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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫 161

『中国・朝鮮論』(吉野作造著、松尾尊兊編)

2015/03/26
アイコン画像    日本人は「反省が嫌い」が伝統だった!?
民本主義・吉野作造の政治評論を読む

 「反省すべきところを反省し……」というフレーズが、政治家の常套句になって久しい。「責任は私にある」と軽々しく口にするのもそうだけど、結局こうした言い回しは、“口だけで行動を変えない”と言っているようなものである。なぜこんなことがまかり通るのかとずっと不思議だったのだが、哀しいかな、これはどうやら日本の“伝統”だった。

 民本主義で有名な吉野作造の評論集『中国・朝鮮論』所収の「対外的良心の発揮」に、こんな一節を見つけた。


 〈我が国民は、由来政治問題に関する道徳的意識は甚だ鈍い〉


 ようは政治家の法律違反を問題視していないから、そういう問題が起こると吉野は見ているのだ。

 「対外的良心の発揮」は、日本による植民地支配に抵抗する闘争「三・一独立運動」について主に論じているのだが、この中で“反省”についての面白い記述を見つけた(まさにこの論文の肝である)。

 吉野は朝鮮の独立運動を評価し、それを糾弾する人間に異を唱える。


 〈一言にして言えば、今度の朝鮮暴動の問題に就ても、国民のどの部分にも「自己の反省」が無い。凡そ自己に対して反対の運動の起った時、これを根本的に解決するの第一歩は、自己の反省でなければならない。たとい自分に過ち無しとの確信あるも、少くとも他から誤解せられたと言う事実に就ては、なんらか自ら反省するだけのものはある〉


 これは切れ味鋭い指摘だ。三・一独立運動は、政治・外交の問題ばかりではなく、私たち日本人に「自己の反省」がないことこそ問題である、と吉野は言うのだ。

 吉野の論から100年近く経っているにもかかわらず、この指摘は今なお有効だ。なにせ私たちは、反省する人間よりも、「私は間違っていない!」と絶叫する人間に“強さ”を見出し、リーダーとしてあがめているのだから。

 そう、“私たち”が反省をしたくない国民だからこその、この日本の状況なのだ。侵略戦争、従軍慰安婦……こうした言葉に、日本人の一部が過敏に反応するのも反省したくないからと考えれば腑に落ちる。

 反省とは、〈自分のしてきた言動をかえりみて、その可否を改めて考えること〉(ジャパンナレッジ「デジタル大辞泉」)だ。その本来の意味を噛みしめたい。

本を読む

『中国・朝鮮論』(吉野作造著、松尾尊兊編)
今週のカルテ
ジャンル政治経済/評論
時代 ・ 舞台20世紀初頭の日本、中国、朝鮮半島
読後に一言〈いずれにしても、我々の自己反省を欠くの態度が、今日どれだけ外交的失敗の原因を為して居るか分らない〉という吉野作造の指摘に、深く考えさせられました。
効用解説によれば、この時代、朝鮮統治政策批判を繰り広げた知識人は、吉野作造以外ほとんどいなかったそうです。
印象深い一節

名言
単に日本に反対するからといって、それだけで彼等を不逞呼ばわりするのは、極端にして褊狭なる国家主義者のことである。(関東大震災までの朝鮮論「朝鮮青年会問題」)
類書三・一独立運動を描く『朝鮮独立運動の血史(全2巻)』(東洋文庫214、216)
日本に併合される直前の朝鮮の姿を伝える『朝鮮の悲劇』(東洋文庫222)
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