1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
グローバリズムに当てはまらない、イラン人の “憎めないプレイボーイ”的生き方 |
「グローバリズム」という主張が喧伝され始めたのはいつ頃からだろうか? ジャパンナレッジで調べてみると、〈「地球共同体意識」の世界的な広がりを背景とし、とくに1970年代以降に台頭してきた〉(「ニッポニカ」)とある。それから40年。世界はすっかり、単一国家のような様相を見せ始めている。ギリシャの経済破綻に悩み、イラン危機に怯える、といった具合だ。
私はこの流れが好きじゃない。だって、「世界はひとつ」と言うことで、基準を満たさなければ排除、という態度がOKになるから(イレズミNG、も同じ理屈)。グローバル化という無言の強制が、それにはまらない国や人を追い詰め、結果的に異物は排除される。
というわけで、グローバリズムから外れる代表国、イランに登場願おう。本書『ペルシア見聞記』は、17世紀後半のイランのレポートだが、ここには確かに“多様性”がある。著者は、旅行作家&宝石商のフランス人J.シャルダン。〈習俗や道徳律のヨーロッパとの違いを具体的に示している点で名高い〉(ジャパンナレッジ「世界文学大事典」)シャルダンは、当時のイラン人をこう分析する。
見た目にも〈おおいに美しく、立派な外形をもつ〉人たちで、その肉体には〈美しく優れた精神〉が宿る。〈礼儀をよく心得て〉おり、〈外国人にたいする情の篤さ〉や〈異教にたいして示す寛大さ〉は特筆すべきである、と。一方で、〈女好き〉で〈浪費好き〉、しかも〈怠惰〉。〈ただ消費するために稼ごうと望〉み、収入は〈きわめて短期間に使いはたしてしまう〉。彼らが欲するのは、〈財産〉〈空しい栄誉〉〈他人からの尊敬や評判〉。そのためには、〈おべっか〉も使えば、〈虚言を弄する〉。
私なりに簡単にまとめると、カッコつけの快楽主義者。でも、排他的でなく誰にでも優しい。こんなヤツが側にいたら、憎めないプレイボーイ、といったところか。
シャルダンの分析で最も面白い箇所は、他国に関心がなく〈知識情報〉を重要視しない、というところ。
〈知識情報のすべてが彼らの精神の平安のためにも、生の愉悦のためにも必要でない〉
約300年前の分析だが、この気質がまだ続いているならば、彼らがグローバリゼーションの波にのまれないのもわかる気がする……。イランを擁護するつもりはないけれど、世界も、日本社会も、シャルダンのように“多様性”を認める方向にいかないものだろうか。
ジャンル | 記録/紀行 |
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時代 ・ 舞台 | 1600年代後半のイラン |
読後に一言 | 当時のイラン人は他国に興味がなかったようですが、私は彼らの生活に興味津々でした。 |
効用 | 気候から産業、習慣、食べ物に動植物まで、イランの生活が冷静に記録されています。 |
印象深い一節 ・ 名言 | (イラン人は)自宅で休息している時にもっともよく徳をつみ、生の愉悦を味わうことができると考える。 |
類書 | イランの国民的詩集『ハーフィズ詩集』(東洋文庫299) 11~12世紀イランの社会の様子がわかる『ペルシア逸話集』(東洋文庫134) |
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(2024年5月時点)