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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 332|334

『爛柯堂棋話1、2』(林元美著、林裕校注)

2013/10/03
アイコン画像    知らずに使っていた囲碁用語多数!?
囲碁エッセイに、囲碁の深さを知る

 先日、妻から「あなたの口癖は“結局”」だと指摘された。短気ゆえ、“結局”のところ、結論を急いでしまうゆえの癖? で、気になってジャパンナレッジの日本国語大辞典で「結局」を調べてみた。いやー、驚きました。意味の項目の一番目にこうあるんです。


 〈(1)囲碁を一番打ち終えること。終局。〉


 さらに「語誌」をみると、〈もとは「囲碁を一番打ち終える」の意味であったが、江戸時代末期に「はて、結末」の意味に転用された〉とある。「結局」って、囲碁用語だったんですな。知らずに濫用しておりました。試しに、日国で「囲碁」の全文検索をかけてみると何と568件! 主だったところでは、「大局観」、「定石」、「序盤」、「一目を置く」も、あの「八百長」も囲碁絡みの用語でした。

 実は、東洋文庫には囲碁の書が数多い。中国の二大古典『官子譜(かんずふ)』と『玄玄碁経(げんげんごきょう)集』に、難解の書と言われる『囲碁発陽論』。そして今回の主役『爛柯堂棋話(らんかどうきわ)』。ここまで囲碁用語が日常語に紛れ込んでいるならばと手に取ってみた。著者の林元美(はやし・げんび、1778~1861年)は、江戸時代後期の囲碁棋士。林家は、本因坊、井上、安井と並ぶ、江戸時代四家元のひとつである。

 著者の紹介はさておき、この『爛柯堂棋話』、囲碁がまったくわからない私にとっても、非常に面白い読み物でした。本書は、幕末の棋士による囲碁絡みの逸話や史話などを集めたものだ。例えば、豊臣秀吉の中国地方遠征に対し、軍師の竹中半兵衛は、戦局を囲碁にたとえる。


 〈これは一手先の見えざる下手の碁と同じ事なり。いろいろ道筋多しといえども、毛利家の所存測り難ければ、返事おぼつかなし〉


 他にも家康の碁好きの話など、よくここまで集めたものだと感心するほどの量と質。いわば、囲碁=人生の縮図、というわけ。囲碁はそれぐらいの大きなものだからこそ、言葉も多く誕生し、今に残る、ということなのだろう。

 ニッポニカ(ジャパンナレッジ)によれば、囲碁(碁)は、〈3000年ほど前、古代中国の先進地帯で碁の原形が形成されたとする説がもっとも有力〉で、〈日本へはおそらく5、6世紀、朝鮮半島を経由して伝わった〉のだそうな。

 そんな深~い囲碁を打てない私は、人生、損しているのかも。こんなことじゃ“駄目”ですな。ああ……この「駄目」も囲碁用語だそうです。

本を読む

『爛柯堂棋話1、2』(林元美著、林裕校注)
今週のカルテ
ジャンル趣味/歴史
成立した年代日本/江戸末期成立
読後に一言「好きな物」があるという強さを、思い知らされました。
効用囲碁の歴史もよくわかります。
印象深い一節

名言
およそ物を翫(もてあそ)べば志を喪(うしな)う。中にも囲碁を甚だしとす。その害、昔なお今の如し。(巻之一)
類書詰碁の二大名著のひとつ『官子譜(全5巻)』(東洋文庫 318ほか)
二大名著のもうひとつ『玄玄碁経集(全2巻)』(東洋文庫387、390)
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