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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 289

『中国の茶書』(布目潮貂、中村喬編訳)

2014/03/06
アイコン画像    全世界で愛飲される「お茶」
起源国の茶書でその歴史をたどる

 イギリスの小説を読んでいると、やたら紅茶を飲むシーンが出てくる。紅茶を飲まねば物事が進まないといった風で、まるで歯みがきと同じような位置づけだ。

 気になって「茶」を調べてみたら、案外、イギリスでの茶の歴史は新しい。原産は東南アジアで、伝説では約4000年前に中国で飲用が始まり、〈中国を起源に全世界に普及〉した。欧州の受容は〈1516年にポルトガル人がマカオにきて交易を始めてから〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)である。ただ意外なことに、一人あたりの茶(緑茶、紅茶、ウーロン茶、プーアル茶)の消費量ベスト3は、(1)アラブ首長国連邦、(2)モロッコ、(3)アイルランドで、イギリスは6位。紅茶好きのイメージがあるロシアは11位。日本はというと17位だ(2012年トリップアドバイザー「世界のお茶消費量」より)。

 枕が長くなったが、というわけで、『中国の茶書』である。本書は、唐代から明代にかけての中国の代表的な茶書10編を集めたもの。どんなことが書いてあるかというと、例えば、最古の茶書と言われる「茶経」(唐代)。


 〈茶を煮(た)てる水は、山水(やまみず)を用いるのが上等。江(かわ)水を用いるのが中等。井水(いど)が下等〉


 茶の木や器についても詳しく説かれていて、その「こだわり」が見て取れる。中国の茶書を一貫して貫いているのは、こうした細部へのこだわりだ。

 興味深かったのは、「茶疏」(明代)だ。このあたりにくると、「飲むタイミング」も説かれるようになる。


●飲むによき時……〈晴れて風の和やかなとき〉、〈酒宴が果て人が散じたとき〉など

●(飲むのを)止めるべき時……〈仕事中のとき〉、〈大雨や大雪のとき〉など

●(お茶の)良き友……〈清き風・明るき月〉など


 という具合だ。お茶を飲んでホッとしない人はいないだろうが、そんなお茶も編訳者の布目潮貂「氏によれば、「戦争」のきっかけとなったこともあった。


 〈アメリカ独立戦争は、茶の密輸を取り締まる茶条例に反発して起こったボストン茶会事件がその発端となった〉


 〈アヘン戦争は、その背景にイギリスにおける茶の急速な需要の増大があり、その決済にアヘンを用いたことに遠因があった〉


 些細なことが引き金を引く――。時代は常に、些細なこだわりによって動いてしまうのかもしれません。

本を読む

『中国の茶書』(布目潮貂、中村喬編訳)
今週のカルテ
ジャンルフード/趣味
時代 ・ 舞台中国(唐代~明代)
読後に一言「水」の記述が多いことに驚きました。お茶の神髄は水なんです。
効用「茶疏」いわく、〈読書作詩に疲れたとき〉もお茶を飲むのに〈よき時〉だそうです。
印象深い一節

名言
水は清(す)んで軽く、甘くて潔(きよ)らかなことを美とする(「大観茶論」宋代)
類書「喫茶養生記」など日本の茶の本を集めた『日本の茶書(全2巻)』(東洋文庫206、289)
茶よりも酒?『中国の酒書』(東洋文庫528)
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