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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『日本事物誌1、2』(B.H.チェンバレン著、高梨健吉訳)

2013/06/20
アイコン画像    外国人は見た!? 日本を訪れた外国人の
目を通して確認する、富士山の素晴らしさ

 取り憑かれたように三たび富士山である。

 富士山が世界遺産であるということは、その美や存在感を外国の方々と共有する、ということだろうが、ヒネクレ者の私は、「そんなうまくいくかなあ」と思っている。だって、基準は「世界」だ。「日本一」というポジションは意味をなさない。富士の魅力とは何ぞや?

 そう思ってつらつらとジャパンナレッジで東洋文庫を眺めていると、富士山に言及している外国人が多いことに気づいた。いったい彼らは何を富士に見た? というわけで今回のテーマは、「外国人が見た富士山」。

 とんとんとん、と列挙しましょう。


 〈われわれが江戸滞在中、たびたび見た富士は実にすばらしかった。とくに視界が澄んでいる朝の涼しい時には、この天にそびえるピラミッドの山は間近にあるように見える〉(ドイツ人医師シーボルトによる『江戸参府紀行』)



 〈学校へ行く途中で、私は殆ど七十マイルも離れた富士を見る。これは実に絶間なきよろこびの源である〉(大森貝塚を発掘した米国人学者モースの『日本その日その日2』)


 〈日本人がこの山(富士山)をさまざまな線画や写生画によって紹介しようとしていることは何ら不思議とするに当らない。われわれはその眺望に飽くことなく、幾度となく立止まっては、美しくまた誇るべき自然を賞讃したのであった〉(江戸時代のオランダ商館員フィッセルによる『日本風俗備考2』)


 他にもイギリスの女性旅行家イザベラ・バード(『日本奥地紀行』)や、朝鮮通信使キム・インギョム(『日東壮遊歌』)ら、印象的な富士の記述は多い。

 中でも、明治時代に来日した英国人言語学者チェンバレンの『日本事物誌』で紹介される富士山には唸らされた。話は地質学、言語学、民俗学、美術、文学などに及ぶ(中でも、富士の語源を語るのに、アイヌ語のフチ(火の女神)やブシ(飛び出す)をも持ち出す博識さに驚いた)。


 〈日本人も外国人も、芸術家も行楽客も、等しくひざまずいてこのすばらしい山(富士山)を仰ぎ、優美と荘厳を融合させて、屹然と独り立っている姿を賞讃する〉


 チェンバレンの富士賞賛が信頼できるのは、氏が日本を手放しで褒め称えているわけではないから。疑問を呈し、批判もする氏の批評だからこそ、納得できるのだ。

 『日本事物誌』を読んでようやく、富士山の世界遺産登録を素直に喜べたのでした。

本を読む

『日本事物誌1、2』(B.H.チェンバレン著、高梨健吉訳)
今週のカルテ
ジャンル事典/随筆
時代 ・ 舞台明治の日本
読後に一言「狂信的愛国主義」の項では、日本と世界の行く末を憂慮し、「日本人の特質」項では外国人の日本評を網羅する博覧強記ぶり。いちいち唸ってしまう事典であり、エッセイでした。
効用アイヌ人、占い、四十七士、結婚、もぐさ、超自然的動物、女性の地位……と項目を並べただけでも、この本の面白さが伝わってくるのでは?
印象深い一節

名言
彼ら(日本人や極東の人びと)は、われわれがパブリック(公衆)と呼ぶ抽象的多数者に対してなんらの考慮も払わない。(「礼儀」)
類書富士山も登場。清朝の外交官が見た日本『日本雑事詩』(東洋文庫111)
彼の奥さんは富士山に初めて登った外国人女性『パークス伝』(東洋文庫429)
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