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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『中国の酒書』(中村喬編訳)

2010/10/07
   全国の酒好きをきっと唸らせる、中国の宋の時代に書かれた、酒のすべてがわかるウンチク本。

 まずはこの文章をとくと味わってもらいたい。

 〈花に酔うには、昼がよい。そのかがやきを愛でるからである。雪に酔うには、夜がよい。そのけがれなきを楽しむからである。こころ満ち足りているときに酔うには、つややかな唱声がよい。その和らぎを広げるからである。(中略)楼に酔うには、暑いときがよい。その清(すが)すがしさを引き立てるからである。水に酔うには、秋がよい。その爽やかさを際立たせるからである〉

 名文である。

 訳文の良さもあるだろうが、見事なまでの世界の愛でかたである。清少納言の「春はあけぼの……」を思い出した人も多いだろうし、道元禅師の有名な歌、「春は花夏ほととぎす秋は月冬雪さえてすずしかりけり」を口にしてみるのもいい。

 「酔う」といっているところからも明らかなように、これは「酒の飲み方」を説いたものである。中国は宋の時代の「酒書」、『酒譜』の中の一節だ。

 今回紹介する本書は、酒のウンチクを集めた『酒譜』と、醸造法を記した『北山酒経』からなる合本で、酒を論じた書の整ったテキストとしては、現在見ることのできる中国最古のものだという。

 特に『酒譜』は、酒好きのために書かれたような本で、例えば、白居易は河南の長官(尹)をしていたとき自らを「酔尹」と呼んでいただの、「酔聖」(あるいは「酒仙」とも)と呼ばれた李白を持ち上げたりする。漢字学を確立した白川静氏によれば、そもそも酒は、〈神に薦め、神人一体を実現するためのものであった〉(ジャパンナレッジ、東洋文庫『漢字の世界』)というから、酒は本来、神聖なものであった。

 〈李白一斗 詩百篇、長安市上 酒家に眠る。天子呼び来れども船に上らず、自ら称す 臣は是(こ)れ酒中の仙と〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)

 酒の詩といえば、杜甫が友人・李白に贈ったこの「飲中八仙歌」が有名だが、酒を飲むことと詩作が一体化している李白を、好ましく思っている杜甫の視線がまたいい。酒が「神人一体を実現するためのもの」ならば、芸術に没頭することと酒は、近い関係にあるのだろう。

 と、本書を読むうちに酒が飲みたくなってきた。というわけで自戒を込めて、『酒譜』が指摘する、ダメな酒飲み8例を列記しよう。(1)ルール無視。(2)酔うと饒舌。(3)悪口ばかり。(4)うるさい。(5)しらける。(6)ねたむ。(7)礼儀知らず。(8)自分の非を認めない。さて心当たりは?

今週のカルテ

ジャンル実用
時代 ・ 舞台中国/宋の時代
読後に一言中国三千年の神髄をここに見た。
効用1つのことをとことん極めれば、別の世界が眼前に開けます。
印象深い一節

名言
酒の道は深遠であり、深く心に探らなければ、その道理を見出すことはできない。(『北山酒経』)
類書茶道の源『中国の茶書』(東洋文庫289)
中華料理のレシピ『中国の食譜』(東洋文庫594)
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