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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『西遊草 清河八郎旅中記』(清河八郎著、小山松勝一郎編訳)

2014/05/01
アイコン画像    新撰組の前身・浪士組を作った男が
半年かけた諸国漫遊で見たものとは?

 〈……北辰一刀流の達人らしく眼が鋭い。気力充溢(じゅういつ)し、態度は満堂をのんでおり、いかにも不適な感じがした。なるほど世間がさわぐだけのことはあった。当代一流の人物とみていい〉(司馬遼太郎『燃えよ剣』新潮文庫)


 『燃えよ剣』の主人公・土方歳三の「清河八郎」評である。清河は浪士組(のちの新撰組)の中心人物だったが、尊皇攘夷の思想が危険視され、幕吏によって暗殺されてしまう。まだ34歳だった。

 早々と表舞台から去ってしまったため、取り上げられることが少ないが、「当代一流の人物」という表現が気になって手に取ったのが、『西遊草』。清河八郎(「清川」とも書く)による、諸国漫遊日記である。

 この旅は、清河26歳の安政2(1855)年、半年をかけた母親連れの大旅行で親孝行も兼ねていた。郷里山形を出発し、新潟から長野に入って善光寺参り。名古屋に抜け、伊勢参りを済ませ、奈良・京都・大阪の見物。岡山から香川に渡り、金毘羅参り。次に広島・宮島をお参りし、岩国の錦帯橋見物で往路は修了。復路は、有馬温泉で湯につかり、東海道を通って鎌倉へ。古都見物のあとは江戸観光地巡り。さらには日光東照宮にお参りして故郷へ帰参。という、はとバスツアーも驚く濃い中身である。

 本書は、旅の様子を克明に記しながら、時々の思いをつぶやく、いわば江戸版ツイッター。その中の一節に、「当代一流の人物」と言われた所以を見つけた。


 〈天下の事情を知らないと、つい目先の利益に走り、不義も無礼も顧みず金儲けに専念する〉


 まるで現代日本を批判しているようですね。……それはともかく、清河が「天下の事情」を知ることが大事であると考えていたことがわかる。それゆえの諸国漫遊ではなかったか。だが人は、嫌な事実(≒天下の事情)は知りたくない(これは現代でも同じだ)。安政年間は大地震が頻発したことでも知られているが、こうした地震が起きていない地域は他人事だと考えていた。それが身近で起きると……。


 〈酷(ひど)い災いを自分の目で見ないうちはどんなに昔から言い伝えがあるにしても、さほど恐れもしないのだが、今度は自分ではっきりと目で見たのだから大衆の心は何となく恐れるのである。これが愚かな世俗の風である〉


 清河、見えている。「当代一流の人物」に偽りなし、だ。

 彼なら現代日本をどう見るだろうか。私はぜひ聞いてみたい。

本を読む

『西遊草 清河八郎旅中記』(清河八郎著、小山松勝一郎編訳)
今週のカルテ
ジャンル日記/紀行
時代 ・ 舞台幕末の日本
読後に一言清河いわく、旅のコツは、〈いつでも他人の心をそらさぬように〉することだという。するとどこでも〈家人同様に心易く〉なって、気分よく旅が出来る。金銭の多寡ではないそうだ。
効用幕末の日本の風俗(しかも名所ばかり!)がよくわかります。
印象深い一節

名言
〈考えてみると人生はまことに夢のようである〉
類書幕末の官吏・川路聖謨の佐渡奉行時代の日記『島根のすさみ』(東洋文庫226)
幕末から明治を生きた女性の日記『小梅日記(全3巻)』(東洋文庫 256ほか)
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