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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『苗族民話集 中国の口承文芸2』(村松一弥編訳)

2012/11/01
アイコン画像    中国やミャンマー、ラオスの山岳地帯に住む、
少数民族の民話の中に「優しさ」を見つける。

 仕事で1週間ほど、ラオスに行ってきた。ラオスは、本州と同じぐらいの面積に千葉県と同じ人口、という人口密度の低い国で、にもかかわらず民族数は公的に49。いくつかの少数民族の村を訪ねたが、その暮らしは様々だった。唯一共通していること――それは穏やかなこと。滞在中、クラクションの音も耳にしなかったし、喧嘩にも出くわさなかった。自給自足が基本で、決して豊かではないけれど、慎み深い。外からやって来た人間が「楽園」と言うのは無責任だが、この地に、現代社会の病は見えなかった。少なくとも今のところは……。

 東洋文庫には、ラオス民族のひとつであるモン(Hmong)族の伝承民話がある。それが『苗族民話集』だ(苗(ミャオ)族とは、中国側の呼称)。

 この中に、面白い話を見つけた。「トウガン息子」と「せむしじいさんとバナナ小僧」である。ざっくり言ってしまうと「桃太郎」である。子どものいない老人に子どもが授かるという話だ。


 〈(クジャクがつつくと)バナナの皮がパッと音をたてて大きく裂け、裂け目から色白で丸ぽちゃの子供がとび出した〉(「せむしじいさんとバナナ小僧」)


 日本の桃太郎は鬼退治に向かったが、こちらの桃太郎はそうじゃない。トウガン息子は「戦争に行け!」という王様の命令に、智恵で対抗する。バナナ小僧は、背中の曲がったとうちゃんのために、薬を探す旅に出る。

 バナナ小僧の話は、まさにラオス的だった。

 彼は薬を見つけるのだが、途中であった、腕を折った羊飼いの少年に飲ませてしまう。2度目に見つけた薬は、足の折れた老人にあげてしまった。3度目の薬も腰骨を折った子連れの女性にやってしまい、とうとう、自分のとうちゃんのための薬がなくなってしまったのだ。

 ある時のこと。〈(とうちゃんが)着物を脱いで、背なかに手をまわしてさすっていると、いきなりクジャクが飛んできて、背なかをツンツンとつついた〉。するとどうだろう。とうちゃんの背中は治り、クジャクは美しい女人と変わり、〈一家三人は、川のほとりで楽しく暮らした〉というオチ。

 「桃太郎」の話が、戦前、鬼畜米英の成敗話にすり替えられたように、戦いの物語はどこかで危うさがある。だがバナナ小僧は親切一辺倒。自分の損も顧みない。

 行ったからこそわかるが、これがラオスである。

本を読む

『苗族民話集 中国の口承文芸2』(村松一弥編訳)
今週のカルテ
ジャンル説話
成立した時代中国・1962年刊行
読後に一言苗族(モン族)がラオスを代表するわけではないけれど、この民話を通底する「優しさ」は、ラオスのそれと私の中で重なりました。
効用民族の数だけ文化があり、生活がある。日本人には理解しにくいことなのかもしれません。ゆえに、多くの民族に触れる必要があるのでは?
印象深い一節

名言
ミャオ族民話は、思想内容から見て、健康で生き生きしており、人民性に富んでいるだけでなく、独特の風格と、見事な芸術性をそなえている。(原書序言)
類書13世紀末の隣国カンボジア『真臘風土記』(東洋文庫507)
インドシナの山岳民族のレポート『黄色い葉の精霊』(東洋文庫108)
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