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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 152|181|200

『知恵の七柱1~3』(T.E.ロレンス著 柏倉俊三訳)

2022/06/23
アイコン画像    インディ・ジョーンズの先生?
T.E.ロレンスによる戦争の記録

 シリーズ最新作『インディ・ジョーンズ5』がクランクアップし、来年2023年の6月公開予定というニュースを耳にしました。主人公を演じるはもちろんハリソン・フォード。撮影時78~79歳ですが、アクションは健在のようです。このシリーズには、『ヤング・インディ・ジョーンズ・クロニクルズ』という米国TVドラマ(1992~93年放映)があるのですが、ここである意外な人物と出会い、影響を受けます。それが、「アラビアのロレンス」こと、T.E.ロレンスです。ロレンスは1888年生まれ、インディは1899年生まれ。20歳のロレンスと10歳のインディは偶然エジプトで出会い、その後も交友が続きます(もちろんドラマの中の話です)。同シリーズの映画『魔宮の伝説』(84年公開)の舞台設定は1935年(第一作より本作の冒険が先)。ロレンスが、同年に〈愛用のオートバイの交通事故で死去〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」、「ローレンス」の項)したことを意識していたに違いありません。

 ロレンスは〈イギリスの考古学者〉です。第一次大戦勃発後に〈陸軍省に入り〉、〈トルコ領内のアラブ独立運動を支援するため〉、〈2年近く、身を賭してゲリラ戦の指導にあた〉りました(同前)。その体験を綴ったのが、本書『知恵の七柱(ななはしら)』(原題「The Seven Pillars of Wisdom」)です。

 ところがややこしいことに、『知恵の七柱』のバージョンはひとつではありません。〈アラブ反乱史『知恵の七柱』は彼(ロレンス)の最大の文学的野心だったが,その完璧主義のためいくども稿を改めて完成に至らず〉(同「世界文学大事典」「ロレンス T. E.」の項)という来歴があります。1919年に書き始めた「初稿」は紛失。1920~1922年執筆の「完全版」(オクスフォード・テキスト、約33.5万語)をもとに、ロレンス自ら「簡約版(私家版)」(約25万語)を作り、発売。本書は、「簡約版」を底本に1935年に刊行された「普及版」です(「完全版 知恵の七柱」より)。本欄で紹介するにあたり、普及版(本書)をイントロダクションに、同じく東洋文庫所収の「完全版」で内容読解を試みたいと思います。

 第一章冒頭の詩的な表現は、本書の通奏低音でしょう。


 〈果てしない戦争にはみずからの生命を、また同時に他人の生命を考えることもともにわれわれにはできなくなってしまった。(中略)くる日もくる日も同志の誰かは消えていった〉


 これは戦争を戦った男の記録なのです。


本を読む

『知恵の七柱1~3』(T.E.ロレンス著 柏倉俊三訳)
今週のカルテ
ジャンル記録/随筆
成立・舞台1916~1918年のシリア、レバノン、イスラエル、ヨルダン、サウジアラビア、エジプトなど
読後に一言詩的すぎてわかりにくいところも散見されますが、見事な紀行文学、戦争文学ともいえるでしょう。
効用簡約版とはいえ、本人による編集ですので、読むには十分です。
印象深い一節

名言
いったいこの肉体は内部からの反乱者なしに、ひとりでには意志を左右する力はないのである。(3巻「第八十三章」)
類書友人の詩人による伝記『アラビアのロレンス』(東洋文庫5)
削除や省略のないバージョン『完全版 知恵の七柱(全5巻)』(東洋文庫777ほか)
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