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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 698

『ヤージュニャヴァルキヤ法典』(井狩弥介、渡瀬信之訳注)

2014/09/11
アイコン画像    排泄の仕方から結婚生活まで指示
古代インドの行動規範の書

 ジャパンナレッジのサイトがリニューアルされて半年が経とうとしていますが、東洋文庫の裏技をひとつ。「詳細検索」で東洋文庫を選び、検索欄には何も記入せず検索ボタンをクリックします。すると、ジャンル、地域、国名の数字がすべて表示されるんですね。中国系の文学を読みたい場合は、「文学」「中国」にチェックを入れると、『捜神記』など25タイトルが表示されるというわけです。何を読もうか迷っている時はとても便利です。

 で、フラットな状態で国別の登録数を見ると、日本が1位、中国が2位なのは当然として、3位に入っているのは韓国ではなく、実は「インド」なのです。先日もインドの首相が来日し、盛り上がっておりましたが、東洋文庫もまた、インドとの結びつきが強いのです。

 というわけで、ヒンドゥー社会の法律書であり、生き方の規範ともいえる、『ヤージュニャヴァルキヤ法典』(6世紀頃の成立か)を紹介しましょう。


 〈本来的な正しい生き方(ダルマ)、実利(アルタ)、愛(カーマ)について、それぞれ疎かにならぬよう最善を尽くすべし〉


 ヒンドゥー社会では、これがすべてを貫く基本です。特に、「ダルマ=正しい生き方」を詳細に記したのが、本書と言えましょう。しかし読み進めると驚きます。なにせ排泄や洗顔の仕方、結婚生活まで、事細かく記載されているのですから。

 さらに(これはさまざまな宗教が孕んでいる問題ですが)、女性の扱い方は、現代女性からすれば噴飯物でしょう。だって、こう断言するのです。


 〈スラー酒を飲む(酩酊する、の意)女、病気の女、嘘つき女、子を産まない女、浪費女、不愉快なことを言う女、女ばかり産む女、男を憎む女は[夫に]別に妻を持たれて当然である〉


 一応、フォローの文言はあって、〈別に妻を持たれた女は扶養されるべき〉で、そうしない夫は大きな罰をうけるというのですが、女性からすれば一方的な条件です。

 さらに本書は、評価すべき人物として、〈思いやりのある者、悪意のない者、知恵ある者、清廉な者、家柄のよい者、妬みのない者……〉と挙げます。「家柄のよい者」というところに、カースト制の問題点を見てしまいますが、よく考えたら日本もそうですよね。現内閣の半数近くが2世or3世議員なのですから。家柄のよくない私は、「正しい生き方」を心がけるとします……。

本を読む

『ヤージュニャヴァルキヤ法典』(井狩弥介、渡瀬信之訳注)
今週のカルテ
ジャンル法律/宗教
時代 ・ 舞台3~6世紀のインド
読後に一言「規範を求める」というのは、人間の性(さが)なのかもしれません。指示されたがっているのです。
効用一文、一文が短く、ちょっとした箴言集のようです。とんでもない記述も多いのですが……。
印象深い一節

名言
[人は]知識、職業、年齢、親類、財産に関し、この順序によって尊敬されるべきである(第一巻 行動の準則)
類書人生の三大目的のひとつ、愛(カーマ)『完訳カーマ・スートラ』(東洋文庫628)
ヒンドゥー教を解き明かす『カーストの民』(東洋文庫483)
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