上賀茂神社(上社)と下鴨神社(下社)からなる賀茂神社の祭りで、祇園祭、時代祭と並ぶ京都三大祭のひとつである。6世紀中ごろの欽明(きんめい)天皇の時代に暴風雨の害や疫病が蔓延(まんえん)した際、賀茂県主(かもあがたぬし)一族の行なった祭礼を起原としている。『源氏物語』葵の巻には、葵祭の場所取りの見物人が牛車で争う平安期の様子が描かれており、当時は祭りといえば葵祭のことをさすほど、都随一の祭りであった。毎年5月15日に行なわれる「路頭(ろとう)の儀」が、一般に葵祭といわれている行事である。馬36頭、牛4頭、牛車2台、腰輿(およよ)1基の総勢512名が、澄んだ青空と青々と茂った若葉の中で下社から上社まで約8キロを、いかにも静かでのどやかに列をなし歩んでいく様子は、数ある祭りの中でもっとも京都らしい。王朝絵巻のような行列の主役となる斎王(さいおう)は、賀茂神社に奉仕する王家の未婚女性(皇女)のこと。1956(昭和31)年から斎王代として、一般から選ばれた未婚の女性が列に加わっている。

 葵祭というのは通称であり、正式には賀茂祭という。葵祭とは、賀茂神社の神紋であるフタバアオイの葉が行列の至るところに見られるからだが、この名称がついたのは江戸時代になってからのこと。1502(文亀(ぶんき)2)年から200年ちかくの間、断絶状態にあった賀茂祭は、1694(元禄7)年に、神紋と同じ葵を家紋とする徳川将軍家の後援によって再興を遂げた。これをきっかけに葵祭と呼ばれるようになったのである。


斎王代が乗る牛車には、御簾に葵がかけられている。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 グローバル企業ユニクロが批判にさらされている。ブラック企業(入社を勧められない労働搾取企業)ではないかというのである。ブラック企業は英語圏ではSweatshop、中国語圏では血汗工場と呼ばれるとWikipediaに書いてある。“血汗”って言い方が怖いですね。

 理由は、入社した新卒新入社員の「3年内離職率」が53%にもなるからである。大卒者の平均離職率は3割弱といわれるからかなり高い。

 『週刊現代』(4/13号、以下『現代』)で話している、2011年入社で翌年退社したA君によれば、内定後の研修でホテルに2~3日軟禁状態にされ、23か条に及ぶ長い社訓を丸暗記させられる。最終テストでは一字一句間違えてはいけないそうである。

 入社してからがさらにきつい。店長になるための昇進試験を受けさせられるのだが、そのために会社が作っているマニュアルを覚える。門外不出のため、店を閉めてから勉強を始めるから深夜に及ぶこともあった。

 A君は見事一発で店長試験に受かり、わずか半年で店長になる。しかし試験に受かっていない年上の部下と、スーパーバイザーと呼ばれる上司との板挟みに悩み、売上げ目標の達成が至上命令となっていて、半年ぐらいで『うつ病』と診断され、結局退職する。

 仕事量は多く、新入社員は残業代が出るが、店長は管理職扱いだから、朝から夜中まで働いても残業代は出ない。

 批判が広がることを恐れたのであろう、柳井正(やない・ただし)社長は朝日新聞などのインタビューに答えてブラック企業であることを否定したが、そこで社員の賃金を世界で統一すると発言して、また波紋を呼んでしまった。

 『週刊ポスト』(5/17号、以下『ポスト』)によれば、世界統一賃金とはこうである。

 「現在、ユニクロの『グローバル総合職』社員は世界に約5000人いる。(中略)執行役員や上級幹部ら合わせて51人の上位7段階はすでに世界で『完全同一賃金』になっている。完全同一賃金とは、たとえば、日本円で年収5000万円のグレードに属する海外採用社員は、通貨や物価が違っても、その額に相当する年収を受け取ることができるというものだ。それをさらに下位のグレードにも広げていこうというのが、今回のユニクロの構想である」

 この戦略を信州大学経済学部真壁昭夫教授は、こう分析、評価している。

 「ユニクロの試みが成功すれば、現地国での有能な人材の発掘や、すでにいる人材の底上げ効果にもつながる。組織内の競争も激化し、生産性が上がって、企業収益にも貢献するはずです」(『ポスト』)

 だがこうしたやり方が、日本的雇用形態を崩してしまうのではないかという心配はある。

 『現代』(5/11・18号)で京都大学竹内洋(よう)名誉教授はユニクロ商法をこう難じている。

 「残念ながら、柳井さんの経営理念には、歴史に対する不勉強、文化や社会に対する無理解を感じざるを得ません。職位が下の社員に成果を求め、それがかなわないなら低賃金に甘んじろというやり方は、労働者を苦しめた初期の資本主義時代の考え方ですよ。(中略)企業が儲かるのは大切なことです。しかし、そのために『Grow or Die』が必要ですか? 多くの精神疾患者を出し、まるで産業廃棄物を捨てるようにヒトを吐き出していくやり方が、グローバル企業だから仕方がないと、許されることでしょうか。企業は公器。品格のある成長を、ユニクロには求めたいと思います」

 日本有数の超成長企業だからこその賛否両論である。有名企業に入れればいいと、その企業が何を求めているのかを考えずに入社してしまう新入社員側にも問題はある。だが、早すぎる管理職登用は、安く社員をこき使おうという会社の意志だと思われても仕方あるまい。

 パナソニックの創業者松下幸之助氏は「企業は人なり」といった。このように離職率が高い職場で人が育つのだろうか。柳井社長が一番心配しているはずだと、私は思うのだが。

 

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 女性なら「美」にこだわりたい。美容院やエステ、ネイルサロン。最近のこれらの店では、「母と娘」を意識したビジネス戦略が増えているという。なるほど、意識して店先をのぞいてみれば、親子連れの割引などのサービスが掲げてある。美容院でもペアシートが目立つようになった。

 親子関係も時代によって変化する。いまどきの母と娘は「姉妹や友人のように」むつまじい。母にしてみれば、子どもといっしょに「キレイになる」ための時間を費やすことは、コミュニケーションとして価値があるだけでなく、美に家計のお金を使う「口実」ともなるだろう。最近新語の発信地となることが多いリクルートでは、彼女たちを「ままも族」と名付けた。「ママもいっしょ」というわけだ。

 リクルートは、ままも族の母を35歳から65歳までと定義している。つまり、「団塊ジュニアやバブル世代にかかっている母」も多い。娘と合わせたときの市場はたいへんに大きいといえる。業界で今後の重要な客層として期待されているという。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 風疹の感染が、ここ数年では例を見ないほどの勢いで広がっている。国立感染症研究所が発表した4月24日現在の感染者数は4763人。昨年1年間の感染者数は2392人で、過去5年間で最多だったが、今年はわずか4か月でこの2倍に近い感染者数となっている。

 風疹はウィルス感染する病気で、発疹、発熱、リンパ節の腫れがおもな症状だ。通常は自然に治るが、まれに脳炎になったり、皮膚に紫斑が現れる人もいる。また、妊娠中の女性が感染すると、生まれてきた赤ちゃんが心疾患、難聴、白内障や緑内障などの先天性風疹症候群を起こす可能性もある。

 昨年1年間に風疹と報告された人の75%が男性で、そのうちの82%が20~40代だ。こうした罹患状況は、国の予防接種体制と大きな関係がある。

 風疹の予防接種は、1977年8月~1995年4月までは中学生の女子だけが対象だった。しかし、これでは風疹の流行が予防できなかったため、1995年から対象が男女の幼児に変更されている。この制度の谷間世代は風疹の予防接種を受けていない可能性が高い。

 具体的な世代は、女性は1979年4月2日~1987年10月1日生まれ、男性は1987年10月1日以前に生まれた人だ。1964年以前に生まれた人は男女ともに定期接種の対象を外れているが、過去の自然流行によって抗体を得ている可能性が高く、今回の流行の感染者数も少ない。

 現在の年齢でいうと、女性は24~33歳、男性は24歳以上の人は風疹の予防接種を受けていない可能性が高く、今回の感染者の年齢層とも符合する。風疹の予防接種は1回だけでは免疫ができないこともあるので、現在は2回接種することになっている。上記の年齢層の人、過去に1回しか受けていない人は、改めて予防接種を受けることを検討しよう。とくに、これから妊娠を望む人、家族に妊娠中の女性がいる人などは接種の優先順位が高くなる。

 現在、風疹予防は麻疹(はしか)との混合ワクチンが接種されるが、1歳児と小学校入学前1年間の幼児は国の定期接種の対象となっているので原則的に費用は無料だ。この年齢に当てはまらない人でも、費用助成をしている自治体もあるので、住所地のある市区町村窓口で相談してみよう。

 

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 怪しげな来訪者が商品を売りつけてくる「押し売り」。「押し買い」はその逆だ。高齢者などの家に狙いを定め、貴金属のたぐいを強引に買い取る。しかも相手がよく考える隙も与えずに、買値は捨て値に等しい。背景には金の価格の高騰という「事実」がある。嘘つきは話の中に本当のことを混ぜてくるので、油断は禁物なのだ。もし疑問を感じても、いつまでも帰らずに「押し」てくるので、やがて怖くなって示された額をのんでしまうという。

 こうした消費者の被害を受け、2013年2月より改正特定商取引法が施行された。業者が依頼を受けずに飛び込み訪問することは禁止され、買い取りに際して書面の交付も義務化されている。さらに、これまで訪問「販売」に当たらないとしてできなかったクーリングオフ(契約8日以内の解約)が適用されることは大きい。大切なアクセサリーを奪ったあげく、「もう溶かしてしまった」「転売した」などと返す手口はいちおう封じられることになる。

 なお今回の規制では、これまで表だった被害のない大型家電や家具、中古の流通が盛んな自動車や本などははずされた。特に中古車はトラブルが多いので、規制に含めるべきでは、という意見もある。

 

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 「究極のエコカー」といわれる燃料電池車への注目度が高まっている。国内での一般向け発売が迫っているからだ。トヨタ、ホンダの両社は2015年、日産は2017年に販売開始を予定している。

 燃料電池車の動力は、水素と空気中の酸素を化学反応させ、生じた電気で駆動モーターを回転させることで得られる。燃料は水素。1回の水素注入で500キロメートル以上は走行できる。排出するのは水だけ。二酸化炭素は一切発生しない。

 気になる一般への売り出し価格は、安くても500万円台と想定されている。かつては千万円台だったが、ヒト桁安くなって国産高級車クラス並にまで落ちてきた。それでも庶民には高根の花かもしれない。

 価格とともに、普及に向けて課題なのが、燃料の水素を補給する「水素ステーション」を増やすことだ。4月19日、神奈川県海老名市のガソリンスタンドに水素ステーションがオープンしたが、まだ国内17か所目にすぎない。政府は補助金制度を設けて2015年までに国内の水素ステーションの数を100か所に増やす方針。

 燃料電池車の世界市場は2025年度に3兆円近くに達するという数字もある。

 

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 糯米(もちごめ)や粳米(うるちまい)の団子を、笹(ささ)や菰(まこも)の葉で包んで円すい状の形に整え、藺草(いぐさ)を巻いて蒸したもののこと。

 5月5日の端午の節句には、菖蒲(しょうぶ)湯に浸かり、粽をいただいて邪鬼を払うという風習が現代も続いている。さすがに家庭で粽をつくることは少なくなってしまったが、5月が近づくと、和菓子店には「粽のご予約承ります」という張り紙が見られるようになる。京都の粽といえば、第一に「川端道喜(かわばたどうき)」である。吉野葛(くず)を使った「道喜ちまき」は内裏粽ともいわれ、16世紀から天皇に献じられており、京生菓子きっての存在である。

 粽の由来は、紀元前4~3世紀の中国、楚の国で起こった逸話にあるとされている。楚の王族で詩人の、屈原(くつげん)の故事にちなみ、屈原の命日5月5日に、米を厄除けの棟樹(れんじゅ、ビャクダンのこと)の葉に包み、5色の糸で巻いたものを供物として捧げたというのが始まりだといわれている。

 日本に伝わった時期は古く、穢(けが)れを払う日であった端午の節句の節物として、平安時代の『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』や『伊勢物語』などの多くに、粽を用意したという記録が見られる。江戸時代になり、武家社会で端午の節句が子孫繁栄を願う意味合いを強めると、粽は葛粉や米粉の甘い和菓子として工夫されるようになっていった。

 京都にはもうひとつ、食べない粽をいただくときがある。7月の祇園祭(ぎおんまつり)の飾り粽である。これは形こそ似ているが、上賀茂(京都市北区)の農家が、藁(わら)を笹に包んで藺草で巻いたものである。農家で毎年3万本あまりもつくるといわれており、その10本をひと束として「蘇民将来之子孫也」のお札を付けたのが飾り粽である。こちらは祇園祭のときに授けられるので、玄関先に飾り、1年間の厄除けのお守りとするのが習いである。


ういろうを笹の葉で包んだ粽。中身はういろうと葛餅のものがあり、ういろうのほうがよく売られている。笹の葉3枚ほどで包み、藁で巻いて縛ったという単純な和菓子だが、ほどよく笹と藁の香りが移った餅を口に含むと、五月晴れのようになんとも清らかな気分にしてくれるのである。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


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