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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 632|634

『想古録(全2巻)』(山田三川著、小出昌洋編)

2014/11/27
アイコン画像    あの芭蕉が隣家にいた!?
12月14日は赤穂浪士討入の日

 さて12月14日は何の日でしょうか?

 総選挙? そんな義なき話はしたくありません。「義」といえば忠臣蔵。赤穂浪士討ち入りの日です。

 いわゆる「赤穂事件」は、歌舞伎に浄瑠璃、落語や小説、映画にドラマと、今まで数多く作品化されてきました。〈この事件についての評価は、近代日本において教育の上でも、社会道徳の上でも、忠孝の手本とされ、国民道徳の上で師表とされてきた〉(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)のです。

 さてこの事件を、リアルタイムではどう見ていたのでしょう? そこで取り出したるは、江戸時代後期の儒者、山田三川(やまだ・さんせん/1804~1862年)によるエピソード集『想古録』です。これは、藤田東湖、川路聖謨ら、当時の著名人284人のエピソード計1141話を集めたもので、一種の伝記とも言えます。それが明治時代、改めて公表される形で新聞に載り、本書と相成りました。

 この中で、赤穂事件に言及しているのは20余り。結構なパーセンテージです。で、中にはこんな人も。


 〈赤穂四十六士の仇を打ちたる夜は、吉良邸の隣家に俳句の会ありて……〉


 元禄15年12月14日の夜、よりによって隣家の句会に出席していたのは、あの俳聖・松尾芭蕉です。さて芭蕉はどうしたか。各地に散る門人に、その日のうちに顛末を記した書状を送ったというのです。


 

 〈(かつて社中のひとりが)日の恩や忽ち砕く厚氷、と詠みしを其時は左までの句とも思はざりしが、今日志を果し、忠義を全うしたる上にて之を見れば、大いに味ひあるを覚ゆるなり〉


 恩義は厚い氷をも砕くと詠んだ源吾の句を、わざわざ思い出して再評価したというのです。さらに、幕府がどう判断するかわからないが、浮かばれない時は、社中で石碑でも建ててやろうとまで書かれています。これ、本当だったらすごい話ですが、どうやらこのエピソードを語った主の嘘 or 思い込みだったようです(芭蕉は元禄7年没)。

 他のエピソードも義士たちに好意的で、〈三歳の孩児(こども)も義士の姓名を諳記する〉ほどだったとか。他にも、大石内蔵助が掛け軸を破いてしまった際、持ち主は立腹したが、討入後、「これは家宝だ!」と持ち主が喜んだ話などなど、世間は一斉に彼らを称えたのでした。


 さて「義」とは何なのでしょうか。

 今年の12月14日、私はじっくり「義」について考えたいと思います。

本を読む

『想古録(全2巻)』(山田三川著、小出昌洋編)
今週のカルテ
ジャンルジャーナリズム/伝記
連載年 ・ 舞台1892~1898年/日本
読後に一言これは「東京日日新聞」の連載記事ですが、これを掲載したという英断に拍手を送りたいです。
効用他にも興味深いエピソードが満載です。江戸知識層の考え方がわかります。
印象深い一節

名言
見て以て昔を知り、読で以て古を想ふの談に止め、其の讒謗誹譏、徳を損じ、名を瀆すべぎものゝ如きは一切取らず、読者、冀くは先づ此旨を諒せられよ(「東京日日新聞」掲載時の宣伝文句)
類書有名無名200余の人物評伝『近世畸人伝・続近世畸人伝』(東洋文庫202)
江戸中期のエピソード集『耳袋(全2巻)』(東洋文庫207、208)
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