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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 201

『日本の茶書1』(林屋辰三郎、横井清、楢林忠男編注)

2014/05/22
アイコン画像    「仙薬」からペットボトル飲料へ
茶書で読み解く茶の移り変わり(1)

 先日、スーパーでのこと。老夫婦が緑茶のペットボトルを箱買いしていた。そうか、お茶は「煎れる」ものじゃなく「買う」ものになったんだと妙に納得しました。「急須で煎れろ!」なんて野暮なことを言いたいんじゃありません。お茶は変化する、ということを実感したのです。

 伊藤園のwebによれば、1990年、伊藤園が「世界初のペットボトル入りの緑茶飲料を発売(1.5リットル)」とありますから、お茶=買う、という時代がほぼ四半世紀続いているということなのでしょう。「職場におけるOLの『お茶』に関する実態調査」(象印/2012年5月)によると、「職場でよく飲むドリンク」は、(1)お茶(紅茶やハーブティーを含む、89.8%)、(2)コーヒー(69%)、(3)水(46.5%)だそうです。で、急須の自宅所持率はというと、20代は57%、全体では77%。これを多いとみるか、少ないと考えるか。

 日本の代表的な茶書を網羅した『日本の茶書』を読むと、茶が変化していることに納得します。まずは、日本に茶を広めた禅僧・栄西(臨済宗開祖)の「喫茶養生記」の有名な一節。


 〈茶は養生の仙薬なり。延命の妙術なり〉


 〈頻(しきり)に茶を喫すれば、即ち気力強盛なり〉


 700年代まで遡れる日本の茶の歴史ですが、定着までいたらず、1191年に栄西が茶を持ち帰ってから、茶が普及します。その時は〈仙薬〉――そう「薬」でした。


 〈茶はまず禅僧や上流階級で社交の具として飲用され、鎌倉時代の末ごろには、茶の産地を当てる遊びの闘茶や茶かぶきも盛んになった〉(ジャパンナレッジ「ニッポニカ」)

 薬は、すぐに〈社交の具〉となり、やがて〈遊び〉に。茶は変化し続けます。そして、〈織田、豊臣時代に千利休が出て今日の茶道の基礎をつくった〉(同前)わけです。

 急に「茶道(ちゃどう)」などと文化になってしまうんですね。で、その頃の茶人がこういうわけです。


 〈上を麁相(そそう)、下を律義に、信在るべし〉(「山上宗二記」)


 地位の高い人は粗末に、下の人には丁寧に。良いことを言っているようですが、結局、身分の上下を持ち込んでいるじゃないか、とヒネクレ者の私は思ってしまいます。上下を気にするからこその発言ではないか、と。

 ちなみに、まだこの当時は抹茶です。私たちが急須で煎れるような煎茶はまだ登場していません。お茶の変化はまだまだ続く……というわけで次回に続きます。

本を読む

『日本の茶書1』(林屋辰三郎、横井清、楢林忠男編注)
今週のカルテ
ジャンル実用/芸能
時代 ・ 舞台鎌倉時代から江戸初期の日本
読後に一言八十八夜からは遅れてしまいましたが、5月はお茶の季節です。「ゆるゆる」とお茶を味わいたいものです。
効用「茶書」とはいえ、その当時の一流の文化人の筆によるもの。名文揃いです。
印象深い一節

名言
亭主も客も、心静かにゆるゆるとして、座敷に有り付き候ように(座敷に落ちついていられるように)有るべき事(「古田織部伝書」)
類書代表的茶書を収集した『中国の茶書』(東洋文庫289)
栄西も活躍した時代を描く『日本中世史』(東洋文庫146)
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