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1963年に刊行がスタートした『東洋文庫』シリーズ。日本、中国、インド、イスラム圏などアジアが生んだ珠玉の作品の中から、毎週1作品をピックアップ。 1000文字のレビュー、そしてオリジナルカルテとともに、面白くて奥深い「東洋文庫」の世界へいざないます。

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『今昔物語集1 本朝部』(永積安明・池上洵一訳)

2015/04/30
アイコン画像    仏よりも“フシギ、大好き”
3週連続「今昔物語集」~その1

 誰もが名前を知っていて、部分的に読んだことがあるけれど、通読したことがない――。残念なことに、そんな作品がたくさんある。恥ずかしながら『今昔物語集』もそうした作品のひとつだ。芥川龍之介が「美しい生まなましさ」と評したことも知っているが、それだけ。知識偏重で経験がない。これはいかん、と腰を据えて通読することにした。ジャパンナレッジの「新編 日本古典文学全集」で原文を読むのもいいけれど、てっとりばやく、ということで、現代語訳の東洋文庫版を手に取った。

 訳者の「解説」に、〈本朝部の冒頭は、仏法の伝来から弘布、さらには隆盛へと、さながら仏法伝来弘通絵巻ともいうべき展開を見せる〉(『今昔物語集6』)とある。『今昔物語集』は、全1059話が、インド編の天竺部(1~5巻)、中国編の震旦部(6~10巻)、日本編の本朝仏法部(11~20巻)、本朝世俗部(22~31巻)に分かれているのだが、本朝部冒頭とは、「本朝仏法部」のこと。実際、第一話は「聖徳太子、本朝に初めて仏法を弘め給う語(こと)」、二話は「行基菩薩、仏法を学んで人を導く語」と、仏教受容の立役者である聖徳太子と行基の説話。ところが、第三話を読んで驚いた。「えんの(え)の優婆塞(うばそく)、呪を誦持して鬼神を使う語」といきなり、呪術者のえんの小角(えんのおづの)を登場させるのだ。仏教のありがたさを語るというよりは、乱暴に言えば、「仏教<フシギ」、なのである。ムムムと思い、読んでいくと、魚が法華経に代わる話(巻12-27)、苦行して仙人になる話(13-3)……とフシギ話のオンパレード。

 極めつけは、「久米仙人」の話(11-24)。

 修業をして仙人になった久米が、空を飛んでいたところ、吉野川で若い女が洗濯している。


 〈着物を洗うため、女が股(もも)まで裾をたぐり上げている、その股のまっ白いのを見て、久米は愛欲の心をおこして心を汚してしまい、その女の前に墜落した〉


 何ともスケベで情けない久米仙人だが、結局、この女と結婚し、一般人として暮らす。ある日、人夫として駆り出された久米仙人は、昔取った杵柄、術で材木を運び、その褒美で天皇から土地をもらったというハッピーエンド。その土地に寺を建てたので仏教譚といえないこともないが、決して抹香クサイ話ではない。むしろ人間味溢れるフシギ話といえるだろう。とはいえ、現代社会の私たちの基準で「フシギ」というだけであって、この当時の人にとっては当たり前なのかもしれませんが。

本を読む

『今昔物語集1 本朝部』(永積安明・池上洵一訳)
今週のカルテ
ジャンル説話
発表年 ・ 舞台平安末期の日本
読後に一言東洋文庫の1巻目(11~13巻)が予想以上に面白かったので、まずは本朝仏法部(東洋文庫『今昔物語集』の1~3巻)を3回連続で集中的に読んでいくことにします。
効用「女子、死後蛇の身を受け法華を説くを聞き蛇身を脱れる語」(13-43)もフシギでイイ話でした。
印象深い一節

名言
善政をおこなえばたちまち福が来、悪政をおこなえば必ず禍いが来ます(11-1)
類書今昔物語集も採用した仏教説話集、その1『日本霊異記』(東洋文庫97)
その2『三宝絵』(東洋文庫513)
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