リーマンショック後のアメリカで、「マンセッション(mancession)」という言葉が流行した。男性の失業が女性よりも深刻な状態をさす、man(男性)とrecession(景気後退・不況)の合成語だ。2012年には永濱利廣(ながはま・としひろ)氏の著書『男性不況── 「男の職場崩壊」が日本を変える』(東洋経済新報社)が上梓 、「男性向き」とされてきた仕事が減った状況が、日本でも認識されつつある。

 ここでの「男性向きの仕事」の例として、製造・建設業が挙げられることが多い。日本企業の生産拠点の多くが海外に移ったことで、男性は雇用を奪われた。そもそも、時代が製造業からサービス業へのシフトを求めているといえる。また一方では、女性が活躍する医療・福祉分野などでの需要は増すばかりだ。昨今の男性は「草食系男子」などと茶化されるが、労働力としても相対的に旧来型の「男らしさ」を失いつつあるのである。

 「家計の中心」は男女どちらでもよい。だが、男性不況が進んだあげく、女性の厳しいお眼鏡にかなう結婚相手が見つからず、さらなる少子化につながるといった指摘もある。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 政府の産業競争力会議で議論している雇用改革の一つで、企業がお金を払って社員を解雇できるようにする制度のこと。3月6日にもたれた同会議の「雇用制度改革」分科会第1回会合で、その創設が中心議題となった。

 従来、「雇用維持」に力点をおいてきた我が国の労働政策にとしては大きな転換といえる。狙いは労働市場の流動化だ。

 現在、正社員の雇用は労働契約法や判例で厳しく守られている。そのため、企業は経済環境に柔軟に対応すべく、正規社員の雇用を避け、契約社員やパート、アルバイトで賄(まかな)おうとする。これが、金銭を払って解雇できるようになれば、企業としては正社員を雇いやすくなるという理屈だ。

 金銭解雇ルールには、労働力を流動化させ、成長産業への人材流入を図る狙いもある。「経済成長のためには、生産性の低い産業から生産性の高い産業への労働移動を促進していかなければならない」(同会議資料)からだ。

 もっともサラリーマンからは「企業の都合で、整理解雇されてはたまらない」といった悲鳴が聞こえてきそうだ。

 

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 二十四節気七十二候で3月下旬を表すことばは、「桜始開(さくらはじめてひらく)」である。日本中が待ち焦がれていた桜前線が、平年より早い開花速報とともに北上を始めている。この時期の日本列島といえば、南下と北上を繰り返す寒気の影響で天候が変わりやすく、小春日和のような暖かな日もあれば、不意に寒さが戻ったり、雪が舞ったり。花冷えは、桜の華やかな花の陰に見え隠れしながら静かに消えゆく、わずかな冬の名残がもたらす寒さである。

 京都の花冷えは、「比良八講(ひらはっこう)荒れじまい」のためだという話を聞いたことがある。比良八講というのは、比叡山の北方の琵琶湖西岸に連なる比良山山中で、天台宗の行者が法華八巻の講義問答をしていたという法会のことである。現在は毎年3月26日に琵琶湖で湖上法要などが行なわれている。ちょうどこの時期に寒気がぶり返し、比良山と琵琶湖には寒波の突風が吹き荒れる自然現象が起こるという。この比良八講荒れじまいと呼ばれる突風が、冬の名残を吹き飛ばし、湖国に本格的な春到来を告げるそうである。


比叡山より北東を見る。中央奥の頂に雪を残した山々が春の比良山系。右奥の霞がかっているところが琵琶湖。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 婚活とは「就活(就職活動)」から派生した言葉で結婚活動を縮めたもの。中央大学の山田昌弘教授が“産みの親”とされる。

 『週刊新潮』(3/28号)は「妙齢女性が殺到する『婚活神社』十傑のご利益」という特集を組んでいる。500人の婚活女性を取材したという、にらさわあきこさんの見解を参考に、『新潮』が婚活神社十傑を選んでいる。

 10位は東京都渋谷区の「代々木八幡宮」。「数年前にパワースポットが流行ったころに有名になりました」(にらさわさん)。静かに婚活詣でをするのにいいという。9位は鎌倉市の「鶴岡八幡宮」。どちらかというと「婚活に成功した人に勧めたい」(同)そうである。

 8位は三重県伊勢市の「伊勢神宮」。「良縁を謳(うた)っているわけではありませんが、皇室人気も相まって」(同)絶大な人気だそうである。7位は埼玉県川越市の「川越氷川神社」。「境内の小石をお浄めした“縁結び玉”を、毎朝20人に配っています」(神社の関係者)。末広がりで縁起のいい8時8分に良縁祈願祭を行なったり、お守りや絵馬を渡している。

 6位は京都市にある「安井金比羅宮(こんぴらぐう)」。宮司は「当宮は、一切の欲を断ち切って参籠された崇徳(すとく)天皇をお祀りしていますので、悪縁を切って良縁を持つご利益がございます」と話す。5位は60年ぶりの大遷宮が行なわれている島根県出雲市の「出雲大社」。創建の逸話が『日本書紀』にも記されている神話の故郷。県と出雲市などが「神話の国縁結び観光協会」を立ち上げたり、出雲空港を「出雲縁結び空港」と改名するなどの取り組みが功を奏して、若い女性たちが押しかけているそうだ。

 4位は島根県松江市の「八重垣神社」。ここは素戔嗚尊(すさのおのみこと)と稲田姫が住居を構えた場所にあるそうで、古くから縁結びの神社として知られている。社務所で売られている薄い半紙の中央に小銭を乗せ池に浮かべ、紙が遠くに流れていけば遠くの人と縁があり、早く沈めば早く縁づくとされるそうである。多い日は半紙が数百枚売れるそうだから、なかなか商魂たくましい。

 3位は東京都台東区の「今戸(いまど)神社」。宮司の妻・市野恵子さんがこう話す。「5年前から縁結び会を月に1、2回行っていて、全国から来られて、結婚したカップルは40~50組にも上ります」

 2位には伊勢神宮の東京における“分社”に当たる千代田区の「東京大神宮」。「神前結婚式が初めて行われた神社で、縁結びのご利益でも知られ、お守りの数も多いです」(関係者)

 堂々の第1位は神奈川県箱根町にある「九頭龍(くずりゅう)神社」。正月恒例になっている箱根駅伝の往路の終点に近い箱根神社の“分社”で、遊覧船などに乗らなければ行けない。「祀られているのは龍の神様だから、商売繁盛にいいのかと思っていたけど、いつの間にか縁結びによいと口コミで広がってテレビの取材も増えた」(神社の関係者)。多い日は20代、30代の女性が1000人くらい来るそうである。

 先の「今戸神社」の市野さんは、常々、婚活女性たちにこう苦言を呈しているという。

 「婚活がうまくいかない人は心を入れ替えなきゃダメ。欠点を注意するし、服装や態度の指導もしますよ。お守りを持ってじっとしていてはダメ。9割は自分の努力、残りの1割は神様のご加護のつもりでね」

 神様だって「高収入でやさしくてハンサム」な手持ちの男にはかぎりがある。分けていただくためには、日々自分を磨く努力が必要なこと、いつの世も変わらない。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 衆議院議員・東国原英夫(ひがしこくばる・くにお)氏の出身地としても有名な、宮崎県都城市(みやこのじょうし)にある「大杉しいたけ園」。伝統ある農家で、「およそ東京ドームの10個に相当する山林」(公式ホームページより)を持ち、しいたけの原木となるクヌギから育てている。手間のかかる自然栽培や無農薬のポリシーで、評判の高い業者である。

 現在この園では、その味わいが「ホタテ」にもたとえられるしいたけが注目を浴びている。その名も「よかにせどんこ」。「よかにせ」は、九州の方言で「男前」といった意味である。かねてから究極のしいたけとして有名だったが、人気テレビ番組『ほこ×たて』の企画で取り上げられ、さらに知名度を上げた。炭火焼や天ぷらにして食べると、そのジューシーさに驚かされる。2013年3月現在、品薄状態が続いているが、お取り寄せでいくら待っても食べたい逸品だ。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 世界最大の水深63mのコンクリートの防波堤(全長2km、海面からの高さ8m)を備えていた岩手県釜石市。しかし、東日本大震災の大津波は、その頑丈な堤防をも破壊。人の力が及ばない自然の脅威を思い知らされた。

 一方、タブやカシ、ヤマツバキなど、在来の樹種が生えていた場所は、斜面の土砂こそ津波で流されたものの、木々は根を張り津波を抑える役割を果たしていた。

 植物生態学者で横浜国立大学名誉教授の宮脇昭(みやわき・あきら)氏は、震災直後から東北の被災地を調査。在来樹木の持つ力に着目し、震災で出たガレキを活用しながら森の防潮堤を作ることを提案。細川護熙(もりひろ)元総理らとともに「森の長城プロジェクト―ガレキを活かす―」を立ち上げた。

 被災地ではいまもまだガレキの処理が問題になっているが、このプロジェクトではガレキを焼却せずに土と混ぜて被災地の沿岸部に掘った穴に埋めて小高い丘(マウンド)を作る。その上に東北地方の自然植生であるタブやシイなどの苗を植えていけば、10~20年で防災・環境保全林ができるという。これらの樹木は地中に深く根を張るので、巨大な津波がきても簡単には倒れず、津波の威力を弱め、引き潮ではフェンスとなって海に流される人を救うことも期待できる。

 ガレキの90%以上は木材や住宅の土台のコンクリートなどで、そこで暮らしていた人々の歴史や思い出がしみ込んだものだ。それを用いることは鎮魂の意味でもふさわしい。

 「森の長城プロジェクト」では、青森から福島の太平洋岸の300kmに森の防潮堤を築くために、タブやシイのポット苗9000万本の生産と植樹をすることを目標としている。

 活動資金を集めるために、今年2月21日には秋元康さん(作詞家)、吉永小百合さん(女優)ら著名人が参加するチャリティオークションも開催された。3000万円を超える寄付金が集まったが、活動を続けるために一般の寄付も募集している。

 こうした市民の動きと逆行して、宮城県では海を覆うようなコンクリートの巨大防潮堤の建設計画が進んでいる。だが、自然の力は人智を超える。人が作ったものに「絶対」はない。

 津波から人の命を守ってくれる防潮堤は、コンクリートなのか、緑の森なのか。答えは次の津波が教えてくれるだろう。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 セクハラ・パワハラなど、権限を笠に着た行為は職場にとって大きなマイナスだが、ハラスメントをしている本人に自覚がないという場合、問題をややこしくする。最近とみに語られるようになった「ソーハラ」もまた然り。「ソーハラ」の「ソー」とは、FacebookやTwitterなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のこと。典型的な例が上司からの「友達申請」。基本的に「身内」だけを相手にしているSNSという空間では、上司は「招かれざる客」となる場合が少なくない。

 ささいな会社への愚痴も書けないようでは、(もともと不用意な投稿を避けるべきとはいえ)ガス抜きとしてのSNSの存在意義も失われてしまうだろう。さらには、「プライベートも監視されている」「興味がないつぶやきに『いいね!』を強要される」と感じてしまう向きもある。上司にしてみれば軽いコミュニケーションツールのつもりでも、部下にとっては悩みの種になっているのだ。こうした認識のずれは、いかんともしがたい。会社で上にいるような世代は、ネット上の住み分けの感覚が希薄で、残念ながらなかなかその溝を埋められないのである。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


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