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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 180

『日本神話の研究』(松本信広著)

2013/05/09
アイコン画像    面白おかしいストリップが世界を救った!?
日本神話に見る、エロと笑いの効用

 今年2013年は伊勢神宮と出雲大社の同時遷宮の年だそうだ。まだ学生の頃、ちょうど遷宮が終わったばかりの伊勢神宮を訪れたことがあり、その出来立てホヤホヤの状態に虚を突かれた記憶がある。恥ずかしながら、遷宮自体を知らなかったのだ。20年に1度、神殿を造営して神を移すなんて面倒なことのように思えるが、「国史大辞典」(ジャパンナレッジ)によると、〈木造建築であるため、一定の期間を経ると耐久力を失う〉という現実的なものから、〈神の降臨を仰ぐ場合は必ず真新しい住まいに招くという伝統的習俗〉とする説など、その理由は諸説あるらしい。

 いったい神社とは? 神さまとは? 神社参拝が外交問題に発展する国に住んでいる身としては、もう少し知っておきたいと手に取ったのが、明治生まれの民族学者、松本信広の名著『日本神話の研究』である。

 〈日本民族文化の「南方説」をとなえた〉(同「日本人名大辞典」)学者らしく、神話の比較として出てくる地名や民族は、ポリネシアやインドネシア、ニュージーランドにアイヌ、とさまざまで、改めて日本の文化の多様性を感じましたよ。私がもっとも興味深かったのは、天照大神が天の岩屋戸に隠れた時、天鈿女命(あめのうずめのみこと)がその前で踊った、というエピソードに対する考察だ。これ、松本博士は、〈(天照)大神を和め、その怒りを解くために笑わせる儀式が必要なのである〉と分析した。続けて、〈笑いにより思いつめた決意は弛緩〉すると、博士は言う。


  〈悪魔の憤り、獰猛さは、笑いの中に消えてしまう。おもうに、アイヌ人もギリシア人、日本人同様、陰所顕露の喜劇的舞踏によって、悪神を撃退し得ると信じておったのである。

 タブーの緊縛が突如解放せられ、見るべからざるを見た時、思わず人は失笑する。陰所を示すという行為が人を笑わせる主要な手段であった〉


  〈陰所顕露の喜劇的舞踏〉を噛み砕いて言うならば、面白おかしいストリップショーということですな。切羽詰まった宴席で、サラリーマンが裸踊りを敢行するのと同じ理屈だ(最近はやらないだろうけど)。ポイントは、エロ&笑いで、〈思いつめた決意は弛緩〉し、結果、冬から春へと好転させる、というところだ。われわれの神さまは、〈笑い〉で窮地を脱していたのである。

 東アジアの緊張が高まっていますが、状況を弛緩させるような「エロい笑い」、どこかにないですかねぇ。

本を読む

『日本神話の研究』(松本信広著)
今週のカルテ
ジャンル宗教/民俗学
刊行年1931年
読後に一言名著から「エロ」を抜き出すのは不謹慎かもしれませんが、神さまをことさら持ち上げるのも気味が悪くて……。
効用神話が一つに融合していく流れや、周辺諸国の影響など、非常によくわかります。
印象深い一節

名言
我が国民が北または南方から今の島嶼(とうしょ)に渡来したとしても、この国土に適合する祭儀を発達せしめ、神話はこれと結んで成長し、我が国特殊の形態をとるに至ったと考えられる。(「我が国天地開闢神話にたいする一管見」)
類書本書でもたびたび引用される高木敏雄の著書『増訂 日本神話伝説の研究(全2巻)』(東洋文庫241、253)
神話と密接に結びつく『風土記』(東洋文庫145)
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