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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 41

『沖縄の犯科帳』(比嘉春潮・崎浜秀明編訳)

2012/12/20
アイコン画像    色恋沙汰は命がけだった!?
幕末の沖縄の爆笑(?)裁判記録

 つくづく、大変な島だと思う。北の国が「ミサイル撃つぞ!」と言えば、PAC3が運び入れられ、隣の大国が「尖閣はオレのものだ!」と言えば、海保の船で慌ただしい。基地問題も、付随する米兵の問題も、解決の糸口は見つからず、むなしく時が過ぎるのみである。

 翻って、首都圏に住む自分は、沖縄のことを知っているだろうか? 観光で1度、仕事で1度訪れたキリで、知らないに等しい、ということに気づいた。罪滅ぼし、というわけではないが、東洋文庫で沖縄を学んでみたい。

 で、『沖縄の犯科帳』である。捕物帖にはまっている私には興味津々のタイトルで、思わず飛びついた。

 本書は幕末から明治初期、まだ琉球と呼ばれていた頃の沖縄の裁判記録である。まず事件のあらましが語られ、そのあと、被告の申し開き(本書では「口問い」)、判決、理由と続く。解説にもあるが、これが非常に筋の通った裁判なのだ。裁判は法律『琉球科律』に基づいてなされるのだが、この法律が完成した際、尚穆王(しょうぼくおう、在位1752―94)に上程するとこんな言葉が返ってきたという。


 〈法を用いるに当たっては、毛を吹いて傷を求めるといったことをつつしみ、惨酷厳刑にならないようにせよ〉


 〈毛を吹いて疵(傷)を求む〉とは、「韓非子」の言葉で、〈人の欠点を強いて暴こうとする〉(ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」)こと。こういうスタンスの王がいたということだけで、沖縄の一面が見えてくるようだ。

 さて、裁判の中身は、というと、「沖縄が大事にしていたこと」が見えてくるようであった。ひとつには、「人間関係(特に夫婦関係)」だ。大事にするあまり、姦通にはとても厳しく、発覚するとすぐに島流し……。

 一例を挙げよう(裁判7)。

 男A(23歳)は、未亡人B(30歳)と懇ろになる(ちなみに、男女の交わりを「取合い」と言うのだそうな)。当時は、夫と死に別れても、妻は離縁されない限り嫁いだ家に残らなければならなかった。自由恋愛はもってのほか。当然、AとBの関係は大問題になる。発覚を恐れた未亡人Bは、いとこC(17歳)とAを男女の仲にし、関係を清算しようとする。ところが、AとCのいちゃいちゃを目撃したBが激高。身内を総動員してAを袋だたきにしてしまった。

 判決に驚いた。暴力を振るった人間の大多数が無罪。Cは寺で反省。そしてAとBは、別々の島に島流しとなったのだ。「人間関係」を軸とするゆえの判決である。

本を読む

『沖縄の犯科帳』(比嘉春潮・崎浜秀明編訳)
今週のカルテ
ジャンル法律/風俗
時代 ・ 舞台1800年代の沖縄(日本)
読後に一言男A(23歳)の話は続きがあって、島流し先の待遇が悪いと逃げ出してしまう。この脱走事件の裁判の模様は、本書の「裁判8」で。
効用当時の沖縄の人々の息づかいまで、聞こえてきそうです。貴重な記録と言っていいでしょう。
印象深い一節

名言
裁判は公平で正義の実現をはからなければならない。苛酷すぎる刑罰をさけること、人から悪を取り去って善に導き、無刑の世にしていくことが法の目的である(まえがき「解説」琉球科律について)
類書沖縄研究の師祖による民俗学の集大成『をなり神の島(全2巻)』(東洋文庫227、232 )
明治時代の沖縄探検『南嶋探験(全2巻)』(東洋文庫411、428)
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