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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと約700冊! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『ペルシア放浪記 托鉢僧に身をやつして』(A.ヴァーンベーリ著、小林高四郎、杉本正年訳)

2014/09/18
   語学力を武器にアジア各地を
めぐったハンガリー人の記録

 平均的な所得の半分を下回る世帯で暮らす17歳以下の子供の割合を示す「子供の貧困率」が、2012年に16.3%と過去最悪を更新したという。6人に1人が貧困、ということだ。一方で、100万ドル(約1億円)以上の資産を保有する、日本の富裕世帯数は124万世帯(ボストンコンサルティンググループ「2014年版グローバルウェルス・レポート」)で世界3位。この意味することはおわかりですね? そう、日本はすでに格差社会なのです。

 貧困は子供のせいではない。しかし実害を被るのは子供だ。ハンガリー人のヴァーンベーリの生涯もまた、貧困なしには語り得ないものである。自伝的著書『ペルシア放浪記』によれば、口減らしのために、12の時に家を追い出されたという。ひとりで食い扶持を稼げ、ということだ。ヴァーンベーリにはしかし、抜群の記憶力と、それを駆使した語学力という武器があった。彼はこの武器だけを手に、世界にうって出るのである。


 〈いったいいかなる労苦が、どのような仕事が、青春の情熱を抑えつけたり、熱意をくじけさせたりすることができたであろうか?〉


 『アラビアン・ナイト』を愛読していたヴァーンベーリは、アジアを〈空想的な冒険の国〉と考え、アジアを旅することを夢見たのだ。まずはヨーロッパとアジアの境界であるトルコに入り、さらにはイラン、トルクメニスタン、アフガニスタン……とアジアを旅する。盗賊に襲われたり、サソリに噛まれたりと、困難には事欠かない。

 故郷ハンガリーから追い出されてから20年。アジアを回ったヴァーンベーリは、旅の最後に、イギリス、フランスと回り、最後はハンガリーに戻ってくる。ハンガリーにおいて大学教授の職を得た彼は、すでに30歳を過ぎていた。

 そしてこの言葉でこの本を(ある意味では「旅=放浪」を)締めくくる。


 〈――私は異常な労苦と艱難にみちた荊棘(いばら)の道を歩いてきたが、そのことは決して後悔すべきではないと思う。そして、私の生涯に落日の残照が近づいたとき、私は依然として言うであろう。

 「暑い日だった。しかし、晴れていた!」〉

 ヴァーンベーリの旅を追体験してきた私には、彼の上に輝く太陽が見えた気がした(ちょっと泣けました)。

 子供時代に貧困でも、意志によって道は開ける。しかしその道は、〈荊棘の道〉であることも事実である。

今週のカルテ

ジャンル紀行/伝記
時代 ・ 舞台1800年代のアジア(トルコ、イラン、アルメニア、トルクメニスタン、アフガニスタン)、ヨーロッパ(ハンガリー、イギリス、フランス)
読後に一言企業の収益改善よりも、まずは「子供の貧困率」改善の対策に手を打って欲しいと切に願います。
効用ヴァーンベーリのもうひとつの武器は、本人いわく「慇懃と明朗さ」だそうです。苦労の連続ですが、本人は朗らかです。
印象深い一節

名言
もし野心が人に知られず、また存在もせず、あるいは鈍っていたとするなら、いったい人生は何に値いするのだ!
類書著者も愛読した『アラビアン・ナイト(全18巻+別巻)』(東洋文庫71ほか)
14世紀のアジア旅行記『東方旅行記』(東洋文庫19)
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