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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『中国古代寓話集』(後藤基巳編訳)

2013/08/01
アイコン画像    反省すべきところは反省し……。
自分を省みること必至の中国説話集

 行き詰まった時、あるいは先行きに不安を感じた時、皆さんはどうしているだろうか。

 信心もなければ、頼るべき先達も見当たらない私は、たいてい本に逃げ込む。「ファンタジーに逃げる“下流”の人々」という雑誌『プレジデント』の特集がかつて話題になりましたが、そうです、逃げ込んでいるのは私です。この2か月間で20冊弱のファンタジーを読みました。まったくの現実逃避ですな。

 本音を漏らすと、ビジネス書や啓発本を金科玉条のように信奉する人間ってどうなんだろう、と思うのだけれど、それを声高に言ってしまうと同じ穴のムジナになってしまうので、ほんのちょっとだけ反省し(政治家が口にする「反省すべきところは反省し」というアレです)、同じつくり話でも、多少は刺激になろうかと手に取ったのが、『中国古代寓話集』である。本書は、荘子、列子、戦国策、韓非子、呂氏春秋、墨子、孟子、淮南子の8つの中国古代の思想書から、選りすぐりの説話を集め、現代語訳したものなのである。胡蝶の夢、井の中の蛙、漁父の利、矛盾、五十歩百歩……など、お馴染みの故事の説話もふんだんで、改めて勉強になりました。

 で、その中でも私がいいな、と思ったのは、淮南子に載っている「勝ったから心配」という話だ。ザックリとかいつまんで説明しよう。

 ある王さまが、敵国を攻め、たちまち2つの城を取った。ところが王さま、顔色が優れない。部下が心配してその理由を問うと、王さまは答えた。


 〈大きな河でも、三日もたたずに水が減ることがあるし、どんな暴風雨でも朝から昼までは続かないし、太陽も中天にかかっているのはわずかな時間だ。ところがいま趙氏(自分)は特別に徳行を積んだというわけでもないのに、たちまちにして二つの城が降った。滅亡の憂いがやがてわが身にもふりかかるのではなかろうかと心配なのだ〉


 これを聞いて孔子は「趙子(趙氏)はきっと栄えることだろう」。


 〈およそ心配は栄えるもと、喜びは亡びるもとなのである〉


 勝ったから何でもアリ、ではなく、将来のことを憂える。目線は「今」ではなく、「先」にある。ああ、こんなリーダーをいただきたい。……って、他人の話にしちゃいけませんね。わが身のこととして考えないと、反省したことにはなりませんから。

本を読む

『中国古代寓話集』(後藤基巳編訳)
今週のカルテ
ジャンル説話/思想
時代 ・ 舞台古代中国
読後に一言漢文の書き下し文は疲れた頭になかなか入ってきませんが、これは現代語訳。すーっと理解できました。
効用8つの思想書の説話を読み、面白いと思った思想書を完読する――これが理想の読書かもしれません。本書は入門書として気楽に触れてください。
印象深い一節

名言
人間が生を悦ぶことは浅はかな迷いであるかもしれず、死を憎むことは若いころ故郷を離れて他国に住みついた者が帰ることを忘れているようなものであるかもしれぬ。(荘子篇)
類書本書にも一部掲載『列子(全2巻)』(東洋文庫533、534)
本書にも一部掲載『墨子』(東洋文庫599)
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