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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『沖縄童謡集』(島袋全發、外間守善解説)

2010/09/02
   沖縄各地に伝わる177の童謡と65の遊戯。その中に息づく沖縄の「美しゃ(かいしゃ)」。

 音楽学者・小島美子さんの『歌をなくした日本人』(音楽之友社)を読んでいたら、「沖縄の音楽」は「長い歴史の中でひじょうに多くの異質の音楽文化に接しながら、強烈に自らの個性を持ちつづけ、それをゆたかにしてきた」という一節があった。西洋音楽一辺倒の日本の音楽教育に異を唱え続けている小島さんにとって、沖縄とは、生活の中で伝統的な音楽が息づいている場所だ。

 そうまで絶賛されると、沖縄の音楽が知りたくなる。

 ならば、ということで東洋文庫の出番だ。アジアの知を結集したこの叢書には、ちゃんと沖縄もラインナップされていて、それどころかそのものズバリの本があった。『沖縄童謡集』である。本書は、歌詞収集だけの本ではない。一部には楽譜までついている。


〈月の可愛しや(つきぬかいしゃ)、十日三日(とゥかみか)。女童(みやらび)かいしゃ、十七つ(とゥななつ)。ホーイ、チョーガ。〉


「可愛しや」は「美しゃ」の字でも書かれることがあり、『月ぬ美しゃ』というタイトルでも知られる。かつてはNHK「みんなのうた」でも流れたとか。

 一瞬の青春の輝き=美しさを「時分の花」といったのは世阿弥だが、少女の美しさを17歳(満年齢でいえば15歳)に見た沖縄の感覚は、それに相通ずる。

 「十日三日」は「十三夜」のこと。特に陰暦9月13日の夜の月は、「のちの月」と呼ばれ、〈宇多法皇がこの夜の月を無双と賞した〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)ともいう。本書いわく、〈八重山には月の童謡が多い〉というが、この「美」に対する共通の感覚は、興味深い。

 著者の島袋全發氏は、明治の那覇生まれ。戦前、〈標準語励行運動が沖縄方言撲滅運動とセットにされ、強力に推進された〉中、その施策に強固に反対し、県立図書館長職を追われた人でもある(ジャパンナレッジ「日本歴史地名大系」)。本書をはじめ、『那覇変遷記』など、その著作は、沖縄の民俗学、郷土研究の金字塔であろう。

 本書に戻ろう。これは宮古島の童謡。


〈雨よ。風よ。八重山んかいまい、多良間んかいまい、流れぴれ。流れぴれ〉


 雨風は八重山や多良間に流れて行け! 著者は、〈名物の暴風雨はかうして子供達にまでうたはれてゐた〉と解説するが、台風にはしゃいでいる子らの姿が、目に浮かぶようだ。


 ところでどなたか、歌ってくれませんか?

今週のカルテ

ジャンル音楽/民俗学
時代 ・ 舞台戦前の沖縄
読後に一言沖縄の「うた」に心あり。
効用歌い継がれてきたもの、守り続けてきたもの。前を見るだけでなく、時には、振り返ってみるからこそ、発見もある。
印象深い一節

名言
泣(なー)ちん、泣(なー)ちん、笑ひがやー/泣いても泣いても、笑ふかね。
類書裁判記録から見た沖縄の庶民生活『沖縄の犯科帳』(東洋文庫41)
明治人が見た沖縄『南嶋探験 琉球漫遊記(全2巻)』(東洋文庫411、428)
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