京都の家庭で日常的なごはんのおかずにしている惣菜のことである。御番菜や御飯菜などと表し、江戸時代につくられた料理本『年中番菜録』(1849年)をきっかけに、この名称が広まったといわれている。「番」という字は、番傘や番茶の字と同様に、常用のものという意味があり、「菜」は粗食を例えた「一汁一菜」の「菜」と同義である。合わせると、常用のおかずという意味になる。
いまや京都風の気軽な料理の代名詞になっているが、京都の年配の方々は、実際におかずを「おばんざい」とはほとんどいわない。聞いてみると、「おまわり」とか、「おぞよ」などといった、使われなくなったとされる呼称のほうが浸透している印象を受ける。「おまわり」というのは「おばんざい」とほぼ同義のことばで、いわゆる日々のおかずのことである。宮中料理などで主食を取り巻くように副菜を並べることから、おかずを表す名称として使われるようになったという。一方、「おぞよ」は「お雑用」と書く。字のごとく、これは大衆的なおかずを意味しており、おからやあらめ、ひじき、切り干し大根など、安くて簡単に調理できる、付け合わせ的なおかずの呼称である。これが鰯(いわし)の甘煮などのように、いつもよりちょっとだけ贅沢なおかずになると、呼び方も少しだけ格上となり、「おぞよもん」に変わるところが面白い。とはいえ、いつもの「おぞよ」には「とき(季)しらず」という別称もあり、相手に応じてことばを選ぶのは、京都人でなければ難しい使い分けだろう。
大豆と川エビを炊いたエビ豆はおばんざいの定番。