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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 280|291

『将門記1、2』(梶原正昭訳注)

2013/08/15
アイコン画像    1000年前の戦争――平将門の乱から
読み解く、“戦争をしたがる理由”

 最近、テレビで戦争を反省するドラマや特集が少ないように感じるのは、気のせいだろうか。まさか時の政権に日和っていないよね? 政治家の発言や、週刊誌の見出しなんぞをチラチラながめていると、この国はまた戦争がしたいのかな、と不安になってしまう。

 戦争とは何ぞや。大仰に問うたところで、大きな流れは変わらないだろうけれど、あえて問うてみます。テキストは『将門記(まさかどき/しょうもんき)』。そう、平安時代の10世紀半ばに起こった「平将門の乱」を描いた軍記物である。

 東洋文庫の『将門記』は、訳注者の労作で、原文の漢文、書き下し文、口訳、註、補説(章ごと)という5段構え。漢文はお手上げだが、口訳はわかりやすいし、註や補説は読み物としても面白い。

 で、読んでみて勝手に得心しました。「なぜ戦争が起きたか」という視点で『将門記(しょうもんき)』を勝手にまとめると、こういうことになるんです。


①私憤(近しい人間との感情的なわだかまり。人間を国に置き換えると、まさに今、ですな)

②リーダーの功名心(本書いわく、〈将門は、ひたすらに武名を後世にのこそうと念願し……〉。本書では、将門の血筋の良さも盛んに喧伝します。血筋がいいと、「自分も名をあげたい」という欲求が高まるのか?)


 つまり、ささいな感情のもつれに、リーダーの功名心が加わると、闇雲に戦争に突っ走るというわけだ。

 では戦争の結果、どうなったか。


 〈(939年11月に)将門は関東を制圧して受領(ずりょう)を追放、新皇と称して弟や同盟者を国司に任じ、関東自立の姿勢を示す。しかし940年2月、下野(しもつけ)の豪族藤原秀郷(ひでさと)と(伯父)国香の子貞盛らの軍勢により、猿島の北山(嶋広山ともいう。茨城県坂東市)で討たれた〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)


 史実ではこうなるが、この記述には、その他の人々が出てこない。本書では、将門に付き従った兵のその後を描く。


 〈犯すところの罪科のある者もない者も、同じ畦道に芳草・臭草が入り混じって生えるように、ひとしなみに辛酸をなめ、悪心をいだく者もそうでない者も、涇水(けいすい)と渭水(いすい)が清濁合わせて流れるように、見境いなく悲惨なめにあったのである〉


 これが戦争である(『将門記』にはないが、兵よりも民のほうが悲惨だったのは明らかだ)。ともあれ、8月15日は敗戦の日である。

本を読む

『将門記1、2』(梶原正昭訳注)
今週のカルテ
ジャンル歴史/文学
時代 ・ 舞台10世紀半ば、平安時代の日本
読後に一言夫婦喧嘩も兄弟喧嘩もそうですが、争いなんて皆、ささいなことから起こるんですね。
効用「国史大辞典」いわく、『将門記』は、〈一個の文学作品として、のちの軍記物の嚆矢として、文学史的にも重要〉だそうです。
印象深い一節

名言
いったい誰が予測しえたであろうか、僅かなあやまちを改めなかったがため、このような大きな災害に立ち到ることになろうとは(『将門記2』将門の最期)
類書平将門の乱を載せる『今昔物語集4』(東洋文庫104)
悲運の英雄の物語『義経記』(東洋文庫114、125)
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