1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
砂漠に埋もれた幻の国家・楼蘭 「未知の知」との出会いに心躍らせる。 |
ジャパンナレッジがリニューアルされたということなので、このコラムも東洋文庫の基本に立ち返ろうと思う。というわけで、取り上げるテキストは、東洋文庫いの一番に発行された『楼蘭』である。
楼蘭――そう、砂漠の中に栄えた幻の国である。
〈中国、新疆ウイグル自治区、タリム盆地東端、ロブノール湖の北方に紀元前二世紀以前から存在したオアシス都市国家。シルクロードの要衝に位置し繁栄したが、四世紀にロブノール湖の移動により衰え、七世紀初頭には廃墟と化した。一九〇〇年ヘディンが発見〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)
楼蘭を発見したヘディンは、中央アジア・チベットを探検したスウェーデンの探検家だ。この時の知見などを元に、歴史家ヘルマンがまとめたのが本書である。
当のヘディンは「序」に記す。
〈遠い昔に人類が生活していた明らかな痕跡や遺跡を探りあてたとき、探険家がどんなに心をはずませるものか、その喜びを、筆や口で表現することは、とてもできない〉
私の勝手な思い込みだが、東洋文庫の存在理由は、このヘディンの言葉に込められていると思う。ポイントは、〈心をはずませる〉という心の動きだ。へディンは、遺跡を探りあてた時に心をはずませたというが、これを別の言葉で置き換えるならば、遺跡とは「未知の知」だ。未知のものに出会ったからこそ、心がはずんだのである。
そう考えれば、東洋文庫に収められているテキストは、私たちにとっては「未知の知」である。だから面白い。ヘディンが楼蘭発見に心躍らせたように、私たちは東洋文庫の知に、大いなる刺激を受けるのである。
楼蘭に話を戻そう。シルクロードの要衝に位置した楼蘭は、いわば東西交易の中心のひとつだった。
〈東トルキスタンの商業路上で、どれほど活潑な、そして多彩な動きが見られたか、それは今日では想像もつかないほどだ〉
行き交うのは商品だけではない。人、そして「知」がここで出会ったことだろう。本書では、幻の交易国家・楼蘭の全貌をいきいきと伝えるのである(しかし、1931年刊行の本だけに誤りも多く、訳者が巻末に60ページ以上の解説を加え、フォローしている)。
私たちの前には、「未知の知」が広がっている。私はそれに出会いたくて、東洋文庫をまた紐解くのである。
ジャンル | 歴史 |
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時代 ・ 舞台 | 中国(新疆ウイグル自治区)/B.C.2世紀~300年代 |
読後に一言 | 作家椎名誠さんも「楼蘭」に魅せられたひとりです。 |
効用 | 有名な「さまよえる湖」については、1章を割いて詳述しています。 |
印象深い一節 ・ 名言 | たえず移り変ってゆく時の流れのうちに、民族は興亡し、町々は栄え、かつ消えてゆく |
類書 | 新疆ウイグルでの新婚旅行記『トルキスタンの再会』(東洋文庫358) 各地の古代遺跡の様子も綴る『シリア縦断紀行(全2巻)』(東洋文庫584、585) |
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