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ジャパンナレッジで閲覧できる『蛋白質』の辞書・事典・叢書別サンプルページ

岩波 生物学辞典・世界大百科事典

岩波 生物学辞典
蛋白質
[protein]

《同》タンパク質.生物体を構成する主成分.生細胞では水 (約70%) に次いで15~18 %を占める主要な高分子群であり,ヒト,シロイヌナズナ,大腸菌ではそれぞれ約2万,1万,4400種の蛋白質がみられる.その機能は,触媒(酵素),構造・骨格,収縮・弛緩,輸送,ホルモン,防御,電子移動,受容体,抑制因子,シャペロン,貯蔵,毒素など多岐にわたり(protein universe),秒レベルから数カ月程度の寿命をもつ. 20種のα–アミノ酸(19種のL–アミノ酸とグリシン)で,ペプチド結合により連結してペプチド鎖を生成し,アミノ酸配列に対応した高次構造の形成と必要な修飾を経て一定の安定性と活性をもつ分子に成熟する.古細菌のメタン生産菌では,セレノシステインピロリシンが21,22番目のアミノ酸として使われる.アミノ酸のみで構成される単純蛋白質のほか,機能発現に不可欠な成分を結合する複合蛋白質として,金属蛋白質(Ca, V, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Se, Mo)や他種分子を結合した蛋白質がある(核蛋白質,糖蛋白質,リン蛋白質,リポ蛋白質,色素蛋白質).既知蛋白質の平均分子量は2万2000程度であり,大きなものでは筋原繊維をつくる分子量378万のコネクチン(タイチン)などがある.多くの蛋白質は水溶性で,アルブミン(水に可溶),グロブリン(稀薄塩水),グルテリン(稀薄な塩や酸),プロラミン(アルコール水)の4種に分類される.正味電荷がゼロになるpH (等電点: pI)では溶解度が下がり,凝集して沈澱しやすい.既知の分子では,塩基性から弱酸性域にpIをもつものが多い.蛋白質は,一次構造(ペプチド鎖)が二次構造(α–ヘリックス,β–構造,β–ターン)を形成し,それらが折り畳まれて三次構造を組み立て,高次構造を完成させる.この段階で単量体は機能を獲得する.さらに高次の四次構造をつくる蛋白質は,同種または異種の分子と会合してオリゴマーを構成し,高次構造を完成させる.蛋白質分子は,少なくとも1個のドメインをもち,必要に応じてモチーフ(二次構造が形成するサブ構造)やモジュール(ドメインより下位の構造単位.平均15残基ほどの連続した残基からなるコンパクトな構造で,しばしば機能の単位にもなる)をもつ.これらの有機的な連携は高次の分子機能と効率的な発現を支える.成熟した蛋白質は,酸,アルカリ,尿素,グアニジン塩酸塩,有機溶媒のほか,熱,加圧により変性する.変性温度は60°C前後が多く,高度好熱菌では100°C前後である.腸炎ヴィブリオの溶血毒素のように,55°C前後で凝集・失活するが90°C前後で毒性を回復する例もある.コラーゲンの熱変性で生じるゼラチンなどの二次産物は誘導蛋白質(inducing protein)という.蛋白質の分子構成,分子量,アミノ酸配列,修飾アミノ酸の種類と位置は,蛋白質とペプチド断片の質量分析,電気泳動,エドマン分析,超遠心分析により確定する(プロテオミクス).静的・動的な立体構造情報は,X線結晶解析,核磁気共鳴,電子スピン共鳴,中性子散乱,ラマン散乱,円偏光二色性,カロリメトリーなどにより収集する.蛋白質の検出には,呈色法(ビウレット反応,ニンヒドリン反応),紫外吸収スペクトル,特異抗体法のほか,SDS–ゲル電気泳動では染色法(CBB)や銀塩法を用いる.細胞や組織内の挙動は,標識蛋白質(GFP,同位元素,抗体,アビジン–ビオチン結合など)と高性能の測定装置(蛍光・電子・レーザー顕微鏡,NMR)を用いて追跡する.



改訂新版 世界大百科事典
タンパク(蛋白)質
たんぱくしつ
protein

タンパク質は,生物体を構成するもっとも基本的な物質であり,さまざまな重要な働きをしている。細胞内外に見られる種々の構造は,主としてタンパク質により形成されるし,生物に必須の化学反応を触媒する酵素は,タンパク質でできている。そして,生体運動,神経系の活動,物質の輸送,免疫反応などもタンパク質が行っている。すなわち,タンパク質の第1の特徴として,その機能性をあげることができる。

 また,タンパク質はおのおのの生物種に固有のものであり,生物種の特徴はタンパク質により決まっている。タンパク質は,人間をはじめとしてすべての動物の栄養分として重要なものである(タンパク質の栄養的側面については〈栄養〉の項目を参照)。しかし,われわれが牛肉を食べても,牛肉のタンパク質がそのまま体内に入り,筋肉になるのではない。牛肉のタンパク質は,消化管内で構成成分であるアミノ酸にまで分解された後,体内に吸収される。生物の体は,これらのアミノ酸を遺伝情報(核酸の塩基配列)に従ってつなぎ,それぞれに固有のタンパク質を合成するのである。ゆえに,タンパク質の第2の特徴はその特異性である。

 DNAが太さ20Åの二重らせんの糸という均一な構造をもつのに対し,タンパク質の立体構造は種類により,鎖の折りたたまれ方も全体の外形もひじょうに多彩である。DNAはどれをとってみても情報の貯蔵・複製・発現という限られた同一の機能しかもたないのに対し,タンパク質は機能的に分化しており,種類により異なるさまざまな機能を果たす。これが構造上の多様性にも表れているのであろう。DNAについては一般論で多くのことを説明できるが,タンパク質は各論を語らないかぎり,その豊かさと精妙さを説明できない。このように,タンパク質の第3の特徴は,その多様性である。

 細胞の“生きている”成分である原形質は,水分を除くと主要な部分はタンパク質でできている。したがって,100年以上前の人々が,生命の神秘を解く目的で,まずタンパク質の研究に着手したのは当然であった。タンパク質を意味するproteinという語がギリシア語で“第1の”という意味をもつprōteiosに由来するのも,このような背景から考えると理解できる。しかし,19世紀から20世紀初頭の学界では,まだいろいろと混乱した考えがみられた。たとえば,〈タンパク質は生きているから決まった構造をもたないはずだ〉〈種々のタンパク質は一つの化学式で表される〉〈数万から数十万という大きな分子量をもつ化合物などありえない〉〈タンパク質の構造は単純な構造の繰返しである〉などである。

 表1に示すタンパク質研究の歴史は,いわば,これらの誤った考え方が徐々に訂正されてゆく歴史でもある。そして到達した現在のタンパク質観は次のとおりである。タンパク質にはひじょうに多くの種類があり,種ごとに大きさ・形・化学組成が異なる。しかし,一種のタンパク質を取り上げてみると,それは一定の大きさ・一定の形・一定の化学構造をもっている。その構造は,化学構造(アミノ酸配列)・立体構造ともひじょうに複雑であり,単純な構造の繰返しに還元することはできない。複雑な化学構造をまちがえずに合成できるのは,遺伝情報に従って作られるからである。また,複雑な立体構造は,与えられた化学構造の範囲内で自由エネルギーが最小になるように決まる。--それでは,このタンパク質観は最終的なものなのだろうか。また,将来にはどんな問題が残されているのだろうか。まず,現在の知識を整理してから,最後にまたこの問題に戻ってみよう。

タンパク質の構造

タンパク質の構造は一次から四次までの段階に分けて記述されることが多い。一次構造とはいわゆる化学構造で,アミノ酸がどの順序に結合しているかをいう。一般にタンパク質はプロリン残基(図1)を例外として,次のような構造式で表される。ここで,この式の左端はアミノ末端,右端はカルボキシル末端,-CO-NH-はペプチド結合,-NH-CHRi-CO-はアミノ酸残基,化学構造に注目したとき全体はポリペプチド鎖と呼ばれる。また,Riを側鎖,Ri以外の部分を主鎖,Riの結合する炭素原子をα炭素原子(Cα)という。重合度nは個々のタンパク質により異なり,およそ数十から数千の範囲にあるが,平均300程度である。アミノ酸残基は基本的には図1の20種類であるが,タンパク質合成後にこれらのアミノ酸残基が修飾を受けて変化する場合もある。アミノ酸組成によりタンパク質の元素組成は異なるが,重量にして炭素50~55%,水素6.9~7.3%,窒素13~19%,酸素25~30%,硫黄0~2.5%の範囲にあることが多い。

 二次構造とは多くのタンパク質に見いだされる部分的かつ特徴的な立体構造のことである。タンパク質中の原子間結合の長さと結合角(一つの原子から出る結合間の角度)は,一次構造によらずほぼ一定とみなしてよい(図2-a)。したがって,立体構造で大きく変化するのは,結合のまわりの内部回転角のみである。主鎖のNH-CαとCα-COのまわりの内部回転角をそれぞれφとψで表す(図2-b)。主鎖のもう一つの結合であるCO-NHのまわりの内部回転角は,ほぼ180度(トランス)に固定されているとみなしてよい。(φ,ψ)の内部回転角の組には,いくつかのエネルギーの低い部分があり(図2-c),これが連続したアミノ酸残基に実現されるとき,二次構造として認識される。α-らせん,β-構造,ポリ-L-プロリンⅡ型らせんが二次構造の例である(図3)。α-らせんはそれ自身の中で,β-構造は他のβ-構造との間で水素結合を作り,構造を安定化している。また,四つのアミノ酸残基から成り,主鎖の向きを変える立体構造,β-ベンド(またはリバースターン)も二次構造の一つに数えられる場合が多い。β-ベンドに限り,連続するアミノ酸残基の(φ,ψ)は大きく異なることが多い。実際のタンパク質中での二次構造については,図467に例を示してある。

 ポリペプチド鎖1本の全立体構造をタンパク質の三次構造という。完全な三次構造は,主鎖と側鎖を含む全原子の三次元の位置座標で表される。ただし,水素原子の位置は,タンパク質の三次構造を決めるX線解析法では普通見えない。実際に図示する場合,全原子の位置を描くと複雑すぎて見にくくなるので,α炭素の位置のみを示したり(図4-b-Ⅰ),二次構造を模式的に表現したり(図4-b-Ⅱ)する場合が多い。ポリペプチド鎖は,繊維状タンパク質(図5)では1000Å以上の長さに伸びている例もあるが,球状タンパク質では丸まって直径25~60Åの粒になっている。三次構造の一部には二次構造の組合せがよく現れ,これを超二次構造ということもある(図4)。また,三次構造の中で立体的にみてまとまっているような部分をドメインということもある(図4-b-Ⅱと図8-bにその例がある)。

 タンパク質のあるものは複数のポリペプチド鎖から成る。この場合,ポリペプチド鎖の数とこれらの間の幾何学的位置関係を合わせて四次構造という。三量体のタンパク質も少数あるが,ポリペプチド鎖の数は2,4,6など偶数が普通である。

 タンパク質に熱や圧力を加えたり,溶液のpHを変えるとか変性剤を加えるなどの操作をすると,一次構造は変化しないが二次以上の高次構造が変化してタンパク質が活性を失うことがある。これをタンパク質の変性という。変性に伴いタンパク質が凝固・沈殿することもまれではない。また,変性したタンパク質を元の環境に戻したときに高次構造と活性が回復することをタンパク質の再生という。塩酸グアニジンなどの強い変性剤中では,二次構造は完全に消失し,合成高分子などに見られるランダムコイルの状態になる。このような状態からでも多くの場合再生が可能なので,タンパク質の二,三次および簡単な四次構造は,一次構造すなわちそのタンパク質のもつ遺伝情報のみにより決まると考えられている。

 それでは,アミノ酸配列が与えられたとき,そのタンパク質の種々の性質をどの程度予言することができるだろうか。アミノ酸残基により,種々の二次構造を作りやすい,あるいは作りにくいものがあることが経験的に知られている(表2)。これらをもとに,一次構造から二次構造を予言することはかなり正確にできるが,三次構造の予言はまだ難しい。三次構造では親水性(極性)のアミノ酸が表面に,疎水性(非極性)のアミノ酸が分子内部にくる傾向が強い。分子内部では原子はアミノ酸の結晶内部と同程度に密に詰まっている(図6-a)。単位質量のタンパク質をひじょうに多量の溶媒に溶かしたときの体積増加を偏比容という。偏比容は密度の逆数に近いが,タンパク質ではふつう0.69~0.75cm3/g程度であり,アミノ酸組成によりだいたいの値を予言することができる(表2)。また,タンパク質分子の電荷の総和が0になるpHを,そのタンパク質の等電点という。アミノ酸組成から等電点のおよその予想はできるが,正確な値は実験してみないとわからない。

 活性ある天然の状態では,タンパク質の立体構造はさまざまな非共有結合により安定化され,エンタルピーHが小さくなっている。これに対し,変性状態ではこれらの結合はほとんど切れているが,その代りに多くの自由度を獲得してエントロピーSの大きな状態になっている。一方熱力学によると,ギブスの自由エネルギーGの小さい状態ほど安定であり,GHTSという関係が成立することが知られている。したがって,絶対温度Tの低いときは天然の状態が,また高いときは変性した状態が安定になる。また,熱変性のときある温度を境にこの二つの状態は急激に転移する。天然の構造を安定化する非共有結合として,水素結合,静電結合(塩橋),ファン・デル・ワールス力(分子間力),疎水結合などがある。このうち疎水結合はタンパク質自体でなく,溶媒の水によるものである。水の分子は水どうしと接触するよりタンパク質と接するほうが自由エネルギーが高い。このため水とタンパク質の接触面積を最小にするような,つまりタンパク質をなるべく密な構造にするような力が働く。これが疎水結合の本質である。タンパク質分子間の結合やタンパク質と他の分子(たとえば酵素と基質)の間の結合にも,上に述べた種々の非共有結合が働いているものと考えられる。

タンパク質の生合成と修飾

タンパク質の生合成は,遺伝情報に従ってアミノ酸を順序よくつなぐことである。その機構はかなり複雑で,多くの成分を必要とする。DNA鎖の1本を鋳型にして写しとられたメッセンジャーRNA(mRNAと略記)の塩基は三つずつくぎって読まれ,その三つ組(トリプレットまたはコドンと呼ばれる)に対してアミノ酸が一つ対応する。この対応のしかたを遺伝暗号表という(〈遺伝暗号〉の項目を参照)。mRNAは5′末端側から3′末端側に向かって読まれ,それにつれてタンパク質はアミノ末端からカルボキシル末端に向かって合成される。詳細については〈タンパク質合成〉の項目を参照されたい。

 タンパク質は合成後に修飾される場合がかなり多い。その一例はペプチド結合の切断である。トリプシンなどのタンパク質分解酵素やインシュリンなどのペプチドホルモンには,切断を受けて初めて活性の出るものが多い。多くの膜タンパク質は合成時,アミノ末端にシグナルペプチドと呼ばれる部分をもつ。この部分はタンパク質が膜内に正しく組み込まれるときに必要だが,後に切り取られる。また一部の動物ウイルスでは,ひじょうに長いポリペプチド鎖が数個に切断され,おのおのが別の活性あるタンパク質になる。

 側鎖やアミノ末端が修飾を受けることもある。側鎖ではメチル化,水酸化,リン酸化など,アミノ末端ではアセチル化,ピログルタミル化などが起こる。リン酸化により活性の調節を受ける酵素は多い。また,ある種の発癌遺伝子には,タンパク質をリン酸化する活性があり,注目されている。広い意味では,糖タンパク質における糖の結合や,酵素タンパク質への補欠分子族(チトクロムcのヘムなど)の結合も,この部類に入るだろう。また,二つのシステイン残基のSH基が酸化され,分子内に-SS-(ジスルフィド)結合の架橋を作る例は,細胞外で働く酵素に多い。皮膚や腱のコラーゲンでは二つのリシン残基の間に,血液凝固産物のフィブリンではグルタミン残基とリシン残基の間に,それぞれ分子間架橋ができる(図5)。いずれの場合も,架橋は構造の安定性に寄与している。

タンパク質の分類

ひじょうに多数の種類から成るタンパク質を分類しようとする試みはいろいろある。ポリペプチド鎖のみから成るものを単純タンパク質simple protein,他の物質と結合して(非共有結合も含める)存在するものを複合タンパク質conjugated proteinという(表3-(1))。溶媒中の等電点の違いによる分類もあり(表3-(2)),また,アルブミン,グロブリンなどの名は,溶解度によりタンパク質を分類したときの名残りである(表3-(4))。主としてX線解析による成果をもとに,二次構造,三次構造の違いからタンパク質を分類しようとする試みをまとめると表3-(3)のようになる。また,機能によって分類することもやや恣意(しい)的ではあるが可能である(表3-(5))。

タンパク質機能の作用機構

タンパク質機能の作用機構に関しては,どのような特徴が挙げられるだろうか。その第1は結合における立体相補性である。タンパク質とタンパク質,およびタンパク質と他の分子との結合面では,凸凹が互いに裏返しになっており,余分なすきまができないようになっている。これは結合の特異性を高める役割を果たしている。図8-dの抗体(免疫グロブリン)と抗原の結合はこの一例である。またとくに酵素と基質の結合は鍵と鍵穴の関係にたとえられてきたが,酵素表面の溝に基質がはまり込むようになっている。図6にその一例を示す。

 第2に反応基の最適配置がある。酵素が基質を結合したところを見ると,基質の攻撃すべき部分の近傍に酵素の反応基(Ser,His,Cys,Asp,Gluなどの側鎖,金属イオン,補酵素など)が存在して,反応の効率を高めている。分子間の結合面でも単に立体的な凸凹だけでなく,しかるべき所にしかるべき側鎖や主鎖が配置され,正と負の電荷による結合(塩橋)や-NH(または-OH)と〓C=Oによる水素結合などが形成できるようになっている。この実例は図6-c,dに示されている。

 第3には結合の誘導適合induced fitが挙げられる。溶液中でのタンパク質の立体構造は,わずかに異なる多くの構造の間を移り変わってゆらいでいる。ところがこれに基質などが結合すると,結合が可能な構造のみに固定される。このため,結果的には基質が酵素の構造を結合に適したように変えたことになる。

 そして第4にアロステリック効果がある。これはタンパク質の一部分に他の分子が結合すると,離れた部位の構造や活性が変わるという現象である。生体内においてはこれはさまざまな面で重要な役割を果たしている。その一つは酵素のフィードバック阻害で,代謝の最終産物が代謝系の始めの方の酵素に結合して活性を阻害し,むだな産物の生産を防ぐ役割を果たしている。また,アロステリック効果はヘモグロビンによる酸素運搬にも使われている。ヘモグロビンは1分子当り4分子の酸素を結合するが,一つめの酸素分子を結合するとアロステリック効果で他の結合部位へと影響が及び,二つめ以降の酸素結合がより容易になる。このため,酸素分圧に対し酸素結合量はS字型曲線となり,生理的な酸素分圧の近傍で酸素分圧の小さな変化に対してより多量の酸素の結合・解離ができるようになっている。アロステリック効果の機構は,連結した歯車に次々と動きが伝わるように,タンパク質の一部分に起こった構造変化が順々に隣接した部分を伝わっていくことのようである(図7)。アロステリック効果をもつタンパク質は,ほとんど四次構造をもつ。

 以上はある程度実験により確認された機構だが,推測としては他にもいくつかの機構が考えられている。たとえば,タンパク質には多くの解離基や電気双極子をもつ基があるが,これらの分布により活性中心に強い電場が生じ,それが基質を分極させて酵素反応を助けているという説がある。また,溶液中でタンパク質分子は種々の振動をしているが,そのうちの一つの振動を使って基質を食いちぎっているという説がある。さらに,溶媒分子が酵素に衝突すると,そのエネルギーはこの振動に集中的に集められるという考えもある。中には,酵素は基質を追いかけて捕らえるのだという人もいる。タンパク質はひじょうに効率よく仕事をするだけでなく,環境の変化に敏感に受け答えし,まさに生きているようである。これが研究者の想像力を刺激し,種々の考えを生む。この意味ではタンパク質観は現代でもまだ揺れ動いている。推測の考えの中には,将来,否定されるものもあるに違いない。しかし,他方ではもっと精巧な作用機構が発見される可能性も十分にあるといえよう。

タンパク質の研究法

タンパク質の研究法を表4にまとめてある。タンパク質の示す呈色反応としては,ビウレット反応,キサントプロテイン反応,ニンヒドリン反応,ミロン反応などがある。またタンパク質の定量は,ビウレット法,ローリー法などの比色定量法のほか,紫外吸収法,乾燥重量測定,窒素の定量,加水分解してアミノ酸の定量などにより行う。一次構造は,化学的・酵素的に断片化してから断片のアミノ酸配列をエドマン分解法などにより端から順に調べ決定する。二つ以上の方法で断片化を行えば,重なりの部分から断片の配列順序がわかる。現在ではDNAの塩基配列から決定するほうが早いことも多いが,生合成後の修飾はタンパク質で調べないとわからない。三次構造を原子レベルで決定できるのは,現在のところX線結晶解析のみである。しかし,すべてのタンパク質で良い結晶が得られるわけではない。また結晶内の構造と溶液中の構造の微妙な差が問題になることもある。

タンパク質からみた進化

いろいろな生物から同じタンパク質を取り出して,そのアミノ酸配列を比べると進化の道すじがわかる。なぜなら,アミノ酸配列の違いは,種が分かれて以来の突然変異の蓄積によるので,進化の時間を計る時計となるからである。図9-aにチトクロムcのアミノ酸配列から求めた進化の系統樹を示す。これは化石などから決めた従来の系統樹とだいたい一致するので,上に述べた考えが正しいことを示している。また,この二つの方法で求めた系統樹を比べると,一つのアミノ酸残基の置換に要する時間がわかるが,これはタンパク質の大きさだけでなく種類によっても異なる(図9-b)。タンパク質には機能的に重要で置換が許されない部分があるが,その部分の占める割合が種類により異なるからである。

タンパク質の化学合成

人工的にアミノ酸をつなげてタンパク質を化学合成することはまだ難しく,特別な技術とタンパク質の種類に合った方法が必要である。かりにアミノ酸一つをつなげるときの正確さを99%としても,100個つなげると63%,300個つなげると95%がまちがった産物になってしまうからである。しかし,アミノ酸を10個程度つなげたペプチドは,固相合成法で比較的容易に合成できる。これは洗浄や溶媒交換を容易にするために,樹脂の上でアミノ酸をカルボキシル末端側から順につないでいく方法である。操作としては,(1)樹脂に結合したペプチドのアミノ末端(第1段目は樹脂そのもの)に,アミノ基をBoc(t-ブトキシカルボニル)基で保護したBoc-アミノ酸のカルボキシル基を,縮合剤を用いて結合する。(2)トリフルオロ酢酸でBoc基を外すことを繰り返す。

タンパク質研究の将来

現在,構造研究では一次構造決定の微量化,膜タンパク質や構造タンパク質の三次構造決定などがおもな目標とされている。タンパク質の作用機構に関しては,立体構造を見ての推論から実証へ向けての努力が,反応中間体の立体構造決定などを中心に進められるであろう。タンパク質の運動に関する実験と理論計算から興味ある結論の出る可能性もある。また一次構造のデータが莫大な量蓄積されるので,それからいろいろと有用な情報を取り出すことも行われつつある。

 遠い将来の目標としては,望む機能をもつタンパク質を設計することが考えられる。これには一次構造を見て機能を予言すること,およびその逆が必要になる。理論的に可能なタンパク質の数は,かりにアミノ酸300残基としても20300≒10400という超天文学的数字になる。これは,地球の誕生以来出現したタンパク質種の総数と比べても限りなく大きい。地上の生物にはないまったく新しいタンパク質で,有用な機能をもつものが多数存在することが予想される。
[桂 勲]

[索引語]
protein アミノ酸 ペプチド結合 アミノ酸残基 ポリペプチド鎖 ポリ-L-プロリンⅡ型らせん α-らせん β-構造 β-ベンド 変性(化学) 再生(生物) 偏比容 等電点 疎水結合 ジスルフィド結合 単純タンパク質 simple protein 複合タンパク質 conjugated protein アルブミン グロブリン 酵素 アロステリック効果 ヘモグロビン エドマン分解法 チトクロムc


図1~図2
タンパク質 図1~図2



図3~図5
タンパク質 図3~図5

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23. キサントプロテイン反応
日本大百科全書
タンパク質の呈色反応の一つ。xantho-はギリシア語のxanthós(黄色)に由来する接頭語。proteinはタンパク質。タンパク質が黄変する現象を示す用語。
24. アクチビン結合蛋白質
岩波 生物学辞典
アクチビンに結合する蛋白質.代表的なものとしてフォリスタチン(follistatin,FSH抑制蛋白質FSH-suppressorprotein,FSP),α2
25. アクチンキャッピング蛋白質
岩波 生物学辞典
《同》アクチン繊維端結合蛋白質.アクチンフィラメントの一端に結合し,その端でのアクチンモノマーの付加・脱離を妨げる蛋白質の総称.アクチンフィラメントには反矢じり
26. アクチン結合蛋白質
岩波 生物学辞典
るもの(フォルミン,ARP複合体,ゲルゾリン,ビリン,キャップ蛋白質などのアクチンキャッピング蛋白質)が存在する.キャップ蛋白質のように重合と脱重合の阻害など二
27. アシアロ糖蛋白質受容体
岩波 生物学辞典
血中のアシアロ糖蛋白質の特異的かつ速やかなクリアランスに関与する受容体.G.Ashwellらが動物細胞に見出した最初のレクチンとして知られる(⇒動物レクチン).
28. 足場蛋白質
岩波 生物学辞典
《同》スキャフォールド蛋白質.一連の細胞内シグナル伝達系において,順次活性化される一連の酵素群と同時に結合する蛋白質.これらの酵素群を微小環境に集結させることに
29. アシル基運搬蛋白質画像
岩波 生物学辞典
ACPと略記.《同》アシルキャリアー蛋白質,脂肪酸基運搬蛋白質.脂肪酸生合成においてアシル基の担体として機能する蛋白質.アセチルCoA,マロニルCoAからのde
30. アダプター蛋白質
岩波 生物学辞典
いては論争がある.二つ以上の蛋白質蛋白質相互作用領域をもち,細胞内シグナル伝達に関わる複数の蛋白質と同時に結合し,物理的な橋渡しによりシグナル伝達を仲介する蛋
31. アロステリック蛋白質
岩波 生物学辞典
⇒アロステリック効果
32. 移行蛋白質
岩波 生物学辞典
移行に機能する移行蛋白質をコードしている.植物ウイルスの細胞間移行は核酸・蛋白質複合体もしくは粒子のどちらかの形態で行われると考えられており,移行形態の違いによ
33. 一本鎖DNA結合蛋白質
岩波 生物学辞典
《同》SSB蛋白質,RPA蛋白質(replicationproteinA),RFA蛋白質(replicationfactorA),らせん不安定化蛋白質(heli
34. HMG蛋白質
岩波 生物学辞典
酸可溶性の非ヒストン蛋白質のうち,電気泳動において高移動度を示す一群.HMG1(分子量2.7万),HMG2(2.6万),HMG14(1万),HMG17(0.9万
35. SH蛋白質
岩波 生物学辞典
生理機能の発現にSH基を必須とする蛋白質の総称.広義にはSH基をもつ蛋白質の総称.(⇒SH酵素)
36. Sp1蛋白質画像
岩波 生物学辞典
SV40ウイルスのプロモーターに6カ所存在するGGGCGGモチーフに結合するヒトの転写因子.c-fos,TGF-β1プロモーターに存在するRCE(pRBの制御エ
37. M蛋白質
岩波 生物学辞典
《同》ミオメシンⅡ(myomesinⅡ).筋肉の調節蛋白質.分子量約16万5000.ミオシンをA帯の中心で支えるM線を構成する.筋原繊維蛋白質の0.5%を占める
38. LEA蛋白質
岩波 生物学辞典
「リア蛋白質」とも.植物種子の胚発生後期に大量に蓄積する蛋白質の一つ.高度に親水性で,その分子構造からいくつかのグループに分けられる.乾燥,塩,および低温ストレ
39. 塩基性蛋白質
岩波 生物学辞典
等電点を塩基性領域にもつ蛋白質の総称.核酸に親和性をもつヒストン,リボソーム蛋白質や,その他シトクロムc,リゾチーム,サルミンなど.
40. かく‐たんぱくしつ【核蛋白質】
日本国語大辞典
〔名〕たんぱく質と核酸とが結合した複合たんぱく質。生体の細胞内にあって細胞の発育や増殖に重要な働きを持つ。結合する核酸の種類によってデオキシペントース核たんぱく
41. 核蛋白質
岩波 生物学辞典
核酸と蛋白質の複合体の総称.DNA–蛋白質(deoxyribonucleoprotein,DNP)とRNA–蛋白質(ribonucleoprotein,RNP)
42. カルシウム結合蛋白質
岩波 生物学辞典
特異的に強く結合する蛋白質の総称.細胞質蛋白質が多い.EFハンドには複数の酸性アミノ酸を含むCa2+結合部位が2~3カ所あり,Ca2+と強く結合する(結合定数は
43. 環状AMP受容蛋白質
岩波 生物学辞典
CRPと略記.《同》カタボライト遺伝子活性化蛋白質(catabolitegeneactivatorprotein,CAP).環状AMP(cAMP)と結合して複合
44. 外被蛋白質
岩波 生物学辞典
ァージのゲノムを包むキャプシド蛋白質.外被蛋白質は基本的には正二十面体構造(⇒正二十面体様対称性)やらせん構造の集合体を形作っている.植物ウイルスでは,外被蛋白
45. きゅうじょう‐たんぱくしつ[キウジャウ‥]【球状蛋白質】
日本国語大辞典
をもつ蛋白質。生体内での生活現象にあずかる蛋白質のほとんどはこれに属し、アルブミン、グロブリン、グルテリン、プロラミン、ヒストン、プロタミンなどと、多くの複合蛋
46. 球状蛋白質
岩波 生物学辞典
球状または回転楕円体に近い分子形をもつ蛋白質の総称.繊維状蛋白質の対語.ポリペプチド鎖のフォールディングによって形成される立体構造で,球とはかなり異なる形状でも
47. 筋肉蛋白質
岩波 生物学辞典
《同》筋蛋白質.筋に見出される蛋白質の総称で,ミオグロビンや一般細胞にも見られる解糖・TCA回路系の酵素も含むが,特に収縮に関連する蛋白質.筋原繊維構成蛋白質
48. 組換え体蛋白質
岩波 生物学辞典
DNA組換え技術によって,宿主とする細胞または個体において人為的に合成させた蛋白質.目的とする蛋白質をコードするDNA断片を発現ベクターの所定の位置に組み込み,
49. クロロフィル蛋白質複合体
岩波 生物学辞典
集光性クロロフィル蛋白質複合体,電荷分離・電子移動を担うものを反応中心クロロフィル蛋白質複合体と呼ぶ.集光性クロロフィル蛋白質複合体で捕捉された光エネルギーは反
50. 繋留蛋白質
岩波 生物学辞典
はオルガネラ同士の融合に先立ち,双方の膜同士をつなぎ止める働きをもつ一群の蛋白質.長いコイルドコイル構造をとる蛋白質のグループ(p115,EEA1,Golgin
「蛋白質」の情報だけではなく、「蛋白質」に関するさまざまな情報も同時に調べることができるため、幅広い視点から知ることができます。
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免疫(岩波 生物学辞典)
動物体内の外来性および内因性の異物を生理的に認識・排除し,個体の恒常性を維持するための機構の総称.元来はヒトや動物に病原体が感染してもそれを体内から排除して発病に至らせない状態をいうが,特に,病原体にすでに自然感染していたり,人為的にワクチン接種を
サイトカイン・ストーム(イミダス)
免疫の暴走と訳される。サイトカインとは、cyto(細胞)とkine(動作)からなる造語で、細胞から放出されさまざまな細胞間に相互作用をもたらすたんぱく質因子の総称である。サイトカインは標的の細胞に働きかけて、免疫、炎症、生体防御などの面で重要な役割を
ウイルス(岩波 生物学辞典・世界大百科事典)
《同》濾過性病原体(filterable microorganism).DNAかRNAのどちらかをゲノムとしてもち,細胞内だけで増殖する感染性の微小構造体.ラテン語で毒(virus)を意味し,後に転じて病原体を意味するようになった.D.I.Ivanovski(1892)はタバコモザイク病が細菌濾過器を通した濾液で感染することを観察,F.LoefflerとP.Frosch(1898)は口蹄疫が同じく
樹立細胞株(岩波 生物学辞典)
《同》株細胞(strain cell).細胞寿命を超えて不死化し,培養条件下で安定に増殖し続けるようになった細胞.染色体構成は二倍体(diploid)から異数体(aneuploid)に変化し,表現形質もがん細胞様に変化していることが多い(⇒二倍体細胞).最初の樹立細胞株は,1943年にW.R.Earleにより,C3H系マウス皮下組織から分離されたL細胞(L cell)で
組織培養(岩波 生物学辞典・日本大百科全書)
[tissue culture]多細胞生物の個体から無菌的に組織片・細胞群を取り出し,適当な条件において生かし続ける技術.広義には,組織片培養と細胞培養を包含する.組織培養では,分離された組織片を同一個体または他の生物体のある場所に移して育てる生体内


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メンデルの法則(岩波 生物学辞典・日本大百科全書)
《同》メンデルの遺伝法則(Mendel's laws of heredity).G.J.Mendelの提唱した,遺伝現象に関する法則.Mendelは論文「植物雑種に関する実験」(1865)でこれを述べたが当時はかえりみられず,後に再発見(1900)
蛋白質(岩波 生物学辞典・世界大百科事典)
《同》タンパク質.生物体を構成する主成分.生細胞では水 (約70%) に次いで15~18 %を占める主要な高分子群であり,ヒト,シロイヌナズナ,大腸菌ではそれぞれ約2万,1万,4400種の蛋白質がみられる.その機能は,触媒(酵素),構造・骨格,収縮
遺伝子(岩波 生物学辞典・日本大百科全書・世界大百科事典)
《同》遺伝因子(genetic factor).遺伝形質を規定する因子.メンデルの法則における基本概念として各遺伝形質(単位形質)に対応して想定され,G.J.Mendelはこれを因子と呼んだが,のちにW.L.Johannsen(1909)が遺伝子
ホルモン(日本大百科全書・世界大百科事典・岩波 生物学辞典)
生体内でつくられ、その個体の形態形成、代謝、成長、行動発現その他の生理的過程に特定の影響を及ぼす物質をいう。1905年にイギリスの生理学者E・H・スターリングによって提唱された用語である。彼はベイリスWilliam Maddock Bayliss
自愛(日本国語大辞典)
解説・用例〔名〕(1)自分を大切にすること。自分の体に気をつけること。現代では、「御自愛」の形で、手紙の末文などで相手に向けて用いることが多い。*家伝〔760頃〕上(寧楽遺文)「入吾堂者、无如宗我大郎、但公神識奇相、実勝此人、願深自愛」*明衡往来


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