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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 507

『真臘風土記 アンコール期のカンボジア』(周達観著、和田久徳訳注)

2012/09/20
アイコン画像    13世紀末のアンコール朝カンボジア。
その不思議なワールドがこの1冊で明らかに。

 海外旅行とは縁遠い生活を送っているが(苦笑)、ジャパンナレッジで、興味深い海外旅行ランキングの記事を見つけた。

 「日本人に人気の行ってよかった海外観光地トップ50」で、〈1位には、昨年に引き続きカンボジアのアンコール・ワット遺跡が選ばれた〉(「NNA:アジア&EU」【カンボジア経済通信】2012年08月17日)というのだ。〈満足度および口コミの投稿数を元に計算した〉という方式なので、ガチのランキングである。ちなみにベスト10には、ラニカイビーチ/ハワイ(3位)、ウォルト・ディズニー・ワールド(4位)、オルセー美術館/フランス(6位)などメジャーどころが並んでいるが、それらを差し置いて、2年連続の1位なのである!

 これはすごい! ってことで、『真臘風土記』である。本書は、アンコール期のカンボジアを訪れた中国人が41項目にわたって記した貴重な記録である。取り上げたテーマも幅広く、貿易や養蚕などの産業、結婚前の娘の習慣などの風習など、当時のカンボジアの様子がありありと浮かんでくる。

 私がもっとも興味を引かれたのは、王の住居についてのくだりだ。この時、王はアンコール遺跡のひとつであるアンコール・トム(都城)に住んでいるのだが、そこには、金塔が建っている。国王は夜になると、この金塔の下に臥す。


 〈塔の中に九頭の蛇の精霊がいて、これこそ一国の土地の主である。女の姿になって、毎日夜になるとあらわれる。国王はそこでまずこれと同寝(ともね)して交わり、〔その間は〕たといその妻であってもまた決して〔中に〕入らない〉


 王の仕事は「蛇と交わること」なのだ。蛇が現れない時は、王の〈死期〉が迫った時。たとえ一晩でも塔に赴かなければ、〈必ず災禍を受ける〉というのだから、いやー、カンボジアの王にはなりたくないですな。なぜこんなことになっているのかというと、カンボジアの伝説では、〈国王は人とナーギ(女蛇)との後裔〉なんだそうな。蛇とは神の象徴だろうから、それと交わることで、神々の世界と人間界が一体化される(その場所が、アンコール遺跡というわけだ)。そしてそれによって初めて、王の権威が立証されたのだろう。

 今、カンボジアへの日本企業の投資は急速な伸びをみせている。その国が持っていた豊かな世界を知ることで、精神的にもぐっと近くなる。

本を読む

『真臘風土記 アンコール期のカンボジア』(周達観著、和田久徳訳注)
今週のカルテ
ジャンル記録/紀行
時代 ・ 舞台13世紀後半のカンボジア
読後に一言「アジア」と一括りにはできない、また別の豊かな世界が、この中にはありました。
効用いざ、アンコール遺跡へ! という気持ちになります。
印象深い一節

名言
真臘(カンボジアの中国式呼称)国は、あるいは占臘と称する。その国は自称して甘孛智(かんぼっち=カンボジア)と言う。(総叙)
類書アンコール遺跡の古典的名著『アンコール踏査行』(東洋文庫162)
13世紀のマルコ・ポーロによるアジア旅行記『東方見聞録(全2巻)』(東洋文庫158、183)
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