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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 777

『完全版 知恵の七柱1』(T.E.ロレンス著 J.ウィルソン編 田隅恒生訳)

2022/06/30
アイコン画像    押しつけた「善」は
相手にとって苦となる

 夏目漱石『明暗』、芥川龍之介『鼻』、森鷗外『高瀬舟』、『婦人公論』創刊、ホルストの組曲『惑星』、シベリア鉄道の全通、近代的戦車の登場、アラブの反乱開始。

 さてこれらに共通することは、なんでしょう? 実はすべて、第一次世界大戦のど真ん中、「1916年」(大正5)に起こった出来事なのです。

 第一次世界大戦は、〈1914年から1918年まで、計25か国が参加してヨーロッパを主戦場として戦われた戦争〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)です。この戦争で、ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国、ロシア帝国が崩壊し、世界地図は書き換えられます。このオスマン帝国に対して牙を剥いたのが、アラブの反乱でした。オスマン帝国はドイツ帝国と手を結び、結果的にイギリスの敵国になります。オスマン帝国弱体化のために、イギリスが目を付けたのが、アラブの民でした。オスマン帝国は、北アフリカ沿岸から紅海周辺、現在のエジプトやサウジアラビア、イラクやシリアなど広大な地域を版図にしていました。オスマン帝国からのアラブ人独立という目的とイギリスの思惑が重なったのでした。

 この時、アラブに送り込まれたのが、「アラビアのロレンス」です。本書『完全版 知恵の七柱』で、この当時のアラブを覗いてみたいと思います。

 アラブの反乱の中心は、メッカの首長(シャリーフ)、フサイン・ブン・アーリーです。〈イギリス側と接触(フサイン=マクマホン書簡),戦後のアラブ王国独立の承認の約束をとりつけ〉(同「世界大百科事典」「フサイン」の項)反乱を開始します。ロレンスが目を付けたのは、フサインの三男ファイサル(のちのイラク初代国王)でした。反乱はファイサルとロレンスの主導で進みます。

 ファイサルのロレンスに対する言葉がふるっています。


 〈あなた(ロレンス、英国)の善と私の善はたぶん別物だ、そして善のむりじいにも、悪のむりじいにも民は苦痛に泣くことになる。鉱石が、自分の形を変えてしまう火焰を褒め称えることはあるまい?〉


 ファイサル、見えています。そしてロレンスは、行動を共にしながら、反乱の戦術、いわく〈独断的主張(ドグマータ)〉を思いつきます。それが〈ゲリラ戦〉でした。アラブ軍は集団戦が不得手で、小集団のほうが、戦闘力が増す、と見て取ったロレンスは大胆な作戦に打って出たのでした。アラブ軍の運命やいかに。


本を読む

『完全版 知恵の七柱1』(T.E.ロレンス著 J.ウィルソン編 田隅恒生訳)
今週のカルテ
ジャンル記録/随筆
成立・舞台1916~1917年のシリア、レバノン、イスラエル、ヨルダン、サウジアラビア、エジプトなど
読後に一言ロレンスの言葉の選び方に唸ります。例えばこのような。〈エジプトの器量の小さな策士どもが自分の満足のために演ずる足の引っ張り合いでそれが破綻するのを見ていられるほど、私は図太くはなかったのだ〉
効用ロレンスはこの地で何を考え、何を見たのか。第一次大戦時のヨーロッパの思惑とアラブの願いが、あちこちで交錯します。
印象深い一節

名言
(この戦争は)アラブ人の目的のために、アラビアの地でアラブ人が主導し遂行した、アラブ人の戦いだったのだ。(「第一章 執筆の方法と理由」)
類書同時期のガンジーの運動『南アフリカでのサッティヤーグラハの歴史(全2巻)』(東洋文庫736、738)
同時期の三・一独立運動の記録『朝鮮独立運動の血史(全2巻)』(東洋文庫214、216)
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