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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 249

『東西遊記2』(橘南谿著、宗政五十緒校注)

2014/12/11
アイコン画像    18世紀後半のニッポン旅(2)
「西遊記」で神に出会う

 このところ思うところあって、日本の神話を読みふけっている。不遜な読み方を許されるなら、例えば『古事記』はエロティックで世俗的だ。で、神話では、天照大神の命を受けた孫のニニギノミコトは、日向(ひむか)の高千穂峰に降臨したと言われている。そこが、鹿児島と宮崎の県境にそびえる霧島連山の高千穂峰だ(と言われている)。坂本龍馬がお龍と「日本初の新婚旅行」で訪れ、天逆鉾を抜いたという例の場所ですな。

 この山に、橘南谿も登っているのである。『西遊記』(『東西遊記2』)には、鹿児島県の記述が群を抜いて多いのだが、ここが神話の地だということも無関係ではあるまい。

 南谿いわく、高千穂峰はこういう山だった。


 〈霧島山格別の高山にして、殊に火もえ、風動き、其外種々の神変、不思議、怪異、珍奇多く、登るもの不時に紛失する事抔(など)毎度の事ゆえに、薩州の人といえども恐れて絶頂に至る者すくなし〉


 実際、途中で同行人も引き返すほどの事態だったが、南谿はここまで来て引き返すのは悔しいと、単独で登頂。


 〈絶頂は尖りて、纔(わず)かの地面に天の逆鉾あり。是を見得しときのうれしさ何にかたとえん〉


 ここには〈大蛇〉や〈野馬(やば)〉という化け物が出るという記述もあり、神域ゆえに怪異が当たり前と受け取られていたようだ。

 さて言い伝えの中には、ニニギは東シナ海を海路北上し、川内(せんだい)川のほとりに都を造ったという話もある。ニニギの子孫はやがて九州から、瀬戸内海を通って、熊野、大和と東上していった。

 ここからは個人的な妄想に過ぎないが、言い伝え通り、大和朝廷が鹿児島に端を発したとするならば、日本を揺るがすものは、鹿児島から発するといえるのではないか。戦国時代を一変させる銃が伝わったのも鹿児島。キリスト教が伝来したのも鹿児島。維新も薩摩が中心だ。そして2014年、原発の再稼働も神話の地・川内から始まろうとしている。神域に現代の「神の火」を灯す。皮肉と言うべきか、必然と言うべきか。

 話を『西遊記』に戻そう。南谿によれば、この霧島には雲居(うんこ)官蔵という名の仙人も住んでいたらしい。それを受けて、南谿は、自分もこの山に3日いたが、〈百分が一も見つくさず〉と言い、だからこそ仙人が住んでいてもおかしくないと考える。この謙虚さと冷静さ、個人的に見習いたいです。

本を読む

『東西遊記2』(橘南谿著、宗政五十緒校注)
今週のカルテ
ジャンル紀行
時代 ・ 舞台1780年代の日本
読後に一言自分の足で歩き、自分の目で見る。実地体験の大切さを教わりました。
効用本書では国内だけでなく、オランダや清(中国)にも言及。南谿の知識の広さに感服します。
印象深い一節

名言
此書中にしるせる事、其事々々に付きて思い考うることも多けれども、わざと此書には愚按(ぐあん)を加えず。議論取捨は見る人の心にあるべし。(「凡例」)
類書神話の比較『増訂 日本神話伝説の研究(全2巻)』(東洋文庫241、253)
共同体の神話『風土記』(東洋文庫145)
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