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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『列女伝2』(劉向著、中島みどり訳注)

2014/10/02
アイコン画像    女性は「男の願望」の先を行く?!
『列女伝』に見る、シャーマン的女性

 前回、『列女伝』とは何か、という根本が抜け落ちていたので、今回はおさらいを兼ねて本書を紹介します。

 『列女伝』は、〈古代から漢代に至る中国婦人〉の伝記(逸話集)で、それを内容ごとに「母儀伝」、「賢明伝」(1巻)、「仁智伝」、「貞順伝」、「節義伝」(2巻)、「辯通(べんつう)伝」、「孼嬖(げっぺい)伝」(3巻)の7つに分類。〈各一五人ずつ集録し、その略伝・頌・図説を付〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)したものだ。

 例えば、『列女伝2』の「魯漆室女」(仁智伝)という話。

 魯の漆室という場所に、適齢期(注によると、漢代では20歳までに結婚するのが一般的で、15~30歳が適齢期)を過ぎた女性がいた。ため息ばかりついているので、隣の女性が不憫に思い、良い相手を紹介すると言うと、自分が悲しんでいるのはそんな些事ではないと返す。


 〈わが御主君がお年を召していて、太子がお小さくていらっしゃるのを心配しているのですよ〉


 隣家の女が、そんなことは婦人(おんな)の知ったことじゃないと笑うと、この女はきっぱり。


 〈魯の国に心配事ができれば、君臣も父子も、みながその辱めを受け、下々の者にまで禍いが及びます。婦人(おんな)たちだけが避けられるわけじゃないのです〉


 女が予言した通り、3年後に魯の国内は乱れ、他国に侵略を受けた。女はひとり、見通していた、という話。

 『列女伝』は、男性から見た、“都合いい女性”を登場させているのは否定できない。男の願望だ。しかし「魯漆室女」のような、賢いゆえに予見してしまう女性が多く登場する(特に第2巻収録の「仁智伝」)。その的中率は神がかり的だ。

 と考えて「待てよ」と思った。日本でも、卑弥呼のようなシャーマン的な指導者がいる。卑弥呼はこれまで、〈鬼道にすぐれ、未婚であり、弟が国政を助けていた〉(同「国史大辞典」)と言われてきたが、彼女は賢いゆえに予見してしまっただけではないのか? 私を含め、アホな男はそれに気づかず(あるいは認めたがらず)、勝手に「呪術的」と捉えてしまった。思考の棚上げである。

 『列女伝』でもそうだ。男の都合のいいエピソードを記しているつもりが、そうした男の思惑のはるか上をいく女性が、数多く登場するのである。男の思考の枠を軽々と飛び越える女性――。と感心するのは私が男だからで、女性からしたら、それが当たり前かもしれませんね。

本を読む

『列女伝2』(劉向著、中島みどり訳注)
今週のカルテ
ジャンル伝記/説話
成立した時代紀元前1世紀の中国(前漢)
読後に一言解説によれば、こうした女性の予言に対し、〈男たちはしばしばそれに従わず、結果として不吉な予言は適中〉してしまうのだとか。女性の“賢さ”を男性が生かし切れていないのですね……って現代も同じですが。
効用「仁智伝」や「節義伝」など、第2巻は、賢くて強い女性が数多く登場します。
印象深い一節

名言
(敵に攻められ、二人の子連れでは助からないと、わが子を殺した女性のひと言)自分の子〔を愛するの〕は私(わたくし)の愛でございます。兄の子〔を助けますの〕は公けの義でございます(「節義伝」魯義姑姉)
類書古代中国の祭祀『漢書郊祀志』(東洋文庫474)
漢の経済論争『塩鉄論』(東洋文庫167)
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