ウリ科の一年草で重要な野菜である。日本で栽培しているカボチャには植物分類学上次の3種がある。(1)ニホンカボチャC.moschata Duch.(英名pumpkin) トウナス,ボウブラとも呼ばれた。(2)セイヨウカボチャC.maxima Duch.(英名winter squash) クリカボチャともいう。(3)ペポカボチャC.pepo L.(英名summer squash) 観賞用のカザリカボチャ(オモチャカボチャともいう),飼料用のポンキンが含まれる。
(1)ニホンカボチャは原産地が中央アメリカから南アメリカ北部の熱帯地方で,東アジアの多湿地帯から温帯北部に分布している。日本への渡来はニホンカボチャが最も古く,16世紀に豊後国にポルトガル船によって伝えられ,その後各地に栽培が広まった。カボチャと呼ぶようになったのはカンボジアに生じたものと考えて名づけられた。ボウブラはポルトガル人が長崎へカボチャを伝えたとき,ポルトガル語でaboburaといったのがなまったものといわれている。トウナス(唐茄子)は果形がナスに似ているため中国から渡来したナスという意味の名である。(2)セイヨウカボチャは中央アメリカから南アメリカ高原地帯の原産で,分布は原産地を反映して北アメリカ,北ヨーロッパ,シベリア地方に多い。日本へは19世紀の中ごろ,アメリカから伝えられたが普及せず,明治に入って多くの品種を導入し,北海道,東北,長野の高冷地方で栽培された。(3)ペポカボチャは北アメリカ南部の原産で,南ヨーロッパ,アメリカなどで野菜用,飼料用として栽培が多い。日本への渡来はセイヨウカボチャよりさらにおくれて導入されたが,飼料用栽培以外は少なく,自家用程度である。
草姿はつる性で地上をはうが,ペポカボチャ,セイヨウカボチャの中には矮性でつるにならないものもある。葉形はペポカボチャが切れ込みが深く三角形に近い。他の2種は切れ込みがないかあるいは少ない。しかしニホンカボチャは葉片が角ばり,セイヨウカボチャは丸みを帯びる。また,ニホンカボチャの果柄は果実に接する部分が五角形に拡大,ペポカボチャは果実に接する部分が多少広がる程度,セイヨウカボチャは果柄が丸く膨大する,といった果柄接着部の形状の違いで3種をはっきり区別できる。
日本各地に土着したニホンカボチャは改良が加えられ,特色ある品種が多数育成された。1921年の調査で143の品種が数えられ,果形,果皮色,果面のこぶ状隆起の有無などで六つの品種群に分けられた。その後しだいに地方品種は姿を消したが,その中から居留木橋(いるきばし)カボチャ型に属する品種が発達し,主要品種の大部分がこの型に属する。一方セイヨウカボチャは食味のよいデリシャス系を中心に多くの系統,品種が育成され,かつて生産の大半を占めていたニホンカボチャに代わって最近ではセイヨウカボチャが生産の主流を占めている。そのほか種間雑種としてセイヨウカボチャとニホンカボチャの1代雑種も育成,利用されている。またこの種間雑種は暑さ,寒さによく耐え,生育も旺盛でキュウリ,メロンなどの耐病性台木として利用されている。
カボチャはウリ科のなかでも作りやすい野菜で,なかでもセイヨウカボチャはニホンカボチャより低温でもよく生育する。しかし,高温になると発育や着果が悪くなり,食味も落ちる。栽培は10月まき1~3月収穫の促成,12月まき4~5月収穫の半促成,2月まき6~7月収穫の早熟,4~5月まき7~8月収穫の露地,8月まき10~11月収穫の抑制栽培がある。カボチャは一般に吸肥力が強く,生育旺盛になりやすいため着果が悪い。自然放任では雌花開花数の20%程度の結実である。したがって雌花開花中は午前9時ころまでに人工交配をする。開花後30日前後で収穫する。カボチャは病虫害の少ない作物で,防除の必要も少ない。主産地は北海道,茨城,鹿児島などである。
カボチャは果菜として最もデンプンに富み,イモ類,マメ類についでカロリー価も高く,第2次大戦中は代用食として使用されたが,戦後は再び調理用として利用されている。また多量のビタミンAと若干のBおよびCを含み,ビタミン源としても重要な野菜である。調理用としては煮物,汁の実,てんぷら,裏ごししてポタージュやパイに用いるほか,加工用原料としても利用される。また家畜の飼料用に,品種によっては観賞用とする。そのほか,土壌伝染性のつる割れ病に強く,キュウリ,メロン,スイカなどの耐病性台木として利用している。
食用にはならないが,果実が小型で形や色彩がおもしろいので装飾用に用いるペポカボチャ。オモチャカボチャ,カザリカボチャとも称する。原産地は北アメリカ南部で,性状はセイヨウカボチャとほぼ同じであるが,つるにならないものもある。果実の形は球形,とくり形,洋梨形などさまざま。果皮は堅く,白色,橙色,緑色,下半分が黄橙色,下半分が緑色,条斑など変化に富み,平滑なものやいぼ状突起のあるものがある。種まきは5月に直まきとするか3月にフレームや温室でまき,苗を5月に元肥を十分に入れた土壌に植える。栽培中,高温と乾燥にあうとウイルス病に侵される傾向が強いから,十分灌水につとめる。収穫は果皮が堅くなってからがよく,そのまま装飾に用いる。貯蔵中1~2月の低温にあうと果皮や果肉が腐るから高温を保つ。
カボチャはボウブラ,ナンキン,トウナスとも呼ばれ,冬至に食べると中風や風邪を患わないという。冬至にカボチャを食べる風習は江戸時代に広まったと考えられる。冬至は太陽が最も衰える日であり,太陽を象徴した野菜や果物を食べるようになったとも考えられる。カボチャは冬至を過ぎてから食べるものでないとか,年を越させると腐るともいい,冬至に食べるカボチャをあらかじめ定めておく所もある。カボチャはつる状の茎をもち,唐津市神田では,領主が攻められて逃げたときにこのつるに足をかけて殺されたのでカボチャを作らないといい,宮城県角田市郡山では,昔カボチャを作ったところヘビが中に入っていたので,それ以来作らないと伝えている。アメリカではハローウィーンにカボチャの提灯jack-o'-lanternを戸口に立てる風習が盛んである。
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