1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。
学んだら仙人になれる!? 4世紀中国の仙道の集大成本 |
あぁ、仙人になりたい……。
前回の続き、というわけではありませんが、「仙人になるためにはどうしたらよいか」が書かれた『抱朴子 内篇』が東洋文庫にラインナップされているので、今回はこれを元にとことん、仙人への道を探ってみたい(本気です)。だって仙人になったら、こんな感じですよ!
〈仙道を会得した人は、雲の上に飛び上がることもできれば、川や海の底にもぐることもできる〉
著者の葛洪(かっこう)は、4世紀に活躍した〈中国、東晋の思想家〉で、〈早くから神仙導養の術を好み、従祖の葛玄(葛仙公と号した)の弟子鄭隠(ていいん)から煉丹(れんたん)の秘術を学んだ〉(ジャパンナレッジ「世界文学大事典」)人物だ。
で、この『抱朴子 内篇』を貫いているのは、「仙道・仙人は実在する!」という強い信念だ。たいていは、それが知識人であっても、〈世渡りの才と当世向きの小技の持ち主で、啓蒙的な書物を一渡り見て、それでもって手近な常識を料理し……〉、仙人の存在を認めない。このことを葛洪は強く批判するわけです。で、ここがポイント。
〈神仙道は学ぶことができる!〉
解説によれば、〈仙人学んで至るべしという理論は、ほとんど抱朴子の独創的な理論〉だそうだ。どうです? 仙人への道が見えてきましたね。
さあ核心です。仙人になるには、どうしたらいいか。
(1)〈精を惜しむこと(房中術)〉
(2)〈気をめぐらすこと(呼吸法)〉
(3)〈一種の偉大な薬(金丹)を飲むこと〉
〈すぐれた師匠に会わず、努力を重ねなければ、急には知り尽くすことはできない〉との但し書きはありますが、この3つ、〈それだけで事足る〉のだそうです。
(1)は男女の交合です。しすぎてもいけないが、しないのもいけない。達人になると、交合しても精を出さず、逆に相手の精を取り込むことができるんだそうな。(2)は呼吸法。これも無駄に吐き散らしちゃいけない。(3)は錬金術の世界ですからねぇ。うむ……。
〈それだけで事足る〉といっても、さすがにこれは難しい。しかし葛洪、こう断言しています。
〈求めても得られぬことはあっても、求めないで得られることは絶対にない〉
〈求めても得られぬこと〉を恐れては前に進めない。ならば求めよ。真理ですな。……はい、身に染みます。
ジャンル | 実用/宗教 |
---|---|
時代 ・ 舞台 | 4世紀の中国 |
読後に一言 | 望んでいるだけでは何も手に入らない、ということなのでしょう。 |
効用 | これ以上の仙人本はありません。 |
印象深い一節 ・ 名言 | 太陽のように明らかな事でも、人は伏せた甕の下につっこんでおく。これではどうして真理をつかめよう?(「巻二 論仙」) |
類書 | 本書の姉妹編ともいえる儒書『抱朴子 外篇(全2巻)』(東洋文庫525、526) 仙人も多く登場する同時代の怪異小説集『捜神記』(東洋文庫10) |
ジャパンナレッジは約1900冊以上(総額850万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。
(2024年5月時点)