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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 687

『家訓集』(山本眞功編註)

2013/12/19
アイコン画像    次期大河ドラマの主役・官兵衛の
息子が遺したとんでもない家訓とは!?

 NHKに何の義理もないけれど、〈カリスマ的な英雄にスポットライトを当ててその時代を描くよりも、その裏にいた等身大の人物たちを通して戦国という時代を描いてみたい〉(NHK「軍師官兵衛」公式サイト)という大河のチーフプロデューサーの言葉には、おっと思わせるものがあった。そりゃそうだよね、歴史はリーダーだけが紡ぐものじゃない。歴史は決して他人事じゃないのだ。

 2015年の大河ドラマの主役は、秀吉に仕えた稀代の軍師・黒田官兵衛(孝高/如水)。秀吉の「高松城水攻め」を献策したといわれる知将だ。その官兵衛の長男・長政の遺訓が残っているのだが、これが非常に興味深い。

 公家をはじめ、武家、商家、農家の各階層の「家訓」を集めた『家訓集』の中のひとつ、「黒田長政遺言」だ。

 死の2日前にしたためたという執念の遺言で、〈生死は覚悟之(の)前に候得(そうらえ)ば、今更改めて申し置く可き事なし〉と断りながらも、しょうもない子孫が出てきた時のために……と話を始める。

 さて、いったいどんな「教え」が登場するのか。あの官兵衛の息子である。しかも、〈関ヶ原の戦いに際しては小早川秀秋(こばやかわひであき)を東軍に寝返らせるなど東軍の勝利に大きく貢献〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)するなど、父親譲りの知恵働きもした武将だ。期待をしつつ、読み進めていくと……。


 〈(家康が天下をとったのは)偏(ひとえ)に如水長政が忠功を以(もって)、御心安く天下之主(あるじ)とは成らせ給ふ者也〉


 父ちゃんの如水(官兵衛の出家後の号)とオレのお陰で、徳川の天下がある。と、こう言っているのだ。

 その内容も事細かく、如水が関ヶ原の戦いの際、九州の反徳川勢力を討った話や、西軍の小早川秀秋(文中では「金吾中納言」)など諸将を寝返らせた話など、遺言の8割以上は手柄話。で、こう言い放つ。


 〈(関ヶ原で勝利したのは)つゞまる所は、如水某(それがし)二人が力にあらずや〉


 で、もし黒田家がピンチに陥ったら、この功績を持ち出せ、と言う。しかも、家老たちに対しては、このことをそれぞれの跡継ぎだけにひそかに伝えていけ、と細かく指示を送っている。これも生き抜く知恵か。そういう意味では、父・官兵衛から学んだ知恵を、自身も後代に残そうとしたのかもしれない。

本を読む

『家訓集』(山本眞功編註)
今週のカルテ
ジャンル教育/記録
時代 ・ 舞台日本(平安時代~明治時代)
読後に一言財産じゃなくて「考え方」を残す。この姿勢、見習いたいものです。でも自分に残すものはあるのか……。
効用あらゆる層のさまざまな時代の家訓が収録されているので、その時代、その層の、人々の考え方が見えてきます。
印象深い一節

名言
〈人苟(いやしく)も心を正ふして正当の職業を営まば、自他の幸福は自然に生ずるものと知るべし〉(銀座・松屋の創始者が遺した「古屋家家訓」)
類書官兵衛のエピソードも掲載する『想古録(全2巻)』(東洋文庫632、634)
中国・六朝時代の家訓『顔氏家訓(全2巻)』(東洋文庫511、514)
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