暑さが盛りになる土用の入りといえば、「う」のつく「鰻」や「牛」を食べ、精をつけるというのが世間一般のしきたりである。だが、京都では「あんころ」を食べる風習がある。「あんころ」とは、いわゆる「あんころ餅」のこと。搗(つ)いた餅を丸め、粒あんか、漉しあんで包んだ簡素な餅菓子である。

 「あんころ」という名前の由来は、「あんの上で餅を転がす」というところから起こっており、漢字では「餡転」と書く。「土用餅」と呼ぶ地域もあり、力をつけるという意味から、餅は搗いたものが縁起がよいとされている。地方によっては「餡餅」を略し、「あんも」や「あも」と呼んだり、禅寺とのつながりから「あんびん(仏事に用いる大福のような餅の意)」と呼んだりするところもあるようだ。滋賀県の菓匠、叶匠壽庵(かのうしょうじゅあん)には、求肥(ぎゅうひ)を粒餡で包んだ「あも」という名の棹菓子があり、比較的日持ちがするので「おもたせ」としても評判がよい。

 調べてみると、土用の入りに「あんころ」を食べる風習は、江戸中頃から見られるようになったようだ。さらに遡ると、暑気あたりを防ぐため、宮中で土用の入りに飲まれていた味噌汁につながっているという。この汁は、加賀芋(石川県特産)の葉を煮出したもので、餅米の粉を練って丸めた具を中に入れた汁物であったそうだ。

 実は、筆者はこの加賀芋が好物。毎年、金沢の知人から送ってもらう。これがまた、一般的な山芋とは比べものにならないほどのすごい粘りがあり、葉や茎、塊根部分などすべてが滋養強壮に優れ、古くから生薬として利用されてきたと聞いている。さぞかし煮出した汁も効能に優れることだろう。これまで毎年食べていた加賀芋が、「あんころ」発祥に通じているとは思いもしなかった。


和菓子店・仙太郎のしおりによると、「盛夏の土用、7月20日(年によって19日)。入りの日を土用太郎といい、この日に餅を搗いて、食べると暑気あたりを免れるという。別名はらわた餅ともいう」とある。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 少子化が止まらない。総務省が先日(7月5日)発表した人口調査で、生まれた子どもの数は100万人を切り、昨年1年で約30万人、人口が減った。

 『週刊現代』(7/22・29号、以下『現代』)が縮小を続ける日本の「未来の年表」という特集を組んでいる。これまでも言われ続けていることだが、一つひとつ見てみよう。

 「92年に205万人だった18歳人口は、09年から数年は120万人前後が続く『踊り場』の状態にありましたが、2018年頃(121万人)から大きく減り始める見込みです。(中略)こうなると、私立大学は当然のこととして、国立大学にも潰れるところが出てくる」

 こう語るのは『未来の年表』 (講談社現代新書)を書いた河合雅司・産経新聞論説委員。2020年には女性の過半数が50歳以上になるのだから、子どもを産める女性が少なくなっていくので、少子高齢化・人口減少に歯止めはかからない。

 2021年には「団塊ジュニア世代」が50歳に差し掛かるが、この頃から介護離職が増え始めるという。

 さらに今後は、介護スタッフがさらに厳しい人手不足に陥ることが見込まれる。25年には約253万人の需要が見込まれるのに対して、215万人程度しか確保できないから、約38万人もの介護スタッフが不足する。

 2025年には、ついに団塊の世代全員が75歳以上となり、後期高齢者の人口全体に占める割合は18%にも達する。

 25年の東京圏(東京、千葉、神奈川、埼玉)の後期高齢者は572万人になり、今と同じ割合で通院すれば、約420万人にもなる。現在の病院にこれだけの人数が押し掛ければ、完全にパンクしてしまう。

 さらに長期的問題になるのは医療費である。08年の厚労省のデータによれば45歳から64歳の一人当たりの医療費が年間約25万4100円であるのに対して、75歳以上の医療費は約83万円と3倍以上になる。

 全国紙社会部記者がこう言う。

 「75歳以上人口の激増によって、25年には、政府の医療費負担は56兆円にのぼると見られています。こうした予測を受け、すでに高齢者の自己負担の引き上げが予定されています」

 そうなると保険適用されている高額な治療が少しずつ保険適用から外され、自由診療になっていくことは避けられない。医療の二極化が進んでいく。


 当然ながら認知症患者も増える。新聞でよく報じられるように、万引きなどの軽犯罪で逮捕される高齢者が続出する。

 これが「認知症社会」の現実である。

 「すでに認知症の高齢者が、同じく認知症のパートナーを介護する『認認介護』の問題が顕在化しつつある。当然リスクは高く、今後は介護中の事故がじわじわと増えていくと考えられます。さらに、ひとり暮らし世帯が激増することが見込まれています。多くの認知症高齢者が、一人で暮らさざるを得ず、孤独死を強いられる。そういう状況がもうすぐそこまで迫っているのです」(河合雅司氏)

 行方不明者も増える。16年、認知症の行方不明者は1万2000人を超えたが、認知症の患者数、介護施設の不足などを考えれば、25年には行方不明者が2万人を超えるのは確実だという。

 それに、家族が認知症になったからといって、引き取ってくれる介護施設は見つからない。「東京圏(東京・千葉・神奈川・埼玉)の15年段階での要介護認定は91万人です。人口に対する要介護の比率が同じだとすると、25年には、これが132万人となる。
 現状でさえ、要介護認定91万人に対して、介護老人保健施設や特養など介護保険施設は19万6000人定員で、どう考えても足りていない状態。今後はこれがもっと不足する可能性がある。危機的な状況です」(政策研究大学院大学・松谷明彦名誉教授)

 厚労省は、認知症高齢者増加に対する総合戦略である新オレンジプランをまとめているが、早期診断のための医療機関の整備が遅れるなど、政府の思惑通りには進んでいない。

 若い働き手が少なくなるとどうなるのか。

 「今後、若年層の人口が減る中で働き手が減少し、コンビニやスーパーといった若年層を雇用する傾向のある業種は、次々に深刻な人手不足になってきます」(流通コンサルタントで株式会社イー・ロジットの角井亮一代表取締役)

 こうした人手不足が、国民の生活基盤に深い打撃を与え始めるのは30年頃だそうである。

 95年に8716万人でピークを迎えた生産年齢人口は、2027年には7000万人を下回る。さらに経産省の調査によれば30年、IT業界の人材は78万9000人不足するという。

 角井氏によれば、「小売り、物流、ITは、人手不足について相関関係がある」という。

 2030年には38道府県で働き手が足りなくなると予想されている。

 さらに地方からは銀行すらも消えていく。フレイムワーク・マネジメントの津田倫男代表がこう解説する。

 「銀行は地方で貸出先を見つけられないことから多くの地銀は統合・合併を繰り返し、現在の105行が、5年以内に20~30グループに、10年後には全国で8~12行といった寡占体制になると考えられます。
 問題となるのは、『県内合併』です。たとえば、現在2行2店しかないような地域で、仮に店舗が統合され、競争原理が働かなくなると、借り手が高い金利を吹っかけられるなど、不利になる場合もある」

 内閣府の『地域の経済2016』では、40年には有料老人ホームは、23.0%の自治体で維持困難になる。在宅ベースの介護サービスを受けることが難しい地域も出てくるとしている。

 2033年には団地やマンションがスラム化していく。

 「これから空き家が大問題になるのは首都圏です。郊外に暮らしてきた団塊の世代が2023年には後期高齢者となり、施設に移るなどしますが、その家の引き取り手がいない。売りに出そうにも需要はない。結果、大量の空き家が発生します。世田谷や杉並、練馬といった土地でも、駅から少し離れた場所では、そういった状況になっていく」(オラガ総研代表・牧野知弘氏)

 野村総研の推計によれば、2033年には日本全国の3戸に1戸が空き家になっているという。

 空き家率が30%を超えた地域は、治安が著しく悪くなるといわれている。そうした地域はスラム化したり、犯罪の温床になったりする可能性が高いと牧野氏は言う。

 こうした地域ではインフラの問題も深刻である。

 老朽化するインフラ整備にかける予算は年々増加しており、国土交通省によれば、2033~2034年にかけて、最大の5兆5100億円が投じられるとみられているそうだ。

 2036年には東京でバスの本数が激減する。2037年には新聞を取る人がいなくなるという。

 現状のままいけば、今から20年ほどで、年金をはじめとした社会保障制度が破綻するという指摘は多い。

 「年金の支給額は目減りしていきますし、これから給付開始年齢も引き上げられるでしょう。しかし、延命策をとっても、少子化という根本問題が解決されない限り、この仕組みは崩壊してしまう。仕組みの前提が崩れてしまうのです。あと20年もすれば、支給額がほぼゼロになるといった『制度の終わり』が見えてきます」(北村庄吾・社会保険労務士)

 さらに追い打ちをかけるように、所得税率も上がる。現在も年収が4000万円を超えると税率は45%となるが、この税率が一つの基準となり、一般的な収入の国民にも適用されることになる。現在、年収695万~900万円の場合、税率は23%だが、これが45%となり、最高税率は50%を超えるところまで引き上げられるだろうと『現代』は言う。

 2040年には119番をしても救急車は来ない。現在は電話をしてから到着までの平均時間(全国)は10分を切っており、「電話をすれば救急車が来てくれる」状況にある。だが、それも過去のものとなる。

 2053年には人口が9924万人となり、1億人を割り込むことになる(国立社会保障・人口問題研究所〈社人研〉の推計)。ピーク時の95年に約8726万人だった生産年齢人口は、約5119万人にまで落ち込むのだ。

 働き手が減り、イノベーションが起きないと日本の経済力が低下していく。イギリスのコンサルティング会社・PWCが15年に行なった推計によれば、50年の日本のGDPは世界7位になる。中国、インド、アメリカは当然のことながら、インドネシア、ブラジル、メキシコにも抜かれ、小国になっていくことはもはや必然だそうだ。

 『現代』はこう結ぶ。

 「縮小するニッポンをどうすればいいのか。対策は多くはないが、その時を漫然と迎えるのではなく、今すぐ覚悟を決め、国を挙げて備える必要に迫られている」

 週刊誌の悪いところは、問題を指摘するが、その解決策を提示することがないことである。

 頭の悪い官僚たちは、この危機的状況を「打開」するためにやることといえば、歳出を抑えるか、増税して国民の負担を増やすか、二通りの考えしか浮かばないだろう。

 12年には経団連が、25年までに消費税を19%に引き上げろと提言している。世界的に見れば、南カルフォルニア大学のセラハッティン・イムロホログル教授は、2019年から2087年の間、約60%の消費税率にすることを提案しているという。

 どちらにしても。このままいくと段階的に消費税率引き上げが行なわれ、40%程度になる日がくるといわれているそうである。

 ふざけるなである。哲学者の内田樹は、私との対談でこう言っている。

元木 ところで、日本が抱えている最大の問題は少子高齢化だと思います。現在の前期高齢者が後期高齢者になるのが2025年ですが、全人口の4人に1人が後期高齢者という超高齢化社会になります。膨らみ続ける医療費や介護費用などの社会保障費問題をどうしたらいいのでしょう。
内田 こうなるということは、もう五十年前、六十年前からわかっていたわけです。その間何もしないで、そろそろ危ないぞと考え始めると言うんですから、日本の役人というのがいかにバカかということです。
 これを国民的問題だとか言われたら、それを考えるのがお前たちの仕事だろ、制度設計するのが官僚の仕事なのに、五十年間放置しておいて、尻に火がついてから考え出すなんて、ばかやろうですよ。この問題に関しては、全部役人が悪いと言っていいと思うんです。
 そりゃそうでしょう。国民が年金制度とか医療保険の制度なんか考えられるわけないじゃないですか。どういう仕組みになっているかもわからない。全部、専管事項で役人がやっていたわけです。挙句の果てに、潰れそうだから税金上げますって言われたって、それはいくらなんでも職務怠慢なんじゃないですか。
 自分たちの失敗に誰も責任を取らないで先送りしていたら、いい加減なことしか考えないですよ。僕は怒りますよ。これを国民的な問題だなんて投げ返すんじゃないよ、ばかやろうと言う。おまえらの責任だよ。制度が崩壊したら尻拭いするのは僕らなわけですから。

 今こそ、役人の無策、政治家の無責任に対して怒る時であること間違いない。そうしないと手遅れになる。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 安倍政権が追い詰められてきた。時事通信の調査(7月7日~10日)で、ついに支持率が30%を切ったのである。それもこれも、身から出た錆。だらしのない野党も、女性議員たちの力を結集して、安倍一強政権を打倒してもらいたいものである。

第1位 「逃げ隠れする『加計孝太郎理事長』の疑惑のスイカ」(『週刊新潮』7/20号)/「加計学園問題 証人喚問で真相を暴け!」(『サンデー毎日』7/30号)
第2位 「どこまでやるの『松居一代』と『船越英一郎』」(『週刊新潮』7/20号)/「松居一代『虚飾の女王』」(『週刊文春』7/20号)/「松居一代がひた隠す『7つの嘘』」(『女性セブン』7/27号)
第3位 「リアル店舗『アマゾンブックス』はサイトとリンク」(『AERA』7/24号)

 第3位。このところアマゾンのことをあちこちで取り上げている。
 これはアメリカのアマゾンだが、137億ドル(約1兆5300億円)で自然食品スーパーマーケットチェーンのホールフーズ・マーケットを買収する計画を発表した。
 もはやアマゾンは本や家電、薬品、雑貨だけではなく、スーパーの分野でも世界一を目指そうというのである。
 だが、アメリカでは、リアルな大型書店をつくったことでも話題を呼んでいる。
 『AERA』によると、それはニューヨークのマンハッタンに近いアマゾンブックス。書店にしてはすごい混みようで、店内では皆がスマホを手にしている。
 アマゾンのカメラアプリを開いて本のカバーを撮影すると、本の正札と「アマゾンプライム会員」である場合の値引き価格がすぐに表示される。
 アジア系の父子は、アマゾンの人工知能スピーカー「エコー」のところへ行くと、店員を質問攻めにしたという。
 「エコー」か。私も買いたいな。日本でも話題の本、『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(光文社)は、正札は27.99ドルだが、プライム会員は12.59ドル。
 アプリに登録しておけば、クレジットカードですぐに買える。買ったものが重い本なら、配達もしてくれる。
 アマゾンが得意な、本を買おうとすると、こんな本もありますと表示してくれる。スマホさえあれば、何もいらずに買い物ができる。実物の本を見て、プライム会員になれば大幅な値引きがある。
 日本ではまだ「再販制度」があるから、このような値引きはできないが、書店の新しい形として、こうした大型書店が東京などにできれば、話題にはなるだろう。
 書店の閉店が続く日本では、こんなものができれば紀伊国屋なども危ないかもしれない。早急に、新世代の書店づくりをみんなで真剣に考えるときである。

 第2位。さて、夫・船越英一郎(56)を詰(なじ)り続ける松居一代(60)だが、『新潮』が潜伏先でコンビニへ行き、カップ味噌汁を手に持って歩いている松居のさえない姿をカメラに捉えた
 さすが『新潮』である。松居は動画で、89歳のおばあちゃんの家に匿(かくま)ってもらっていると話しているが、『新潮』によれば、元々は松居の息子と親しい20代の大学生の家で、彼はベンチャー企業で映像クリエーターを務めているから、松居に頼まれて動画づくりを手伝っているそうだ。
 当のおばあちゃんはこう話している。

 「松居さんは自分の車に身の回りの物だけ載せて、私の家まで来ました。匿ってもらっているのがバレることをそこまで警戒していなかった時には、近所の銭湯にも行っていました」

 松居は、船越の浮気の証拠を掴むためにハワイまで行ったとも話していたそうだ。
 松居は、船越が糖尿病でSEXができないため、バイアグラ100ml(mgの誤り)という強いものを飲んでいると言っている。船越がもし「ヘモグロビンA1c」9・3だとしたら、相当深刻な糖尿病である。
 その上船越は心臓疾患があるというのだから、性行為で心拍数が上がると、狭心痛が発生し、心筋が壊死して腹上死に至ることもある。
 『文春』は、船越の大学ノートを手に入れた。そこには手書きで、

 「<・病院の証明書
 ・DV関連の大学ノート(手書き)
 ①一代と自ら話し合い。弁護士を立ててくれ。私の代理人に●●先生。宣言。もう直接は話せない。
 ②離婚条件は通常の財産分与、半分。
 ③調停(短く!)→裁判。
 ④マスコミ対応>」

 などと書かれているという。
 離婚調停から裁判に至るまでの手順と、病院の診断書など松居によるDVの証拠を用意した上で、弁護士と話し合うようだ。ノートのあちこちにN来日、などNというイニシャルが多く出てくる
 松居は、このNが船越の不倫相手だと確信しているようだ。
 当然船越側の言い分は違う。2人の仲が決定的になったのは、15年10月の松居の出版会見で、彼女が、船越が川島なお美(2週間前に亡くなっている)と交際していたことを暴露したことからだそうである。
 船越は激怒し、その後も口論になった。すると翌日、松居は船越のマンションの玄関前に、船越家の仏壇や両親の位牌を乱雑に放置したそうだ。やっと船越は腹を決めた。
 可愛さ余って憎さ百倍。一度こじれると男女、特に夫婦というのは難しいものだ。
 『女性セブン』は、2人の問題を以前から取材していた。だが、松居の言い分には嘘が多いと報じている。
 『セブン』によれば、松居は『文春』の編集長に手紙を送り、この件を取材してくれるよう頼んだ。船越と不倫相手との「証拠」を探しに、『文春』の女性記者とハワイに行ったが、それらしい証拠は見つけられなかったという。
 さらに、16年11月14日に、船越のバッグにあったバイアグラを見つけ、問いただしたと松居が言っているが、その日船越は京都でロケ中、東京の自宅にはいなかったと松居の嘘を指摘している。
 不倫はない、バイアグラの件も創作だとしたら、船越側は、名誉棄損や偽計業務妨害罪で松居を訴えることができるというが、船越は、一刻も早く別れたいのだから、そんなことはしないだろう。
 修羅のような夫婦の姿を描いた作品では島尾敏雄の『死の棘』がよく知られる。その小説の真実を知ろうと、生前の島尾の妻・ミホのインタビューや残された2人の資料を読み込んで、「愛の神話を壊し、創り直した」梯(かけはし)久美子の『狂うひと』(新潮社)はノンフィクションの傑作である。
 ミホは梯に「そのとき私は、けものになりました」と言った。夫の日記を読み、夫に愛人がいたことを知った時の衝撃、そこから始まる夫婦の「地獄絵」を島尾は書き続けた。こんな描写がある。

 「妻が私を責める気配が見えさえすればすぐそうしないではいられないし、妻はまたきまってそれを止めにかかる。(中略)そうはさせまいとするから私と妻はどうしても組み打ちになる。くりかえしにあきてくると、もっと危険な革バンドやコードを用いることをえらび、首のしまりがいっそう強く、だんだん限界がぼやけてくる。ここで、もう少し力を入れたら向こうがわに渡ってしまうかもしれないと思えるところまでしめると、妻も力が加わり、組み打ちもひどくなった」(『死の棘』より)

 こうしたことを繰り返し、ミホの狂気が増幅していって精神病棟に入院してしまう。以来、島尾はミホの要求をすべて受け入れ、徹底的に従うことになる。
 梯は、この小説には、ある種の虚構があるというが、私もそう思う。だが、事実と、それを小説としてまとめるのとでは、何かが違っていて当然であろう。
 事実だがどうしても書けないこと、事実より誇張して書きたくなることはある。私もここまでではないが、似たような修羅はあった。だが、それを書こうとすると、きっと出来上がったものは事実と違うものになってしまうのだろう。
 船越と松居の修羅は、どこまで続き、どういうエピローグを迎えるのだろうか。一段落したら、松居にこの間の顛末を書かせると面白いものができるかもしれないが、あまりにも一方的な内容になるからボツか。

 さて今回の第1位は『新潮』の、安倍を窮地に陥れている「お友だち」である加計(かけ)学園の加計孝太郎理事長(66)を追いかけた記事にあげたい。腹心の友が友人の大変な時に、助けるのではなく、雲隠れしたままなのである。
 だが、7月8日の夕方、『新潮』は、岡山市内で加計夫妻が白い小型ジープで、スーパーへ買い物に行く姿を捉えた。ハンドルを握るのは20歳近く年下の妻。加計は8年前に長年連れ添った妻と離婚し、この女性と再婚している。
 スーパーでは、カレールーの品定めをし、デザート用のスイカを買ったという。『新潮』が直撃すると、最後まで無言のまま、逃げるように走り去ったそうだ。
 こども園から大学までを擁する一大教育コンツェルンのトップが、疑惑に答えず逃げ回っている姿は見苦しい。『新潮』によれば、加計学園の内情は実は火の車だという。
 『今治(いまばり)加計獣医学部問題を考える会』の武田宙大共同代表は、こう言う。

 「加計学園グループは20以上の学校を有していますが、採算が取れているのは岡山理科大くらいしかありません。他の千葉科学大や倉敷芸術科学大は定員割れが続き、赤字が慢性化している。その結果、岡山理科大の黒字で補填せざるを得ない有り様です」

 加計学園は、15年の3月から岡山理科大と倉敷芸術科学大のキャンパスを担保にして、日本私立学校振興・共済事業団から50億円を超える借り入れをしているという。
 この利息の返済を来年3月から始めなければいけないそうだ。そのために、安倍を動かし、萩生田光一たち側近が文科省へ押しかけ「獣医学部開校は来年4月」と尻を切って強引に認めさせたのではないか。そう『新潮』は見ているようだ。
 どちらにしても、安倍首相だけではなく、加計孝太郎理事長をも国会へ招致して説明させなくては、この問題はいつまでも燻ぶり、安倍政権を骨の髄まで蝕むことは間違いない。
 さて、安倍首相が自らの嘘がバレるかもしれないリスクを冒して1日だけだが、国会審議に応じるという。
 それを迎え撃つ野党側は、どこをどう攻めればいいのだろう。『サンデー毎日』で、元経産官僚の古賀茂明は「規制緩和を錦の御旗(みはた)にしたお友だち優遇でしかない」と断じ、「安倍首相や萩生田氏ら加計と特別の関係にある人が直接『加計を認めてあげてよ』とは言えない。一方、原(英史、特区ワーキンググループ委員)氏や竹中平蔵氏ら特区の民間議員は規制さえ撤廃できれば、事業者は加計であろうと知ったことではない。原氏らが『議論に一点の曇りもない』と言うのはその通りで、彼らは100%撤廃したい。でも、安倍さん側は『反対意見への配慮も必要だから』と10%くらいの穴を開け、そこに加計を入れたということです」
 真相究明のためには、首相はもちろんのこと、加計孝太郎理事長、和泉洋人(いずみ・ひろと)首相補佐官らを国会に呼び、証言させなければいけないこと、言うまでもない。
 野党に求めたいのは、くれぐれも作戦を練り、安倍首相が隠したい「恥部」を徹底的に攻めて攻め切ることをやってほしい。
 場合によっては、小沢一郎議員にも質問に立ってもらえ。安倍政権がこのまま生き残るのか、審議後、政権をおっぽり出すと会見するのか、天下分け目の関ケ原である。くれぐれも油断するでないぞ。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 エッセイストの酒井順子氏といえば、かつて30代以上、未婚、子どもがいない女性たちを「負け犬」と称して話題を呼んだ。過剰な表現にも聞こえる「負け犬」だが、現代を生きる独身女性たちへのまなざしは優しい。だから、反発の声はありつつも、一定の評価を受けて流行語にもなったのだろう。いま女性が置かれている社会状況を、鋭い感性で浮き彫りにする酒井氏の、新たな造語が「男尊女子」である。

 男尊女卑の意識は、じつは女性の中にこそ見え隠れしているのではないか。著書『男尊女子』(集英社)では、次のような例が挙げられている。自分よりデキない男性社員にまで、キャリア女性がお茶を淹れようとする。共稼ぎで専業主婦でもないのに、自分よりも稼ぎのない夫を「主人」と呼ぶ。……考えてみれば、奇妙な美意識なのである。

 ことが酒井氏と同年代かそれ以上の女性だけに当てはまるならば世代論になるのだが、どうやら下の年代でも見てとれる傾向のようだ。たとえば、若い世代がよく用いる「女子力」の「女子」。どうも「男を立ててくれる女子」というニュアンスがないだろうか。もともとの女子力とは、それを持たない女性が自虐的に使った表現とされる。なのにいつしか、男性にとって都合のいい指標となった。女子力を信奉する向きは、無自覚のうちに「男尊」の域に陥っているかもしれない。

 家事・子育て、さらには社内でのこまごまとしたお世話まで抱え込むキャリアウーマンは、人生が「業務過多」になっていないか振り返ってみてもいい。そして男性陣は、男尊女子に甘えすぎていないか、ご注意。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 今年5月、痴漢を疑われた男性が駅のホームから線路に飛び降り、逃走する事件が相次いで起こったのを受け、「痴漢冤罪保険」に加入する人が増加しているという。

 販売しているのはジャパン少額短期保険というミニ保険会社で、他人にケガを負わせたり、自分が事故の被害者になったりして、損害賠償請求の手続きが必要になったときの弁護士費用を補償するというもの。特典として「痴漢冤罪ヘルプコール」というサービスがついているのが、「痴漢冤罪保険」と呼ばれるゆえんだ。

 痴漢の疑いをかけられたとき、事前に携帯電話やスマートフォンなどに登録しておいたホームページから通報すると、保険会社と提携している弁護士に一斉に緊急メールが送信され、対応方法を電話で指示してもらえる仕組みになっている。GPS機能によって通報した人の位置情報が伝えられるので、近くにいる弁護士がかけつけてくれることもある。

 保険期間は1年で、保険料は年額6400円(月額590円)。痴漢を疑われた場合、事件発生後48時間以内の弁護士の相談料、接見費用(交通費含む)を負担してくれる。ただし、サービスを利用できるのは保険期間中1回のみで、冤罪以外の場合は補償されない。男女問わずに契約できるが、契約者の9割が男性だという。

 いったん痴漢の疑いをかけられ、起訴されると、たとえ無実でも無罪を勝ち取るのは難しく、人生は大きく変わってしまう。痴漢冤罪に巻き込まれないためには、DNA鑑定などに備えて事件発生時点で証拠保全をしておく必要があるが、身に覚えがないのに、突然、痴漢を疑われて冷静な対応ができる人ばかりではない。転ばぬ先の杖として痴漢冤罪保険に加入する人が増えるのは、今の時代を反映している姿なのだろう。

 だが、痴漢冤罪が生まれる背景には、都市部での尋常ではない通勤ラッシュがある。7月11日から、東京都では小池百合子知事の肝いりで、通勤、通学客が多いラッシュの時間帯の混雑を緩和するため、企業や自治体が時差通勤に取り組む「時差Biz(ビズ)」キャンペーンが始まった。

 フレックスワークや在宅ワークの推進、時差通勤を推奨して、少しでも満員電車を解消するのが目的だ。だが、一時的なキャンペーンでは、痴漢冤罪が生まれる満員電車の解消は難しい。

 通勤を含めて働く環境を改善していくには、東京をはじめとした都市への人、モノ、カネの流れを見直していくような大胆な改革が必要ではないだろうか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 いわゆる「世界名作劇場」(フジテレビ系)シリーズの一つとして、1977年に放送されたアニメ『あらいぐまラスカル』。スターリング少年は、森で出逢ったアライグマを懸命に育てるが、やがてその野生は手に負えなくなり別れのときが近づく……という筋書きだ。その「泣ける」最終回はいまなお語り草である。

 愛すべきキャラクターのラスカルは、実際のアライグマよりもレッサーパンダに似たカラーリングでデザインされた。かわいさを狙ったという説があるが、これが良かったらしい。各社より販売されている関連グッズは、長年にわたって確固とした売れ行きを示している。「ラスカリスト」と呼ばれる、コアなファンも多い。

 LINEのスタンプで二頭身にデフォルメされた「プチラスカル」が登場してからは、若い世代のラスカリストも増え続けている。この人気に拍車を掛けたのが、スマホのゲーム『モンスターストライク』(モンスト)や、アニメ『進撃の巨人』など、様々なコンテンツとのコラボである。ときにコスプレもこなすプチラスカルは、多様なジャンルとじつによく合う。大御所・ハローキティにも近い、キャラとしての柔軟性があるのだ。

 手に入れにくいレアなグッズの情報交換など、SNSではラスカリストどうしの交流が盛んだ。今年ラスカル関連の動きが多いのは、放送から40周年の節目に当たるところが大きいだろうが、もとよりキャラの世界では安定した人気。来年以降も支持は続いていくだろう。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 日本独自のGPS(全地球測位システム)の構築を目指す人工衛星「みちびき」2号機が、2017年6月1日、鹿児島県・種子島宇宙センターから打ち上げられた。

 「みちびき」は宇宙から地球に電波を送り、受信機は、地上の正確な位置を把握することができる。すでに1号機が2010年に打ち上げられていて、17年内にあと2機を打ち上げ、計4機体制とする。位置情報の本格運用は2018年4月から。

 現在、日本で利用されているGPSは米国が31機体制で運用している。元々は軍事用に開発され、その後、民間に開放された。ただ誤差が10メートル程度もある。

 これに対し、GPSからの位置情報と「みちびき」からの情報を組み合わせると誤差は驚くことに6センチ程度となる。「みちびき」は、4機のうち、いずれか1機が常時、日本のほぼ真上に位置することで、位置情報の精度が増すからだ。政府は2023年度までにさらに3機を打ち上げ、7機体制とし、GPSに頼らず、日本の衛星システムだけによる情報提供が行なえるとしている。

 経済面で言えば、誤差が6センチとなることで様々な用途での活用が広がる。キーワードは「無人化」と「省力化」だ。

 とくに期待がかかるのは、人出不足に悩む農業や土木、物流、それに交通分野だ。

 農業では、トラクターの自動運転、種まき、田植え、農薬散布、コンバインの無人化などが可能だ。流通ではドローンによる自動配達にも有効である。また自動車を「みちびき」のネットワークにつなげば、自動走行はもちろん、それぞれの車の位置情報をビッグデータとして集め、渋滞緩和につなげることもできる。

 「みちびき」が提供する高精度の情報提供は、新たな産業創出にもつながるはずだ。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 最近、寿司のネタだけを食してシャリ(=酢飯の部分)を残すケースが、とくに回転寿司店で激増しており、しかも食べ残されたシャリのみが山積みされた奇妙な光景をわざわざSNSなどに投稿する輩も実在し、その賛否がネット上で話題になっている。

 おもな理由は、やはりダイエット。「だったら、スーパーで刺身を買って食えばいいだろ」「握りじゃなくて、つまみ(お造り)で注文すればいいだろ」……と、おもわずツッコミを入れたくなるが、「いろんな種類の“お刺身(=ネタ)”をちょっとずつ食べたい」「回転寿司特有のワクワク感と割安感を味わいたい」……など、シャリスルー側にもそれなりの言いぶんはあるようだ。

 一度、筆者も某回転寿司屋で、偶然となりに座ったギャル2人組が、鬼デコネイルされた手で器用にネタをめくりながら、一枚の皿にシャリをお城の石垣のごとく重ね上げているさまを目の当たりにしたことがあるのだけれど、単純に汚くて、コッチの食欲までもが減退してしまった。

 「ちゃんとお金払ってるんだから、なにしようと勝手でしょ!」って理屈はわからなくもないし、この種のヒトたちに今さら「食べ物を粗末にするのはやめましょう」だとか「お寿司を握ってくれている職人さんに失礼でしょ」なんて説教をたれる気もない。が、外観の醜悪さという意味で「シャリ食べ残し」は、禁煙店での喫煙と同じくらい「他のお客さまに迷惑」な行為に該当すると思うのだが、いかがだろう?

 あと、関西人の筆者としては「お店から出された料理」や「バイキングで自分の皿に盛った料理」を食べ残したら負け……といった、謎のポリシーもあったりする。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


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