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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『増補 山島民譚集』(柳田国男著、関敬吾・大藤時彦編)

2014/10/23
   柳田国男を読むことでわかる、
『妖怪ウォッチ』ブームの理由

 『妖怪ウォッチ』がすごいらしい。

 ゲームソフトは1、2あわせて360万本。アニメも好評で、映画も今冬公開される。私も入手して遊んでみたが、これが結構よくできている。で、気になってジャパンナレッジで「妖怪」を検索してみると……。


 〈人の知恵では理解できない不思議な現象や、ばけもの。変化(へんげ)。ようけ。妖鬼〉(「日本国語大辞典」)


 用例によれば、『続日本紀』(777年3月19日条)にもこの言葉が見られるくらいだから、妖怪と日本人の付き合いは長いのだ。さらに検索を続けると、〈柳田国男は河童を水の神の一変形とし……〉(「妖怪変化」の項、「国史大辞典」)という記述を見つけた。待てよ、東洋文庫には柳田国男のテキストがあるじゃないか! ということでたどり着いたのが、『増補 山島民譚集』である。これは柳田初期の作品だが、この中の「河童駒引」こそ、〈柳田国男は河童を水の神の一変形とし……〉のそれなのである。

 文章は本人も「再版序」で述懐しているように、決してこなれた文章ではないが、中身は頗る面白かった。

 まず柳田は、各地の河童の事例をこれでもかと並び立てる。その上で、こんな問いを立てるのだ。


 〈此世ノ中二河童ト云フ一物ノ生息スルコト、既二動カスベカラザル事実ナリトスレバ、次デ起ルハ其河童ハ動物ナリヤ、ハタ又鬼神ナリヤト云フ一問題ナリ〉


 「河童は存在する」と言っている人たちを否定するのではなく、ではいったい何なのか、と一歩踏み込む。その上で、今度は地域によって「見た目」が違いすぎることに着目し、こう結論づける。


 〈今迄ノ人が河童ナリト認メテ写生シタル物ノ一二又ハ全部ハ正真ノ河童ニテハ非ザリシコト是ナリ〉


 ではいったい何なのか。160ページの大論考なので、その過程は追わないが、柳田は、河童は「水の神の一変形」と結論づけるのだ。ポイントは、「河童の存在」があらゆる人たちにとって「都合が良かった」ということだ。

 『妖怪ウォッチ』では、開発チームがまず現代の子供たちの悩みをリサーチしたそうだ。で、子供たちの周囲の嫌なこと――両親の喧嘩やはかどらない勉強、友だちとの喧嘩は、すべて「妖怪」のこととした。これがミソ。

 と考えると、『妖怪ウォッチ』のスタンスと、柳田国男が分析した河童と日本人の関係はまさに一緒。あるいは『妖怪ウォッチ』人気はこのあたりにあるのかも。

今週のカルテ

ジャンル民俗学/説話
刊行年 ・ 舞台1914年/日本
読後に一言柳田には『妖怪談義』という名著もあります。
効用柳田国男の思考の仕方、展開の仕方が、非常によくわかります。
印象深い一節

名言
このやゝ奇を好んだ一巻の文は、日本民俗学の為にもあとの港の燈の影のやうなものである。(再版序)
類書同著者の世相論評『明治大正史 世相篇』(東洋文庫105)
本書でも引用される『菅江真澄遊覧記(全5巻)』(東洋文庫54ほか)
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