英語教育に携わって私が強く実感していることは、外国語習得には母語の国語力が非常に重要だということです。われわれ教育者も常に外国語と日本語の関係性を念頭に置いて、教育を考えていく必要があると考えています。どういうことか具体的に説明しましょう。
たとえば、科学のある法則について、日本語ですでにそれを学習し、理解していれば英語でも理解しやすくなります。外国語習得の効果的な方法の一つに「多読」がありますが、多読の際に日本語での背景知識があるかないかで、理解のスピードや集中力が大きく変わってくるのです。私は自分の授業でも、生徒に多読させ、生の英語に触れる機会をつくっていますが、やはり事前に日本語の資料を収集させて予備知識をつけさせるようにしています。こうすることで、初めて読む英文の内容でも、コンセプトを理解しているので内容を格段に理解しやすくなるのです。
ジャパンナレッジは、この多読を効果的に行うツールとして、非常に役立つものだと考えています。『日本大百科全書』や『現代用語の基礎知識』などで事前に背景知識を強化しておくことが容易にできます。さらに、『ランダムハウス英和大辞典』をはじめ、『プログレッシブ英和中辞典』『プログレッシブ和英中辞典』が同時に検索できることにより、背景知識の収集を行いながら、英単語や例文なども参照できるのは非常に便利です。
統計的にははっきりしていませんが、母語でのコミュニケーション能力(読み・書き・話す)が高い人は、外国語を習得する際のコミュニケーション能力も高いというケースが多いといわれています。つまり日本語力の高さが外国語習得のカギになるといえるでしょう。
ところで、ネットワークの発達によってジャーナリズムの現場も大きく変わってきました。実際、私が退職する数年前、朝日新聞社でも全社員にパソコンが給与されました。そして、使いこなせる連中は、画面と向き合う時間がどんどん長くなっていきました。地球の裏側の情報だって瞬時に手に入れることができるし、公官庁や企業のホームページも、どんどん充実してきていますから、ある程度の情報はいつでも閲覧できます。つまり、基本的な“取材”や事実確認は、時間を選ばず、座ったままで行えます。記者にとって、これほど便利なことはありません。記者時代、とにかく足で情報を収集し、原稿用紙とにらめっこしていたかつての自分の姿が、縄文人か、弥生人のように感じてしまうほどです。
いずれにせよ、記者たちも画面の上で多くの情報を収集し、そしてそのまま原稿を入力するようになってきました。たとえば、ニュースバリューを判断したり、過去の事実を確認するために自社の過去記事のデータベースを検索する記者は多いようです。ただ、過去記事の検索は、言葉の意味や歴史的事実を調べるのには向きません。そういう検索は、やはり百科事典が最適です。そんな百科事典の知識を画面上で確認できるネット上の辞典サイトは便利な、特に締め切りが迫っている段階では重宝するはずです。中でも、ジャパンナレッジは複数の辞事典を横断して閲覧できるだけに、よりありがたい存在といえます。
ジャパンナレッジに注文があるとするなら、欧米の辞事典をより多くタイアップしてほしい。そうなれば、大学などの研究者が非常に重宝するはずです。ジャパンナレッジの質と信用も大きく向上させることにつながるでしょう。