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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『邪馬臺国論考(全3巻)』(橋本増吉著、佐伯有清解説)

2014/03/20
アイコン画像    100年前から変わっていない?
邪馬台国をめぐるカンカンガクガク

 当時、埼玉県の高校入試では作文が必須でした。私の受験時のお題は「私の夢」。で、無事高校に入り、国語の最初の授業で、皮肉屋の教師はこう言い放った。

 「半数以上が受験で、『私の夢はこの高校に入ることです』と書いた。君たち、夢が叶っちゃったけど、この後どうするの?」

 こんなしょうもないことを思い出したのは、橋本増吉氏の大著『邪馬臺国論考(全3巻)』を読んだから。私はこの時、「邪馬台国を発見する」と作文に記していたのだ。目標を夢とはき違えるのも情けないけど、今のいままで夢を忘れてしまっていたことはもっと情けない……。

 本書を読んで初めて知ったのだが、邪馬台国の所在地を巡る論争が始まったのは、明治の終わり(1910年)なんだそうな。それから約100年。新しい発見や発掘も相次いだが、それでも場所は確定できていない。橋本増吉氏の頃から、実はそれほど変わっていないのである(ちなみに橋本氏は、九州説を推す)。

 本書で唸ったのは、本論以外の、橋本氏のスタンスだ。


 〈実に、我が民族は亜細亜大陸の東辺海中にその国を建てゝいるのであるから、太古以来常に亜細亜大陸とその運命を共にするものであり、文化の消長、国運の盛衰、一として大陸方面に於ける政治的また文化的変遷の影響によらざるものはないのである〉(「邪馬臺国論考 1」)


 ようするにアジアの中で日本を見ろ、と。そういうことだろう。そしてさらに、〈太古以来我が皇室を中心とした日本国の存在を夢想し、或は神話伝説を捏造し、以て建国の年代を延長し、我が国家の成立を悠久ならしめんとするが如ぎ試み〉(同)が続いていると批判するのだ。もっともだと大きく頷きましたよ。

 ところが、橋本増吉氏のことを調べていくと、とんでもない事実が出てきた。この方、慶応大教授、東洋大教授を経て、東洋大学長まで務めるのですが、〈戦時中「大亜細亜協会」理事として活躍したため、公職追放令により学長を追われた〉(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)んだそうです。実際、自著でも「八紘一宇」の精神が日本精神の根幹だと説いている。アジアの中で日本を見よと説き、皇室中心史観を批判した氏が、八紘一宇とは!

 非常に明晰な分析をする人物が、時の政権に荷担する。これが戦時下の抗えぬ流れなのか。だとしたら今、よほど踏ん張らないと流されてしまうだろうな。「この後どうするの?」と、今の自分に問い直したい。


本を読む

『邪馬臺国論考(全3巻)』(橋本増吉著、佐伯有清解説)
今週のカルテ
ジャンル歴史/評論
時代 ・ 舞台日本/底本は1932年初版刊行、1956年改訂増補版刊行
読後に一言こうした先覚者の研究があったからこそだと、改めて思いました。
効用今日に続く邪馬台国論争の争点はほぼすべて網羅されています。
印象深い一節

名言
筑後国山門郡の地を以て、女王の根拠地となし、肥後北部地方ももとよりその領域の内に包括せしものなるべし(「邪馬臺国論考 3」)
類書「魏志倭人伝」を載せる『東アジア民族史 1 正史東夷伝(全2巻)』(東洋文庫264、283)
卑弥呼も登場する『日本神話の研究』(東洋文庫180 )
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