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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『金谷上人行状記 ある奇僧の半生』(横井金谷著、藤森成吉訳)

2010/10/21
アイコン画像    名僧に勝るとも劣らない? 江戸時代の
ぶっとんだ奇僧、金谷上人ここにあり。

 名僧の一休も良寛も、凡人のモノサシで見れば、奇人変人である。だからこそ、あの境地に至ったともいえるのだが、奇人変人ぶりでは、この2人を軽ーく凌駕するトンデモない僧(しかも立派な境地にはまったく達しない!)を、東洋文庫で発見してしまった。

 その名を、金谷(きんこく)という。『金谷上人行状記』とは、彼の書いた自伝なのである。で、こんな具合。


〈(9歳の金谷上人は、寺に向かう途中で)マンマと落馬。さいわい怪我はなかったが、生涯いろいろの御難(ごなん)をなめられる上人にとって、これが最初の、いや、糞壺の御難(2歳の時に雪隠に落ちている)を第一番とすれば、第二番御落馬の御難、これである〉


 ジャパンナレッジ「日本人名大辞典」で見てみよう。

〈江戸時代中期-後期の僧、画家。宝暦11年生まれ。京都金谷山極楽寺の住職で、金谷上人とよばれた。与謝蕪村の画風をまなんだとされる。諸国を旅したのち名古屋にすみ、みずからの放浪と奇行をかいた「金谷上人御一代記」をのこす。金谷焼とよばれる陶器もつくった〉


 放浪と奇行! まさにその通りである。

 9歳で寺に修行に出るが、11歳で彼女をつくって駆け落ち。14歳で江戸に出て、改心して仏教を学ぶも、途中でくじけて遊郭通い。尼僧を襲って破門されるも、茨城に逃げて農家の婿に。ところがやっぱり江戸の暮らしが懐かしくなり遁走。……この書物、248ページあるのだが、ここまででまだ17ページ。で、この後、気の向くままに放浪し、長崎や天草に行ったり、子作りに励んだり、修験者になったり、富士山にのぼったり、とまあ忙しい。

 金谷上人を奇人たらしめているのは、〈始めれば何でも熱中するクセ〉と、〈一たび飽きれば我慢できぬ〉という性質にあった。ある地では船の操縦に凝り、バクチや凧揚げにも熱中した。脈絡は一切ナシ、思いつくまま、だ。

 しかしこの破天荒な生き方になぜか、ぐっときてしまうのである。なぜかと思ってつらつら考えていたら、「把住放行」という禅の言葉を思い出した。がしっと物を握りしめ(把住)、その手をぱっと放す(放行)。緊張と緩和だ。金谷上人、まさに「把住放行」の繰り返しなのである。真剣に取り組むかと思えば、大胆に放り出す。一休や良寛と異なり、何を残した訳じゃないが、この「把住放行」の思い切り(言い換えれば、振り幅)が、他者を惹き付けるのだろう。

本を読む

『金谷上人行状記 ある奇僧の半生』(横井金谷著、藤森成吉訳)
今週のカルテ
ジャンル自伝
時代 ・ 舞台江戸時代中期~後期
読後に一言ある意味、大物?
効用器の大きさではなく、振り幅で勝負する。そんな道もある。
印象深い一節

名言
どっちへ変っても思い切ったとこへ行くのが上人の性(さが)。
類書奇人・淡島寒月の随筆『梵雲庵雑話』(東洋文庫658)
200余人の奇人伝『近世畸人伝・続近世畸人伝』(東洋文庫202)
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