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2003年04月

JKボイス-私はこう使っています:ジャパンナレッジ 『万有図書館』開館記念荒俣氏に訊く、
“デジタルメディアの可能性”

荒俣 宏さん
(あらまたひろし)
小説家、博物学研究家
 デジタル技術の発達は、本を紙に書かれたものから、解放した。しかし、デジタルの本が万能かと言えば、そうではない。紙に書かれた本にも、デジタルの本にも、それぞれの長所・短所がある。本とは何なのか。21世紀の本の在り方を探るとき、これまで人類が本として扱ってきたものを見直す意義は大きいだろう。この4月に「新・想像力博物館」で、ご自身の貴重なコレクションを含む『万有図書館』を開館された、荒俣宏氏に訊ねてみた。

最高の「知の装置」としての本

 今回、オープンした『万有図書館』は、わたしの長年の思いが詰まったコンテンツです。というのも、デジタル技術が発達し、CD-ROMやDVD-ROM、Webサイトが現われてきたことにより、紙に書かれた本が、必ずしも書物の最終形とは言えなくなってきたからです。もちろん、電子書物も万能ではありません。『万有図書館』では、「本 = コンテンツ+メディア」として捉えていますから、ロゼッタストーンのように石に彫られたものから、Webまでが「本」として扱われています。これは画期的なことです。

 このサイト自体も、図書館はひとつのメタファーで、「本」と呼んでも差し支えのないものです。石板は、重く携帯には適しませんが、保存面では、デジタルの本よりも遙かに恒久性にすぐれています。人類が生みだした最高の「知の装置」としての本。『万有図書館』は、21世紀の本を考えるには、形態、内容を問わず、これまでの本が語ってくれるものに耳を傾けることから、という思いでつくりはじめました。ふつうの図書館では、まずお目にかかれないようなものが、ご覧いただけるでしょう。次回からは「特別展示室」もオープンさせます。期待していてください。

情報そのものだけでなく道案内が大切

 『高層建築の世界』、『セクシー・ガール』、『驚異の魚たち』、『空似曼陀羅』と、ひとつひとつのコンテンツは、かなり違って見えますが、すべてねらいは同じです。「新・想像力博物館」で、わたしがスタッフのみんなとやろうとしているのは、新たなインターフェイスとしての提案で、アクセスすべき宝は、世界中にあると思っています。単なるポータルサイトではなく、並べてみるという博物学の基本と、空間的に把握する感覚も盛り込もうとしているので、すこし重たいかも知れませんが、これからのインフラを考えれば問題はないでしょう。

 知の冒険を果てしなく続けていけるWebの世界にあっては、情報そのものだけでなく、そこに広がる宝の山に分け入っていくための道案内が大切だと考えています。「新・想像力博物館」の枠組みから入っても、そこで、ご自分なりの興味を見つけられたら、あとは枠組みを壊したり、新たにつくったりして、どんどん進んで行かれることでしょう。答えではなく、新たな謎と出会う楽しさ。これこそが、「想像力」の作用です。そして、これまで別々のものと思っていたものが、ふと、繋がるときの歓び。その知的興奮と快感とを味わっていただければと思います。

ジャパンナレッジ発展のカギは「想像力」

 ジャパンナレッジも、かなり辞書や事典が揃ってきましたし、知の世界に対する将来的な提言という意味からも、もっともっと知られて欲しいサイトですね。使う側からすると、新しいものだけでなく、昔の人名や地名、新聞記事、伝説などもいっしょに調べられるようになるといいのですが……。『日本国語大事典』がいつ入ってくれるのか、というのも楽しみのひとつです。

 デジタルによって、百科事典がメディアの制約から物理的に解放された現在、知の装置としての巨大アーカイブが、今後どのようになっていくのかは、興味ぶかいものがあります。その決め手は、「想像力」であり、問いかける能力です。ユーザーの活用例を分析しながら、これらをどう活かしていけば、ほんとうの「知的遊園地」となれるのか。これが課題でしょう。

 ときどき『万有図書館』の「百科」の棚に、このJapan Knowledge全体が入っていたら、という落語の「あたまやま」のような空想をしてしまうのですが、それだけ書物の世界というか、知的冒険の世界は、広く深く、果てしないのだと思っています。