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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『ペルシア逸話集 カーブースの書・四つの講話』(カイ・カーウース、ニザーミー著、黒柳恒男訳)

2013/12/12
   11世紀イランの小国の王が、息子に
残したかった“44の生きる知恵”

 内憂外患と申しますか、天下国家の話でいいニュースがない。そのうち全部秘密になるから、悪いニュースは聞こえてこなくなるのかもしれませんが……。

 唯一、ニュースを見ながら「おぉ」と歓声を上げたのは、イラン核協議での合意だ。だって、イランとアメリカなんて、30年以上揉めているんですからねぇ。それが曲がりなりにも一歩を踏み出した。これは歴史的一歩だ。

 では、そのイランの生んだ書物から。

 『ペルシア逸話集 カーブースの書・四つの講話』は、王が息子に残した教訓書「カーブースの書」と、詩人や医師の職業別エピソードを集めた「四つの講話」からなる。特に「おぉ」と唸ったのが、「カーブースの書」だ。

 解説によれば、著者のカイ・カーウースは、ズィヤール朝第七代当主。とはいえ、ズィヤール朝はカスピ海沿岸の小国で、ブワイ朝とガズナ朝という二大強国に挟まれた存在。ちょっとハンドリングを誤れば、すぐに消滅してしまうような国だった。ゆえにカーウースは、愛息のために教訓を残そうと考えた。それが「カーブースの書」。なんでも、〈ゲーテがドイツ語訳を読み「評価を絶する優れた書物」と激賞した〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)のだそうだ。

 実際、今日びの啓蒙本より、高尚で、刺激的だ。


 〈知れ、息子よ。人は教養がないかぎり役に立たない。(中略)身につけた教養は気高い素姓にまさる〉


 〈たとえ役に立とうが立つまいが、他人の話を聴くのをいやがるな。すれば言葉の扉がそなたに閉ざされぬであろう〉


 〈息子よ、敵をつくらぬように努力せよ。だが敵がいても、恐れたり悲しむな。敵がいない人は敵の意のままになりやすい〉


 いやー、感心しっぱなしです。カーウースは食事の作法から王以外の職業についた場合まで、44の事柄についてとるべき態度と思想を語る。ある意味、秘密はゼロ。至れり尽くせりで、「性の愉しみについて」という章もあるくらいだ。いわく、〈夏には若者(註・中世イスラムでは男色OK)、冬には女をかわいがれ。あまりその気にならぬようこの章は簡略にしておかねばならぬ〉ですって。

 父の不安は的中し、息子の代で王朝は消滅してしまったが、しかしこの著によって、彼の「思想」と「名声」は歴史に刻み込まれたのである。


今週のカルテ

ジャンル説話/実用
時代 ・ 舞台11~12世紀のイラン
読後に一言カーウースいわく、〈人生の愉しみの限界は四十歳まで〉だそうな。あとは下り坂。だとすれば40をとうに越えている私は、なお一層、愉しむ努力をしないといけないのだろう
効用「四つの講話」は、書記・詩人・占星術師・医師に関する逸話集。特に詩人の項は、歴史的評価も高いそうです。
印象深い一節

名言
私が父性愛からそなたにこれを授けるのは、時の手で押しつぶされる前に、そなたがみずから知性の眼でわが言葉を視て、これらの忠言によって傑出し、両世界における名声を得てもらいたいからである。(「カーブースの書」序)
類書「四つの講話」でも紹介されるイラン詩人フィルドゥスィーの民族叙事詩『王書』(東洋文庫150)
次代に託したい各々の知恵や考え『家訓集』(東洋文庫687)
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