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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアの古典・名著がズラリそろって、その数なんと850点余! 後世にぜひ引き継いでいきたい、まさにアジアの文化遺産なのです。

そんな珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、あなたを面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

東洋文庫
『日本教育史(全2巻)』(佐藤誠実著、仲新ほか校訂)

2015/04/09
   『古事類苑』編修長が記した大作
神代から辿る、日本の教育&文化史

 4月になってからジャパンナレッジで基本検索をした方は「おおっ」と思ったかも知れません(私もそのひとり)。〈明治・大正年間(一八六八―一九二六)に編纂されたわが国最大の百科史料事典〉(ジャパンナレッジ「国史大辞典」)である『古事類苑』が、4月1日から基本検索で検索できるようになったのです。これで、今まで以上に世界が深まります(私はパソコンの前でひとり興奮してしまいました)。

 そこで勝手にこれを記念して、『古事類苑』に関係の深い書物を紹介することにしました。編纂の後期に関して、〈佐藤誠実の功績が特に大きかった〉(同前)といわれる、考証学者・佐藤誠実氏の『日本教育史』です。

 本書は、明治時代に出された書物でかつ「師範学校教科用書」であり、「文部省総務局図書課校定」ですから、国家神道的思想で記述されています。例えば、神代の「医術」についてはこう記されます。


 〈医方も、又太古に起れり。大己貴命(おおむなちのみこと)は、稲羽の白兎の為に蒲黄(がまのはな)を取りて、痍傷(いしょう)を療し……〉


 一方で、きちんと前政権も評価しています。


 〈今日教育の隆盛を馴致(じゅんち)せしは、抑(そもそ)も(徳川時代)二百余年泰平の余勲と謂はざるを得ざるなり〉


 「教育史」と名づけられているので、狭義の意味に取られがちですが、本書はいわば「文化の歴史」を詳述した書、といってもいいでしょう。神代から明治まで、あらゆる知識、資料を総動員して記述していくのですから、完成までのその困難の道のりは想像に難くありません。

 取り上げるジャンルも多様です。ざっと目についた項目をあげてみますと、〈太占〉〈温泉〉〈陰陽道〉〈蹴鞠〉〈射術〉〈裁縫〉〈彫刻〉〈洋学〉〈印刷〉〈水練〉〈煎茶〉〈貿易〉〈幼稚園〉……とあらゆるジャンルを網羅しています。〈女子教育〉という項目を特に立てていることも目につきました。「教育史」というよりは「文化史」(思想史、技術史といってもいいかもしれません)である、という意味がおわかりでしょう。

 本書と『古事類苑』は、ほぼ同時期の執筆だったようですが、第1巻付録「文学博士佐藤誠実先生小伝」(山本毅堂)によれば、『古事類苑』編修長を受けた佐藤氏は、〈爾来(じらい)孜々(しし)として倦まず、十有三年宛も一日の如し……〉といった態度で編纂に当たったそうです。文化とはこうして積み重ねられていくのですね。

今週のカルテ

ジャンル教育/歴史
刊行年 ・ 舞台明治時代の1890・91年刊行/日本
読後に一言ほんと、学問に近道はないなあ、とシミジミ思いました。
効用日本の文化の流れをじっくりと辿ることができます。
印象深い一節

名言
今の学生たる者は、古今教育の景況を通考して、聖恩の隆渥(りゅうあく)なるを感謝し、刻苦勉励して、国家有用の人と為り、無彊(むきょう)の聖旨に答へ奉らざるを得んや。(第一篇 総説)
類書日本初の図入り百科事典『和漢三才図会 (全18巻)』(東洋文庫447ほか)
『古事類苑』編纂員が記した日本工芸の歩み『増訂 工芸志料』(東洋文庫254)
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