャラクターです。「コーパス」とは、イギリスで辞書作りに大革新をもたらした膨大な英文データベースのことです。生の英語データに特殊な処理を施して、コンピュータ上で英文を自由に引き出したり、ある単語についてのデータを集計したりということが、自由に効率よく行えるようになるのです。集められる英文データは、現実の世界を忠実に反映させるよう、非常に注意深く、あらゆる方面からバランスよく収集されています。
このコーパスがもたらした革新の一つは、辞書作りが根本的に変わったことでした。それまで辞書の中の例文は、学者が頭の中で作り出したものでしたので、語法としては正しくても、実際には不自然な例文が数多くありました。ところがコーパスを辞書作りに活用することで、生の例文を使用することができるようになり、辞書が“生きた英語”を学べるものへと変わったのです。また、統計データを収集することで、語法についても今まで誰も気づかなかった客観的な規則性が発見されるようになりました。
イギリスで“ビッグ4”と呼ばれる英語辞典(LDOCE、COBUILD、OALD、CIDE)はこのコーパスをいち早く取り入れ、新しい辞典が次々に生まれることになりました。もちろん、日本にもその流れは波及し、「コーパス」という言葉は辞書作りにおけるキーワードになりつつあるのです。
8月14日から、私が監修したSCN(小学館コーパスネットワーク)のサービスが開始されます。通常の参考書や辞書とは異なり、生の英語に触れることができるコーパスは、英語のネーティブ・スピーカーに語法を尋ねるのと同じようなものです。コーパスは、ジャパンナレッジと同様、教育現場で新しいリファレンス・ツールとしてさまざまな使われ方がなされ、今後の英語教育になくてはならいものになっていくと信じています。
SCN(小学館コーパスネットワーク)のURLは、
http://www.corpora.jp/