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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 422

『東洋の理想他』(岡倉天心著、佐伯彰一、桶谷秀昭、橋川文三訳)

2010/11/11
アイコン画像    明治の思想家・岡倉天心が英語で世界に訴えた、これからのアジア&日本の進むべき道。

 このところアジアが不穏である。

 ここ日本では、WEBで検索すれば、何でもヒットするのが当たり前だが、かの国では、それがままならない。そもそもネット環境が整備されていない国だってある。しかし「アジア」と一区切りにされてしまっている。

 で、自分なりに思考を整理しようと思い立ち、古典的名著を手に取った。岡倉天心の『東洋の理想』である。


 〈アジアは一つである〉


 『東洋の理想』の有名な冒頭の一文は、戦前の「大東亜共栄圏」を連想させるからと嫌う人もあるだろうが、頭から否定しては面白くない。実際、「ヨーロッパは一つである」とやって、作ってしまったのがユーロではないか。

 であるならば、もう一度、平和的かつ経済的な意味合いで、岡倉天心の唱えた、〈アジアは一つ〉を持ち出してきてもいいのではないか。


 岡倉は、こう予言している。


 〈伝統から断ち切られたインド、その国民性の精髄たる宗教生活を失い不毛と化したインドは、卑賎なもの、虚偽と新奇の崇拝者となり果てるだろう。また、中国が道徳的文明のかわりにひたすら物質文明に専心するに至れば、あの古代以来の尊厳と倫理はたちまち死に瀕して苦悶に身をよじらせるに違いない〉(『東洋の理想』)


 100年以上も前に書かれたとは思えない。慧眼だ。


 大雑把にいえば、『東洋の理想』で岡倉がやろうとしたことは、芸術という軸で、アジア(中国とインド)と日本を検証し直すことであった。自分たちの立っている場所を自覚するということであった。過去を否定しては、未来にはたどり着けない、というスタンスだ。


 それを踏まえた上で、岡倉の檄を読む。


 〈アジアの兄弟姉妹たちよ! われわれはながく理想の間をさまよってきた、もう一度現実に目ざめようではないか。(中略)われわれは、水晶のような透明な抑制を誇りとして、たがいに孤立してきた。いまや共通の悲惨の大洋の中で溶け合おうではないか〉(『東洋の覚醒』)


 欧米の列強諸国が、アジアに侵略する中、岡倉はアジアに向かって、「攻撃」ではなく、「自覚」を呼びかける。

 そうか自覚か……(「自覚が足りない」とは私が妻からよく言われる小言のひとつだ)。我が身をそれぞれが自覚したとき、アジアのあり得べき形が見えてくるのだろうが、その道は困難だ。それでも信じようか、未来を。

本を読む

『東洋の理想他』(岡倉天心著、佐伯彰一、桶谷秀昭、橋川文三訳)
今週のカルテ
ジャンル思想
時代 ・ 舞台明治時代
読後に一言明治の美術評論家・思想家である著者が語った理想を、21世紀の今、さてどう受け止めるべきか。
効用知らなかったアジア像が見えてきます。
印象深い一節

名言
内からの勝利か、しからずんば、外からの強大な力による死あるのみ。(『東洋の理想』)
類書中国を知るには『四書五経』(東洋文庫44)
インドを知るには『ニーティサーラ』(東洋文庫553)
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