1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
1800年代の台湾の姿がよくわかる 中国の役人の真摯なレポート |
ジャパンナレッジで「NNA:アジア&EU 国際情報」を読んでいたら面白い記事を見つけた。台湾のネット利用者が総人口の77.1%に達し、アジアの国・地域のうち韓国(82.5%)、日本(79.5%)に次ぎ3位に躍り出たのだという(2013年09月30日)。そういえばシャープが苦境に陥った時に、提携先として名が上がったのが、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業だったし、台湾はいまやIT大国なのだった。
かつて日本の植民地であった時期もあり、台湾と日本の関係は深い。にもかかわらず紙面に踊るのは韓国・中国ばかりで、台湾のニュースは滅多にない。それじゃあということで、東洋文庫で自力で調べてみることに。
で、『問俗録』である。これは清朝時代の地方官僚が書いた福建省のレポートで、台湾は福建省に属していたため、ここにもしっかりと掲載されているのである。
清が台湾を版図に収めてから、本土からの開拓民が急増。生番=台湾原住民(かつて高山族とも呼ばれた)は、山岳地方に追いやられ、漢民族中心の町ができていった。
〈山奥に居る生番は、裸、はだしで、棘やいばらだらけの道なき道や、雲に隠れるほど高く険しい嶺を、まるで飛ぶような速さで歩く〉
とレポートにあるぐらいだから、どれだけしいたげたかがわかる。しかしこのレポート自体は冷静で、台湾の風俗や生活、問題点を客観的に記述している。仕事をスムーズに運ぶために、正直にレポートを書きました、という姿勢がよくわかる。例えばこんなくだり。
〈文運が衰えると教(民の教化)が失われてしまう。しかるに台湾の文運は、内地の者が替え玉として科挙を受けるために衰えてゆく。福建の人々はあひるのようにがつがつと利益をむさぼろうとする〉
ようするに中央から遠く離れた台湾では不正がやりやすく、内地の人間が台湾での科挙を利用するだけして、台湾に住む人間は、学ぶことからも、取り立てられることからも遠ざかっていく、ということだ。
今年2013年のノーベル平和賞では、女子教育の権利を訴え、イスラム過激派に銃撃されたパキスタン少女マララ・ユスフザイさん(16歳)が候補に挙がった。今も昔も、浮上するカギは「教育」なのだ。現在の台湾の教育熱はすさまじく、女性の社会進出もめざましい。パキスタンにはそれがない。それだけの違いなのだけど。
ジャンル | 風俗 |
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時代 ・ 舞台 | 1800年代の中国、台湾 |
読後に一言 | 「NNA:アジア&EU 国際情報」によると、台湾には腐女子もいるそうです。レポート時よりも急速な近代化(?)です。 |
効用 | 福建省は、丘陵と山地が全面積の90%を占めるそうですが(「ニッポニカ」)、本書からは、台湾だけでなく、福建省での暮らしが見えてきます。 |
印象深い一節 ・ 名言 | (山岳に住む生番は)漢人を見ると刺し殺す。(巻六 鹿港庁) |
類書 | 台湾などに関する報告書『バタヴィア城日誌(全3巻)』(東洋文庫170ほか) 台湾などの民俗誌『〈華麗島〉台湾からの眺望 前嶋信次著作選3』(東洋文庫679) |
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