1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
江戸時代から明治時代に刊行された 女性向け教育書の中に、男の願望をみる。 |
〈会津戦争のおり、藩主面前で砲術の進講役を務め、男装して7連発銃をもって新政府軍に応戦するなどの逸話をもつ〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)
誰のことだかわかります? 2013年NHK大河ドラマ『八重の桜』の主人公、新島八重その人である。国民的番組としての役割は終わったように思うが、大河ドラマの利点は、その時代に興味を向かわせるところにある。歴史なければ我々の国もないわけで、そういった意味では、「歴史」を振り返ることは必ずやプラスになる。
さてこの新島八重さん、逸話からも明らかなように、とんだはねっかえりだったらしく、夫(同志社大学創始者、新島襄(じょう))よりも強く、人の目に映ったという。明治という時代は、その後、平塚らいてうや与謝野晶子が活躍したように、女性が社会に進出し始めた時代であった。ではこの時代、“女性”をどう見ていたのだろうか?
ヒントが『女大学集』にあった。1710年撰の貝原益軒の「女子を教ゆる法」(『和俗童子訓』巻5)を手始めに、1899年刊の福沢諭吉の『女大学評論 新女大学』まで、計10編の女子教育書を時代順に並べた本である。
この手の啓蒙本は何でもそうなのだが、必要だからこそ世の中に登場する。言い方を変えれば、18世紀から、「女子(妻)の教育が必要だ!」と思っていた男子が、社会に増え始めたということである。わざわざ本の力を借りて「こうしなさい!」と妻に言わざるを得ないほど、“女子の力”があったということだ。
では何が書かれているのか。
〈女は容(かたち)よりも心の勝れるを善しとすべし〉
〈女子が、如何に教育せられて、如何に書を読み、如何に博学多才なるも、其の気品高からずして、仮初(かりそめ)にも鄙陋(ひろう;下品なさま)不品行の風あらんには、淑女の本領は既に消滅したりと云う可し〉
ようは品よくあれ、ということなのだが、前者は1716年刊の『女大学宝箱』、後者は福沢の「新女大学」。なんだかなあ、時代は経ても男が女に望むこと、まったく変わっていないのだ。自分も含めて、男は手前勝手ということか。新たな教育が必要なのは、むしろ、近世から変わっていない私たち男子なのかもしれません。
ジャンル | 教育/評論 |
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時代 ・ 舞台 | 1710~1899年の日本 |
読後に一言 | 女性(妻)に「こうなってほしい」と思う前に、自分が変わらないといけないんだろうなあ。反省……。 |
効用 | 江戸から明治にかけての、社会としての男女の考え方がうかがえます。 |
印象深い一節 ・ 名言 | およそ婦人の心ざまのあしき病は、和順ならざると、いかりうらむると、人をそしると、物ねたむと、不智(ふち)なるとにあり。凡そ此の五つの病は、婦人に十人に七八は必ずあり。(貝原益軒「女子を教ゆる法」) |
類書 | 貝原益軒の『和俗童子訓』巻1~4を載せる『子育ての書 2』(東洋文庫293) 中国最古の女性列伝『列女伝』(東洋文庫686、688、689) |
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(2024年5月時点)