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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『囲碁発陽論』(名人井上因碩著、藤沢秀行解説)

2014/08/28
   「不断桜」と称えられる詰碁集の名作
その裏には“強烈な努力”があった!

〈黒には生きるだけのフトコロの広さはないように見えます。しかし、巧妙な手順があります〉(「生図の部」第7題=黒先)

 と出題されても、囲碁のまったくわからない私には頭を抱えるしかないのですが、本書『囲碁発陽論』の解説が、あの藤沢秀行と知って紐解きました。

 藤沢秀行といえば、〈豪快、華麗な棋風と酒やギャンブルにまつわる型破りな生き方で囲碁ファン以外の人をも魅了したプロ棋士〉で、〈タイトル獲得・優勝は計23回を数え、斬新で飛躍的な発想は「異常感覚」とも呼ばれ、対戦相手を震え上がらせた〉(ジャパンナレッジ「イミダス」)という稀代の碁打ちだ。その氏が、「不断桜」とも呼ばれた(いわく、「桜(花=手筋の華)をたやさない」ほどの詰碁集)、『囲碁発陽論』に取り組んだのだから、「これは何かあるぞ」と思ったのである。

 〈一千五百余件の中十が一を摘(えりぬ)く一百八十余件を撰述せり〉という詰碁集『囲碁発陽論』(「発陽論」とも)の著者は、名人井上因碩(いんせき)こと井上道節(解説では三世因碩となっているが、途中で系図が変更され、正しくは四世)。棋界のトップ、碁所(ごどころ)を務めた実力者で、師匠・本因坊道策の跡継ぎ問題で揉めたとも言われているが、70余年の長寿を全うした。

 因碩が60代後半で完成させた詰碁集を前に、藤沢秀行は言う。


 〈名人因碩が研鑚琢磨した血の結晶であり、おそらく、人一倍、あるいは人二倍の努力をしたのであろう。そうでなければ、これほどの詰碁集をつくれるはずがない〉


 「異常感覚」と称された藤沢が、〈人二倍の努力をした〉と名人を称する。天才が努力を褒める図に、やや違和感を持ったので、いろいろと調べてみると、東京下町は下谷の小野照崎神社に氏の石碑があることがわかった。そこには、弟子に残した最後の言葉が刻まれている。


 〈強烈な努力〉

 さらに氏は言う。 

 〈これだけは伝えたい/強烈な努力が必要だ/ただの努力じゃダメだ/強烈な、強烈な努力だ〉


 藤沢秀行にとっての“努力”は、碁盤に人生を刻み込むような凄まじいものなのだ。だからこそ、名人因碩の努力に共振れしたのだろう。

 生半可な努力しかしてこなかった私には、〈強烈な努力〉という言葉が、強く突き刺さった。

今週のカルテ

ジャンル趣味
時代 ・ 舞台江戸時代中期(1713年刊行)
読後に一言2010年のアジア大会では、囲碁は「スポーツ種目」として採用されました。今回の仁川大会では外れてしまいましたが、囲碁を五輪の正式競技にしようとする運動は続いているそうです。
効用碁をやる方には、垂涎の書でしょう。
印象深い一節

名言
石立位(いしだてのくらい)は囲碁の陰也。見分る手段は陽なり。陰陽協和なき時は全備なりがたし。(跋)
類書中国・元代の詰碁『玄玄碁経集(全2巻)』(東洋文庫387、390)
囲碁エピソード集『爛柯堂棋話(全2巻)』(東洋文庫332、334)
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