2013年4月、改正高年齢者雇用安定法が施行される。同法の改正により、企業に対し「希望者全員の65歳までの雇用」を義務づけることになった。雇用延長の方法については(1)定年引き上げ(2)定年廃止(3)継続・再雇用、の3つがある。
 法改正の背景には、2013年度から25年度にかけて厚生年金の支給年齢が現行の60歳から65歳まで段階的に引き上げられることがある。現行の「60歳定年」だと、年金も賃金もない無収入の「空白期間」が5年間も生ずるため、65歳までの雇用の確保が求められるわけだ。
 老後のことを考えるとほっとする措置だが、しわ寄せも。
 まず、企業が高齢者の雇用延長で、新卒採用を抑制することがある。非正規の若年労働者の増加が問題になっている中で「世代間対立」が改めて顕在化しそうだ。
 また、60歳以上の高齢者を再雇用・継続雇用にすることで、企業はその分、人件費負担が増えることになるが、その原資は50歳代以下の賃下げで対応することになる。みずほ総合研究所の試算によると、再雇用者増加による人件費増は、13年度で0.4兆円、25年度で1.9兆円という。
 賃金制度の見直しは、2013年春闘の争点の一つになりそうだ。

 

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 酒粕(さけかす)の別名である。ただし、酒粕はいつでも手に入るものだが、板御神酒は違う。新酒の酒粕である新粕(しんかす)ができる、12月~2月ごろまでに限られている。秋に収穫した酒米を醸(かも)し、その醪(もろみ)から酒を絞り取ったばかりの酒粕のことであり、これは酒以上にぷんぷんと芳醇(ほうじゅん)に香り、潤いも十分で酒の成分を多く含む。なかなか手ごわい一品である。醪(もろみ)を酒袋に入れ、槽(ふね)で圧搾して酒を絞っていたころの板御神酒は、それはおいしかったという。現代は合理的な圧搾機で酒を絞り取るため、残り物の酒粕は、かすかすとして潤いがなくなってしまうのである。板御神酒の「お」や「み」とは、本来は褒めそやす美称の意味があり、昔の人は特別な新粕を「かす」とはいわず、板御神酒という美名を与えたのかもしれない。
 板御神酒を食べるなら、黒糖などを包み込んで焼き、溶けた糖分が表面にしみ出てくるぐらいのを熱々でいただくのがうまい。体も芯(しん)からぽかぽかしてくる。酒粕はタンパク質やアミノ酸、核酸などが豊富で、麹(こうじ)の酵素が生きた健康食そのものである。京都では鰤(ぶり)や鮭(さけ)のアラを使った粕汁がなじみ深く、甘酒や奈良漬け、魚介や野菜の粕漬けなど、酒粕が寒い季節の料理に欠かせない。


新酒の時期の酒粕は驚くほど香り豊かで、甘酒にするのもよい。100gほどの酒粕を水500mlほどで沸かし、沸騰したら、好みで砂糖、すり生姜を溶かせば、あっというまにできあがる。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



  1月16日にアルジェリア南東部イナメナスの天然ガス生産施設で、イスラム武装集団が外国人132人を人質にとった事件が起きた。
 アルジェリア政府は武装集団の要求に耳を貸さず、軍特殊部隊を出動させてせん滅したが、その際人質37名も死亡した。現地で天然ガスプラント建設に関わっていた「日揮(にっき)」の邦人社員・関係者10人も犠牲となる痛ましい結末だった。
 『週刊現代』(2/9号、以下『現代』)によれば、「日揮」はすべての業務がBtoB(企業間取引)ということもあり日本での知名度はそう高くはないが、海外では「JGC(ジャパン・ガソリン・カンパニー:日揮の英語名)」として知られ、年間5600億円を売上げ、世界を股にかける社員数は2200人という超優良企業である。
 アルジェリアでの生活は居住区であるキャンプとプラントとの往復の単調な毎日で、軍の護衛付き送迎バスで守られて移動している。キャンプは鉄格子で囲われた約500メートル四方で、アルジェリア兵士が警備にあたっていると『現代』で「日揮」の社員が語っている。
 だが、どんなに軍に守られていようと、テロは防げないことが証明されてしまった。
 亡くなった中には「日揮」の最高顧問(66)もいたが、死亡が確認されたのは一番最後だった。『女性自身』(2/12号)によれば「身元確認の決め手になったのは、結婚指輪の裏に刻まれたイニシャルと数字だった」というから、遺体の損傷が激しかったのであろう。
 派遣社員として現地に入り現場監督をしていて被害にあった人(44)の母親は、事件当初「日揮」から「息子さんは安全です」と説明を受けていたのに、翌日一転したと怒りを表す。その後「日揮」の人間が突然来て、DNA鑑定のためだと「ヒゲそりと歯ブラシとベッド周りの髪の毛」を持って行ったという。父親もこう憤る。
 「これからは危険地帯には自衛隊が一緒に入らないと行けないという法律をつくると言ってましたね。けど、もっと早くつくるべきでした! やることが遅すぎる」
 現地で事業担当の要職にあった被害者(59)は東日本大震災で津波が襲った宮城県南三陸町の出身で、母親は今も仮設住宅で暮らしている。その母親を気遣い何度もアルジェリアから電話を入れていた。母親は「本当に悔しい。私のほうが代わってやりたいくらい悔しいよ」と嘆いているという。
 今回の事件では「日揮」側が発表する前に、一部新聞、テレビが被害者の実名を報道してしまったことで、メディアスクラム(集団的過熱取材)や報道倫理問題もクローズアップされた。
 『現代』で「日揮」の遠藤毅(たけし)広報・IR部長は「社員一人一人を大切にしながら、海外の資源国に貢献していくにはどうしたらいいのか、今回の件は立ち止まって考える機会になった」と述べている。
 危険地域の赴任者に支給される駐在手当は月に約50万円程だそうである。アルジェリアを中心とした北アフリカでは今後もこのようなテロが起きる可能性が高いが、マリに軍事介入したフランスも狙われるかもしれないといわれている。
 高成長しているアフリカには多くの日本の大手企業が進出している。だが、彼の地はテロ多発地域でもあるから、企業はこの事件を機に「テロなどから社員の命をどう守るのか」をより真剣に考えなければいけないこと、いうまでもない。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 幼い子どものしつけに悩む母親は多い。現代は、核家族化や地域とのコミュニケーション不足で、ますますその判断に苦しむ状況となっている。ただ、結局は「悪いことをするとオバケが来るよ」といった「古典的」なやり方に落ち着いたりする。おどろおどろしい絵巻をもとにした『絵本 地獄』(風濤社(ふうとうしゃ))のベストセラー化は、このことを端的に表しているだろう。
 時代が変わっても変わらないやり方がある。このことをしみじみ感じさせるのが、スマートフォンの「しつけ」アプリのヒットだ。名前を「鬼から電話」という。「言う事をきかない時」「寝ない時」など複数の設定からシチュエーションを選ぶと、鬼やオバケから着信。子どもの反応を見て、まだぐずるようであれば「通話」に移行する。 「着信」画面の鬼の後ろ姿(これだけで雰囲気が怖い)が、「通話」で振り向いて話し出すときのインパクトは大。送り手のメディアアクティブ株式会社では「ほどよい怖さ」を狙っているそうだが、それどころではない「効果」があると親たちから評判だ。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 GDP世界第3位を誇る経済大国の日本だが、その反面、貧困率も非常に高い。
 ここでいう貧困率は、人間らしい衣食住の水準が保てない絶対的貧困ではない。世間では当たり前だと思われている人としての営み(親戚付き合いなど)が、お金がないためにできない生活水準にある相対的貧困だ。
 1985年に12.0%だった日本の相対的貧困率は、小泉自民党政権で行なわれた構造改革や、リーマンショックなどによって年々上昇し、2009年は16.0%になっている。とくに、ひとり親家庭の貧困率は50.8%と高く、なかには生活保護基準以下の収入でギリギリの生活をしている人もいる。
 しかし、「お金がなくて生活に困っている」ということは、友人などには相談しにくい。行政に頼ろうとしても、生活保護受給者への言われなきバッシングを見てもわかるように、日本では生活保護を受けることは制度的にも心理的にもハードルが高い。
 その結果、本当に困っているのに誰にも相談できずに貧困に陥っていく「声なき貧困=サイレントプア」が増えている。
 サイレントプアは女性に多いのが特徴で、相対的な所得の低さなどが影響している。その多くは、「頼れる親類がいない」「消費者金融などから借金をして多重債務に陥っている」「家族に病気の人がいる」など複数の問題を抱えている。また、夫からのDV(ドメスティック・バイオレンス)、教育、貧困の連鎖の問題も絡み合っている。貧困問題を解決するには、行政によるワンストップの支援体制の確立が必要なのは言うまでもないが、周囲の人の気づきも重要だ。貧困は他者に相談しにくい問題なので、「もしかして困っているのかも」と感じる人がいたら、周囲から手を差しのべる勇気をもちたいものだ。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 いやし系の表情をした「なめこ」のキャラクターが人気だ。出どころは『おさわり探偵 なめこ栽培キット』なるスマートフォン用のゲーム。まさになめこを育てる内容なので「探偵」は関係ないのだが、タイトルは『おさわり探偵 小沢里奈』というゲームから派生したことを示している(もともと、なめこは探偵ヒロインの助手として登場したもの)。生みの親は出版からゲームまで手がけるデザイン会社のビーワークス。2012年9月の発表によれば、シリーズ累計で2000万ダウンロードを超えている。
 ゲームの人気と相まって、キャラクター関連商品も活発な展開を見せている。グッズを集めた「なめこ市場」全国キャラバンは各地で話題を呼んだ。タレント・福原遥(NHK Eテレ『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』で知られる)によるCD「なめこのうた」もリリースされる。昔からゲーム発の人気キャラクターは枚挙にいとまがないが、「なめこ」がスマホユーザー以外の知名度も獲得している現象は、最近のゲーム媒体としてのスマホの勢いを象徴するかのようだ。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 スポーツ紙で目を引く見出しを見つけた。「育爺減税」。祖父母が孫に教育資金をまとめて送った場合の贈与税を非課税とする措置のことだ。安倍政権が1月にまとめた緊急経済対策の目玉として創設した。編集者の巧みなネーミングだろうが、その本質は「育爺」とはあまり関係がない。
 非課税とするのは孫一人あたり、最大で1500万円まで。2013年4月から3年間の時限措置である。祖父母から贈られたお金は、教育以外の目的に使われないようにするため、信託銀行などに孫名義の口座を作って使い道を管理するという。
 緊急経済対策に組み込まれたのは、景気浮揚を狙ったからだ。ターゲットは「タンス預金」。金融機関に預けられず、家庭などで保管された民間資金のことで、総額は30兆円とも40兆円ともいわれ、その多くを高齢者がため込んでいるという。こうした眠った資金を掘り起こすことで、景気を刺激しようとする算段だ。祖父母の資金援助があればその分、父母は教育以外の買い物をして消費が伸びる。
 子育て支援という名目もあってかメディアには好評だが、「金持ち優遇だ」との批判もある。

 

   

マンデー政経塾 / 板津久作   


<<前へ       次へ>>