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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 184

『金文の世界 殷周社会史』(白川静著)

2022/07/21
アイコン画像    孔子が理想とした周とは?
金文が語る古代中国の姿

 「金文」と言われてもピンと来ないかもしれませんが、〈鉄器・銅器など金属器に刻まれた文字や文〉のことで、〈特に、中国、殷(いん)・周時代の青銅器に鋳刻された銘文〉のことを指します(ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」)。

 孔子(前552/前551~前479)と聞けば、『論語』をすぐに連想されるでしょうが、孔子が生きた時代は春秋戦国時代。戦が絶えない時代でした。孔子は、〈乱世を治めるためには、(西)周の初めの制度に復帰すべき〉(同「ニッポニカ」)と説くのですが、ここでいう「(西)周」こそ、「金文」が青銅器に盛んに刻まれた時代でした。

 孔子は、なぜ「(西)周」を理想としたのでしょうか。

 金文にひとつの答えがありました。


 〈天の有する大命を受(さづ)けられたまひ……〉


 周は殷にとってかわって中国を治めますが、それは「天の有する大命」だといいます。対して殷が滅びたのは、酒を飲み過ぎたから。〈神政国家としての殷は、祭祀を通じて神意を受け、神意を和らげ、また酒に酔うことが神人一体の道であると考えていた〉のだといいます。酒に酔うことが神との一体化の方法だったのです。それを周は咎め、〈天意を失う敗徳〉と見なしました。

 では「天」とはなんでしょう?


 〈中国思想を貫く重要な概念。天という文字はもと人間の頭部を示し、それが天空を意味するようになった。西周時代には、天は、天上の最高神として崇敬され、上帝ともよばれて、地上の現象を支配すると考えられた〉(同「ニッポニカ」)

 孔子および儒教を通じて、「天」という概念が、中国とその周辺に広まっていったのでした。「天」は古代中国の中心概念でした。本書は金文と殷・周の時代、その社会や文化や思想を明らかにしようとする評論で、「天」だけがテーマではありません。しかし金文の中には、天をはじめとする中国思想の萌芽がしっかりと見られるのです。


 〈東洋の【黎明を開いたこの古代文化】の研究は、東洋を考え、東洋を愛し、その可能性を追求しようとする人びとにとって、ゆたかな問題領域をもつ世界ではないかと思うのである〉


 本書最後の一節です。【  】は私が付けた記号ですが、この中に、めいめいのお気に入りの東洋文庫名を入れてみてください。東洋文庫と読者をことほぐ言葉となることでしょう。


本を読む

『金文の世界 殷周社会史』(白川静著)
今週のカルテ
ジャンル評論/歴史
成立・舞台殷・周時代の古代中国
読後に一言2010年6月10日に始まった当欄ですが、これにてジャパンナレッジ(JK)収録の東洋文庫は、すべて案内を終えました。JKに新たな東洋文庫が追加されたら、その時またお目にかかりましょう。
効用白川漢字学のなんたるかが本書でわかります。
印象深い一節

名言
中国の古代文化は、西周期にその極盛の時代に達した。それはまた、青銅器文化の極盛の時代でもあった。孔子が理想としたといわれる西周の文化は、この青銅器文化によって象徴されている(「あとがき」)
類書白川漢字学の姉妹篇『甲骨文の世界』(東洋文庫204)
白川静の字源辞典『漢字の世界(全2巻)』(東洋文庫281、286)
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