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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『往生要集 1』(源信著、石田瑞麿訳)

2015/01/08
アイコン画像    終戦70周年の正月だからこそ
あえて“地獄”をみてみよう

 今年は、あの戦争から70年目の節目の年だ。

 それもあって、意図的に戦争体験記を読んでいるが、そこに頻出する単語が「地獄」という言葉である。戦争が地獄への道であることは、頭ではわかっているが、こうしていざ突きつけられると、しばし言葉を失う。


 新年一発目から恐縮だが、今回はこの「地獄」について考えてみたい。

 「悪いことをしたら地獄に落ちる」というのは、私たちが小さい頃には有効だった言い回しだが、平和な世の中にあって「地獄」は死語に近い。『絵本 地獄』(風濤社)が30万部超のベストセラーになったのも、「地獄」が実感できない世の中であるという証拠ではないか。

 地獄――この言葉を広めたのは、源信(恵心僧都)という天台宗の僧侶である。時は10世紀末。末法思想の世の中である。源信は極楽往生を説いた『往生要集』を記す。この〈「往生要集」の詳細な地獄描写が広く浸透したこともあり、一般の人々の間に言葉として定着した〉(ジャパンナレッジ「日本国語大辞典」)のだという。


 源信によると、大きく分類して地獄は8つ。

(1)等活地獄……罪人は互いに攻撃し合う。

(2)黒縄地獄……鬼は、〈熱い鉄の墨縄で縦横に(罪人の)からだに墨をう〉つという。

(3)衆合地獄……たくさんの鉄の山があり、はさまれたり、落ちてきたりする。

(4)叫喚地獄……例えば罪人を〈熱い釜になげこんでぐつぐつ煮たりする〉。

(5)大叫喚地獄……これまでの地獄の〈すべての苦しみに十倍した重い〔苦しみ〕を受ける〉。

(6)焦熱地獄……例えば罪人を〈熱い鉄の地面の上に横たえ〉るなどする。

(7)大焦熱地獄……これまでの地獄の〈一切の苦しみに十倍する重い〔苦しみを〕受ける〉。

(8)阿鼻地獄……これまでの地獄をあわせた苦しみより、〈千倍も勝っている〉。


 源信いわく、私たち人間は、〈どこもかしこも臭く穢れていて、はじめから腐りただれている〉。いわば〈始めより終りまで〔まったく〕不浄〉の存在だ。それなのに驕り高ぶり、欲にまみれている。そのゴールは地獄。源信の理屈は極めて明快だ。かつての戦場の「地獄」もまた、人間の罪の報いでもあったのか。


 地獄から逃れる術はあるのか――。その答えは次回に。

本を読む

『往生要集 1』(源信著、石田瑞麿訳)
今週のカルテ
ジャンル宗教
時代 ・ 舞台平安時代の日本
読後に一言「この道しかない」というレトリックに騙され、またしても過ちを繰り返すのか。それとも過去から学び取り、踏ん張ることができるのか。
効用ダンテに優るとも劣らない、地獄の描写です。
印象深い一節

名言
生あるものは貪りの心でみずからを包みかくし、深く五官の欲望に執着して、永遠でないものを永遠にあるものと思い、楽しくはないものをも楽しいと思っている。(第一章「総結」)
類書同年代の仏教説話『三宝絵』(東洋文庫513)
源信も登場する説話集『今昔物語集(全10巻)』(東洋文庫80ほか)
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