人の集まりそうな至る所で「コンチキチン」と祭り囃子が溢れだす。「もうすぐ祇園祭やなぁ」とつぶやく時節になった。そもそも「コンチキチン」というのは「祇園囃子」の俗称でもある。

 祇園囃子とは、鉾の上で保存会の人たちによって演奏される祭り囃子で、主に竜笛(りゅうてき)や能管といった笛、太鼓、鉦(かね)で構成されている。囃子方のある山鉾町すべてが演奏する共通した曲と、町独自で継承している曲があり、巡行中の演奏する場所や時点が決まっている曲が多い。

 例えば、ゆっくりとした調子の「コンチキチン」は「地囃子(じばやし、奉納囃子とも)」と呼ばれる曲で、祇園祭の期間中に一番耳にするお囃子である。また、7月17日の山鉾巡行の時は、ゆったりとした調子の「渡り囃子」に始まり、山鉾が四ツ角にさしかかり、「さぁて、辻回しだ!」と力が入るときには「辻囃子」が演奏される。そして、帰り道にさしかかると、「もう一踏ん張り!」の気合いを入れるように、テンポの速い「戻り囃子」に変わる。一口に「戻り囃子」といっても、山や鉾それぞれの曲目が選ばれている場合もある。月鉾の「戻り囃子」の場合は、鉾の「月」に由来する曲などを含め、30曲あまりもの曲が演奏されているそうだ。

 ちなみに、「コンチキチン」という音は、金属製の「たらい」のような形をした鉦を、「鉦すり」というバチのような道具で打った時の音だ。鉦は中心部分を打つと「コン」と鳴り、鉦の内側の下のほうを打つと「チン」、下のほうを打って「鉦すり」を止めると「チ」、内側の上のほうを打つと「キ」と鳴る。これらの音の違いに独特の節をつけながら、「中心・下・上・下」と打ったとき、祇園囃子の「コンチキチン」という鉦の音が鳴るのである。


鉾に供奉する鉾稚児(ほこちご)を乗せ、巡行する函谷鉾(かんこぼこ)。昔は船鉾以外には生き稚児が乗ったが、今は長刀鉾(なぎなたぼこ)のみである。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   



 『週刊新潮』(6/29号、以下『新潮』)が大ヒットを飛ばした。「『豊田真由子』その女代議士、凶暴につき──被害者が捨て身で現場『音声データ』録音!」がそれだ。

 豊田とは自民党の豊田真由子衆院議員(42)のことである。彼女が車の中で55歳の政策秘書へ浴びせた罵詈雑言を、念のためにと、秘書が録音していたのだ。

 「この、ハゲーーーーっ!」「おー! お前はどれだけあたしの心を叩いてる!」「お前が受けてる痛みがなんだ! あたしが受けてる痛みがどれぐらいあるか、お前分かるかこの野郎!!」「このキチガイが!!!」

 さらにはミュージカル調(『新潮』)で、「お前の娘がさ、通り魔に強姦されてさ、死んだと。いや犯すつもりはなかったんです、合意の上です、殺すつもりはなかったんですと。腹立たない?」

 ついには「(政策秘書の)娘が、顔がグシャグシャになって頭がグシャグシャ、脳味噌飛び出て、車に轢き殺されても……
 ♪そんなつもりがなかったんですーーー
 で、済むと思ってんなら同じこと言い続けろ~~~~~」

 こう絶叫したりメロディを付けながら、豊田センセイは秘書の頭をボコボコにしたのである。しかも激した理由は、支持者に送ったバースデーカード何十枚かの宛先が間違っていたことだというのだから、ここまで怒ることではないと思うが、豊田センセイにはお気に召さなかったようだ。(編集部注:秘書が高速道路で出口を間違えて逆走したのが、同乗の豊田議員の暴言・暴行問題の原因だと、同議員が所属する細田派の細田自民党総務会長が6月27日、記者会見で釈明した。(同日付、毎日新聞))

 当の秘書がこう語る。

 「この音声は5月20日に録音したものです。後部座席にいた豊田代議士の拳骨が私の頭、左のこめかみあたりに、計6、7回にわたって振り下ろされました。彼女に殴られた箇所は後に腫れ上がり、今でも顔面に違和感が残っています」

 暴行後も豊田センセイの姿勢に変化は見られなかった。そのため秘書は通常国会の会期末、6月18日付で秘書を辞した

 「暴行の事実を伏せたままでは、今も彼女の周りに残っている秘書たちが、今後、新たな被害者になる可能性もあると思い、今回、世間の人に真実を知ってもらうべきだとの考えに至りました」

 命がけの告発である。

 この代議士センセイ、名門桜蔭高校から東大法学部を卒業して厚生労働省にキャリア官僚として入省している。ハーバード大の大学院留学経験もあり、夫も国交省の官僚である。

 15年から16年まで文科省大臣政務官を務め、出世の階段を順調に上ってきたという。

 12年に安倍総裁が率いて大勝した「政権再交代選挙」の自民党公募に応じ、落下傘候補として埼玉4区から出馬し当選している。

 いわゆる「安倍チルドレン」である。当選後は総裁派閥である細田派に所属している。現在当選2期目、ピッカピカの経歴の持ち主だ。

 だが以前から、彼女の事務所には秘書がいつかず、当選して以来100人の秘書が逃げ出していると評判だった。

 彼女の武勇伝はこれだけではない。14年4月の園遊会に、本来入れないはずなのに母親を同伴し、制止する者を怒鳴り散らして強引に入場したことが問題になったこともある。

 『新潮』は、「第二の田中真紀子」などといわれているという。生前、父親の田中角栄は「真紀子はゴリラだ」と言っていたそうだが、とすれば真由子は程度の悪いゴジラかアンギラスのようなものか。

 このセンセイ、出来の悪さでは群を抜いているといわれる安倍チルドレン「魔の2回生」の問題議員の一員である。

 ゲス不倫の宮崎謙介、重婚の中川俊直、路チューの中川郁子(ゆうこ)、その相手の門博文(かど・ひろふみ)など錚々たる輩がいるが、この“事件”で、豊田が断トツトップに立ったことは間違いない

 この罵詈雑言爆弾の破壊力はすさまじいものである。活字だけならこれほど注目を集めなかったであろう。

 だが、元秘書が録っていた音声が『新潮』のデジタル版(「週刊新潮Twitter」「デイリー新潮」)で流され、それを使ったテレビやYouTubeを通して日本中に流れたのである。ワイドショーはもちろんのこと、NHKのニュースまで流したから、あっという間に豊田真由子という名前は全国区になった。

 ちなみにYouTubeのデイリー新潮へのアクセスは6月29日時点で207万回であるが、それ以外にも無数の関連動画があるから、すごい数になるに違いない。

 早速、お笑い芸人たちはこれをネタに笑いを取り、ニコニコ動画などにはダブステップ(ダンスミュージック)風にアレンジした曲や、めいっぱいシャウトしたノリのいい曲にアレンジしたものなどが続々載っている。

 この中から去年のピコ太郎のように、ヒット曲が生まれるかもしれない。

 こんなことは日本の政治史の中でもまれである。

 これまでも、国会での吉田茂元首相の「バカヤロー解散」、小泉純一郎元首相の「公約なんか破ってもたいしたことはない」「人生いろいろ」、安倍首相の「俺の考えを知りたければ、読売新聞を読め」など迷言、珍言はいろいろあったが、これほどインパクトのあるものはなかった。

 否、あったのだろうが、このような形では公開されなかったのだろう。

 稲田防衛相が6月27日、東京・板橋区で都議選候補を応援した際、「防衛省、自衛隊としてもお願いしたい」と述べたのもひどい放言であった。

 稲田は、この発言が自衛隊の政治利用と受け取られかねず、法に抵触するおそれがあるということを知らなかったのであろう。あきれ果てる。

 稲田は27日夜、発言を撤回する考えを示したが、綸言(りんげん)汗のごとしである。豊田や稲田のような輩が安倍の周りに蝟集(いしゅう)するのは、類は友を呼ぶからである。

 以前、兵庫県議会の野々村竜太郎議員の「号泣記者会見」が日本中の爆笑を買ったが、それを超える、ものすごい真由子の“ショータイム”である。

 秘書は警察に被害届を出すことを含めて警察と相談しているようだが、受理されれば傷害罪が成立するかもしれない。まあ、豊田側から示談を申し入れて金銭で解決ということになるのであろう。

 豊田は早速離党届を出し、安倍首相は「やむを得ない」と言ったそうだが、腹の中は煮えくり返っていることだろう。

 私には既視感がある。事務所費問題を追及され、絆創膏を貼ってテレビカメラの前に立った赤城徳彦農水相の姿である。この直後の参議院選で安倍は惨敗し、政権をおっぽり出すことになっていった。

 今回は国政選挙ではないが、豊田の絶叫で都議選での自民党の敗けは決まったも同然だろう。歴史は繰り返すものである。

 ところで、『新潮』はデジタル版で豊田センセイの声を流したが、このやり方に私は得心がいかない。なぜCDにして付録としてつけなかったのだろう。今は安くCDに焼くことができる。残念だが、この面白さは活字を読んでも伝わらない。

 CDを付け、発売数日後にテレビが流すことを許可してやれば、部数が数万部は跳ね上がったと思う。私だったらそうしたが、惜しいことをした。

 これを機に、『フライデー』をはじめ、各週刊誌は「記事の見える化、聞ける化」を考えたほうがいい。自社サイトの会員になってもらうために使うよりも、ネット弱者でもすぐに聞けるCDやDVDはまだまだ拡材として使えると思うからだ。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 先週(6月23日)の金曜日は爆笑と号泣が日本列島を包み込んだ日として、数年先には思い出されることになるだろう。豊田真由子議員の「このハゲ!」で笑い転げ、午後は一転して、市川海老蔵の会見で、彼とともにテレビを見ていた人間は、私を含めてもらい泣きした。34歳の若さで、幼い子ども2人を残して逝かなければならなかった麻央の無念を、悲しみを思うと、何も言えなくなる。無駄に年を取ってきた自分がなぜ生きていて、彼女が死ななければならなかったのか。不条理という言葉が浮かんだ。

第1位 「小倉智昭“古希の恋”──人妻美人記者と『週1密会』」(『週刊文春』6/29号)
第2位 「読売『内部文書』スッパ抜き!」(『週刊文春』6/29号)
第3位 「愛し愛されて旅立った」(『AERA』7/3号)

 第3位。6月23日、金曜日に市川海老蔵が緊急会見を開いた。その直前、海老蔵はブログに「一番泣いた日」と書いた。
 愛妻で乳がんを患ってい小林麻央が22日夜、旅立ったことを、溢れる涙を拭きながら報告した。
 まだ34歳の若さだった。会見を開いた海老蔵は、麻央が死ぬ間際に「愛している」と海老蔵に言ったと話している。
 会見を見ていた者はみな泣いた。幼子2人を残して逝く彼女の心残りは、生きている者には想像さえつかない。
 「妻には笑顔と勇気と愛情をもらった」。あの半ぐれのような若い頃の海老蔵を、ここまでに成長させた妻・麻央は素晴らしい人だったと思う。
 『AERA』によると、麻央のブログには現在250万人の読者がいるという。
 同誌では10年に麻央が13回の対談をしていた。作家・渡辺淳一に、なぜ2、3回会っただけで海老蔵と結婚しようと思ったのかと聞かれて、こう答えている。

 「もし運命とかそういう言葉があるなら、本当にあるんだなあという気持ちです」

 最後のブログ(6月20日)にはこう書いていた。

 「皆様にも、今日、笑顔になれることがありますように」

 麻央の笑顔は永久に見ることができなくなってしまった。ご冥福をお祈りする。

 第2位。『新潮』は前の週で、結婚記念日の深夜に起きた安倍首相の「緊急事態」を報じた。その『新潮』が今週も、15日に行なわれた都内のホテルでの朝食会で、安倍に長く仕えてきた秘書が、当夜、「もともと痛めていた五十肩がひどくなって、診に来てもらった」と、急の来訪者の存在を認めたと報じている。
 政権末期にはさまざまな情報が飛び交うものだが、安倍もそういう時期になったのであろう。
 内閣支持率の急落、加計(かけ)学園問題の波及、都議選への不安、7月初めからのG20と続くのは、第一次政権を投げ出した当時と酷似している。
 『文春』は、前川前次官の「出会い系の店通い」を報じた読売新聞が、読者からの厳しい批判にさらされ、記事当日から1週間分の意見がまとめられた内部資料「東京・読者センター週報」を手に入れたという。
 それは東京・大阪・西部3本社に寄せられた読者の意見を紹介したもので、加計学園と前川前次官関連は594件。北朝鮮問題が61件だから、その多さがわかるはずだ。
 そのうち9割近くが批判的な意見だという。しかもこの記事は、現役の読売の記者に言わせると、白石興二郎会長が社長の時、第三者機関で事前に記事を審査するシステム「適正報道委員会」を作ったが、そこを通していないというのである。
 官邸のリークの疑いがあり、買春の裏も取れていない、前川本人の話も聞けていないのでは、通さなかったのではなく、通せないからスルーしてしまったということであろう。
 だが、この記事を読んで、匿名で内部を批判する記者はいるが、堂々と名前を出して批判する、こんな社は辞めてやるという記者がなぜ出てこないのだろうかと、不思議でならない。

 第1位。6月22日の朝、フジテレビの『とくダネ!』をつけたら、冒頭いきなり小倉智昭が「私も文春砲にやられました」と話し出した。
 何でも、20歳以上下の人妻記者と2人きりで食事したり、事務所に入ったまま2時間も電気を消して出てこなかったりしている。「密会」しているに違いないと書かれたという。
 それに対して小倉は、2人きりではなくてマネージャーがいつもいる。事務所にはミニシアターがあり、映画を見ているから暗いのは当たり前だなどと弁解した。
 それに僕は膀胱がんだから、そっちのほうはダメだと、言わなくてもいいことまで付け加えたが、目は笑っていなかった。この「古希の恋」は本物なのだろうか。
 だいぶ昔になる。小倉は大橋巨泉事務所にいた。たしか『フライデー』だったと思うが、小倉が浮気をしているところを撮られたが、何とかしてくれないかという電話が巨泉事務所からあったと記憶している。
 話を聞くと、浮気は事実だが、小倉に謝らせるからボツにしてくれないかというのだった。そこで『フライデー』に連絡して、話だけでも聞いてやってくれといった覚えがある。掲載されたかどうかは記憶にないが、そんなことを思い出した。
 『文春』によれば、女性は大手新聞社のA子さんで40代の人妻、身長170cmほどのスレンダー美人だという。
 小倉は中野坂上で焼き肉屋を経営し、その上が事務所になっている(私の家と近い)。5月31日の午後7時前、黒のキャップに青い柄のシャツを着た小倉が事務所の前でキョロキョロしながらあたりを警戒していた。
 その少し前にA子さんが中野坂上駅から歩いて来たが、わざわざ反対側の歩道へ渡ったりと、おかしな動き方をしながら小倉の事務所へ入って行った。
 『文春』によると、A子さんが訪れるときは決まって、マネージャーをはじめスタッフを全員退社させるそうだ。
 その後、2人は別々に近くのイタリアンレストランへ行き、食事をするが、戻るときにも右、左に別れて事務所へ。約1時間後、小倉がタクシーを拾い、A子さんの自宅前で彼女を降ろし、自分は練馬の自宅へ帰っていったという。
 フジテレビの関係者によれば、彼女とは食事だけでなく、ゴルフやジャズのコンサートにも連れ出す、小倉の「いつでもそばにいる」存在だそうだ。
 『文春』が見ている限りでも、1月には4回、そのうち2回は事務所で「密会」しているという。
 小倉は『文春』の直撃に、耳まで紅潮させて「やましい関係なんてない」「一緒にいて楽しい人、親友」と男女の仲を否定している。ここでも「がんだから、そんなことができる状況ではない」と、言っている。
 親しい新聞記者なら、女性であってもこそこそする必要はないはずである。豪華なシアタールームで映画か音楽を聴いていたというのも、そういうときに備えて「言い訳できる」部屋を作っていたのではないかと邪推できる。部屋の写真を見ると、ゆったりしたソファーが2組あるだけだから、どんなことにも使えそうではある。
 第一、人妻相手に忍んで会ったりして「W不倫」を疑われるような行動は公人として慎むべきであるはずだ。
 慎まない、俺は彼女が好きだというなら堂々としていたらいい。70ジジイがいまさらこそこそ「逢引する」なぞ、カッコいいものではない。
 次々に不祥事が明るみに出るフジテレビだが、今やフジの顔ともいうべき小倉のスキャンダルがフジをどん底まで落とすことになるかもしれない。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   



 シビックテックは「市民のテクノロジー」という意味。ITを通して市民が主体的に地域の身近な課題を解決しようとする取り組みのことだ。……こう書いてしまうと、漠然としていてピンと来ないだろう。

 たとえば、ゴミの収集などがわかりやすいかもしれない。昨今は分別に関してルールが細かくなり、収集日も地域ごとで異なる。これを役所が従来のように印刷物などで広報しようとすると、非常に見にくいシロモノができあがるだろう。だが、スマホのアプリなどが利用できると、地域名を打ち込んだだけですぐに知りたい情報が判明するわけだ。

 シビックテックの概念は、ネットを通したサービスに慣れてしまうと、役所の一律的な対応は時間もかかるし面倒くさい、不満足なサービスに感じる、というところから海外で発展していったようだ。役所とのやりとりを、もっとカンタン・便利に。そのためには、市民がどんな不満を抱いているか、何が必要か、行政が把握する必要がある。また市民のほうも、身近な問題を行政に訴えかけていくべきだ。ネットを利用すれば、困り事を気軽に伝えやすくなるはずである。

 ただ、種々のサービスがすでに存在していても、知られていないから、利用者が少ないという事例も見受けられる。実際のところ、高齢者にとってITはハードルが高いが、いまではタブレットなども手に入れやすく、簡単な講習などですぐに理解できる場合が多い。別に都会に限った話ではなく、高齢者の多い地域や田舎など、日々の情報が共有化されにくい環境こそ、人と人とがネットワークでつながるメリットが大きいものだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 いち早く花を咲かせ、春の訪れを知らせた梅は、初夏に大きな実をならせる。その実を使って梅干しや梅酒などの保存食を作る「梅仕事」は、日本で古くから梅雨の時期に行なわれてきた食の行事だ。

 梅の実を使った保存食は、梅酒、梅シロップ、梅肉エキス、梅ジャムなどがあるが、梅仕事の代表格はなんといっても梅干しだろう。

 日本ではじめて「梅干し」という言葉が登場するのは、平安時代中期の医薬書『医心方(いしんぼう)』で、村上天皇の疫病を梅干しと昆布茶で治したという記録が残っている。当初は、漢方薬として用いられていたようだ。

 この梅干しが、鎌倉時代になると僧侶が酒の肴や調味料として使うようになり、食用としての用途が広がるようになる。さらに、戦国時代には兵士たちの疲労回復を助ける陣中食、傷口の消毒や伝染病の予防などにも使われるようになり、保存食としての梅干しは暮らしに根づいていくことになった。

 長期間保存のきく梅干しだが、作れるのは梅が実をつける梅雨時に限られる。

 その短い旬のなかでも、梅干し作りに適しているのは実が黄色く色づき始める頃だ。早すぎても実が硬すぎるし、時期を逸すると実が崩れてしまうので、梅の熟し加減に合わせて実を収穫し、塩漬けにする。

 こうして漬けた梅を土用の頃にいったん干し、再び容器に戻して保存していく。タイミングを逃さず、漬けたり、干したりするのが梅仕事の難しさでもあり、醍醐味でもある。

 だが、梅干しは一度作ってしまえば、長期間の保存がきき、さまざまな料理に使うことができる。おにぎりやお茶漬けはもちろんのこと、煮魚の調味料として使ったり、梅肉で和え物にしたりするなど、梅干しの用途は幅広い。

 また効能も豊富で、梅干しに含まれているクエン酸には、疲労回復を助けるだけではなく、動脈硬化の予防も期待されている。そのほか、細菌を抑制する働きもあるため、食中毒の予防にもなるといわれている。

 梅仕事の旬もそろそろ終わりに近づく。今は、簡単に市販の梅干しも手に入るが、それぞれの家庭で手作りされたものは格別だろう。数か月後、出来上がった梅干しや梅酒を持ち寄って、食べ比べしてみるのも、また楽しみになる。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   



 「たつこ姫伝説」で有名な秋田県の田沢湖には、かつてクニマスという固有種がいた。温泉水を含んだ川の水が注いだため、水が酸性となってしまい、戦前に絶滅の憂き目に遭っている。ところが2010年、富士五湖の一つ・西湖(さいこ)で約70年ぶりに生息が確認された。かつて田沢湖から移入された卵が生き残っていたのである。あの「さかなクン」が発見のきっかけになったことは、当時大きな話題となった。

 田沢湖がある仙北(せんぼく)市では、野生のクニマスの復活を目指し、「死の湖」の汚名を返上すべく水を中和する作業が進められている。だが、いまだ多くの魚が棲めない状態で、実現はまだ先の話となりそうだ。一方で再発見の年から始まった「クニマス里帰りプロジェクト」も進んでいる。7月に「田沢湖クニマス未来館」という施設が開館するが、ここに山梨県水産技術センターで人工飼育されているクニマスのうち10匹が輸送されたのだ。漁の資料などとともに、大型水槽で展示される予定になっている。やがて本当の意味で、クニマスが湖に里帰りを果たす日を期待したい。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   



 IT業界では「時代はモバイルから人工知能(AI)に変わった」との評価を聞くことが少なくない。そしてAI時代の主役に躍り出ようとしているのが「スマートスピーカー」(AIスピーカー)だという。

 人工知能を搭載したスピーカーが米国で急速に普及している。アマゾンやグーグル、アップル、マイクロソフトなど米IT企業が開発・販売を競っている。日本でも2017年5月、グーグルが「グーグルホーム」を年内に日本で発売すると発表した。2016年に先行販売した米国では価格が129ドル(約1万4000円)とお手頃だ。LINEも、AIを活用した会話型端末「WAVE」を今夏に日本と韓国で発売する。スマートスピーカーは、日本でも一気に普及する可能性がある。

 スマートスピーカーをリビングに置いて話しかけると、お気に入りの音楽がかかったり、その日の天気予報などを教えてくれる。エアコンやテレビのスイッチも声をかければ入る。キーボードを叩かずともネット検索してくれる。

 サービスのネットワークが進めば、ネット通販や出前の注文、タクシーの手配などにサービスは拡大するだろう。将来的には、子守や家庭教師、独居老人の相談相手もやってくれそう。リビングの主役はテレビからスマートスピーカーに変わるのは間違いない。

 スマートスピーカーが関わる市場は巨大なものになりそうだが、気になるのは、先行したのがアマゾン、グーグルなど米国企業であることだ。世界を変える独創的なビジネス、商品開発は、もはや日本から生まれないのか。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   



 彼氏or彼女とデートしているような気分が味わえるピン(一人)の主観画像に「彼氏(彼女)とデートなう。に使っていいよ」というハッシュタグを付けてアップする、ツイッター上でのジョーク的な行為のこと。

 「元祖」とされているのは、朴訥な容姿の某男性声優さんだという説が有力だが、それに女優の橋本環奈(18)らが参戦し、只今芸能人のあいだでも大流行……なのだそう。

 芸能人をはじめとする著名人が被写体ならまだしも、顔が広く知られていない一般人までが続々と参戦しているため、それを彼氏や彼女からいきなり送られてきたヒトは真剣に浮気を疑い、そこから洒落にならない痴話ゲンカへと発展してしまうケースだって少なからず……とも聞く。

 この「デートなう」を発信するメリット、利用するメリットがツイッターをやらない筆者には正直さっぱりわからないのだけれど、つまりはそれくらい、SNSのヘビーユーザーたちは「オレ・アタシをアピールするネタ探し」に日々四苦八苦しているってことなんだろう。

 ちなみに筆者は、某ネット動画の企画で、自身がキメキメにモデルポーズをしている画像を「スマホの待ち受け画面に使ってください」とネット上に流したことがあるんだが、「嫌がらせ」という面では「デートなう。に使っていいよ」より断トツに優れている……と確信している。
   

   

ゴメスの日曜俗語館 / 山田ゴメス   


<<前へ       次へ>>