1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
この1年、はたしてどうなる? 6世紀のインドの“占術”で占ってみよう |
家族揃って浅草寺に初詣に出向いたが、おみくじを引くと4人中3人が「凶」……。正月早々、出端をくじかれたので、占い直し(?)をすべく、あらためて東洋文庫で占いをしてみることにした。占いと東洋文庫なんて関係なさそうに思えますが、あるんです、『占術大集成』という古代インドの全2巻の大著が!
これは、500年代に宮廷占星術師によって著されたもの。しかしお馴染みの占星術というよりは、目に見える物事から吉兆を判断するという占いだ。太陽や月、惑星の動きを見るのは占いでは当たり前だが、この本が面白いのは、森羅万象に吉兆を見ることだ。
一例をあげると、〈虹の相〉、〈身体の相〉、〈神殿の相〉、〈犬の相〉、〈真珠の相〉、〈ベッドと椅子の相〉、〈象の振舞い〉……と、百科事典と見紛うようだ。
早速、気になるタイトルを繰ってみる。「男の相」というぴったりの占いがあるのでみてみると……。
〈二筋、三筋、四筋の水流で、右回りの回転をする尿を放つと王になると知るがよい。拡散する尿なら財産を失う〉
どんなものにも吉兆をみるというのが、この占いの真骨頂だが、まさか「尿」とは……。尿を発するところのカタチ占いなんてぇのもありますが、さすがに自粛。
ジャパンナレッジ「ニッポニカ」によれば(「占い」の項)、〈占いの目的〉は次の3つだという。
①〈真実の探求〉 ②〈選定・選択〉 ③〈未来の予測〉
だとすれば尿占いも〈真実の探求〉であり、これによって正しい〈選定・選択〉がなされるということか。
しかし私が知りたいのは“希望”である。「今年も大丈夫!」という明るい希望だ。探したらありましたよ、“希望”となりえるものが。以下、列挙します。
〈思いやりのある振舞いこそが人に愛されるもとになる〉
思いやり……長らく忘れてました。
〈自惚れを打ち捨てると愛されるようになる〉
要らぬプライドは捨てろ、ということですな。
〈枯れ草に覆われていても火は燃え盛るように、美徳は隠れていても大きくなる〉
何だか説教クサイ文言が並びましたが、「運」というのは「スピリチュアル」ではなく、「行動」に裏打ちされる、ということなんでしょうな。さ、この1年、“枯れ草の下の美徳”で乗り切りますか。
ジャンル | 実用/風俗 |
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時代 ・ 舞台 | 500年代のインド |
読後に一言 | 運勢……ようは気の持ちようということで。 |
効用 | 古代インドの社会が垣間見られます。 |
印象深い一節 ・ 名言 | (占星術師にとっての)良い性質とは、清潔さ、器用さ、大胆さ、正しい言葉使い、頭脳の明晰さ、場所と時を知ること、心の清浄さ、人の集まりを恐れないこと、学友によって負かされず、よく勉強し、快楽にふけらず……(占星術師の玉条) |
類書 | 同時代の南インドの箴言集『ティルックラル』(東洋文庫660) 本書より前の時代のインド社会規範の書『ヤージュニャヴァルキヤ法典』(東洋文庫698) |
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(2024年5月時点)